第49章
七回、あとアウト九つ。僕は主審に再び守備交替を告げた。
マウンドにリズ、姉が右翼。リズは何度も前の打者が敬遠されて悔しい思いをしたからか、吹っ切れたような表情になっていた。
九番の松居に対し、リズは速球だけで三振にとった。遠慮なく腕が振れている。百二十キロを超えているかも知れない。女子としては豪速球だ。
一番に戻り、投手の牧田。三球目をうまく押っつけられ、一塁強襲安打。イレギュラーバウンドが脚に直撃したが、三田村は無表情。痛覚がないのか?
走者が出て苦手なセットポジションからの投球、対するは上位打線。
まずい展開ではある。七対三、四点リードを守りきれるか。
二番小野寺。リズはチェンジアップから入ってストライク。二球目、速球が浮いて暴投になってしまい、スタートを切っていた牧田は悠々二塁へ。それで動揺したのか、結局フルカウントから四球。
森田が打席に入る時、にやついていたのが不審だった。
初球、森田はチェンジアップを狙い打ってあっさり右中間を割った。蘭ちゃんが先に追いつき捕球、後から来た姉に渡して、中継の桐谷さんへ矢のような返球。牧田はもうホームを踏んでいたが、小野寺は三塁で止まった。
森田には球種の癖がばれているのか。
七対四、なおも一死二三塁。ホームランなら同点の場面で、先程ホームランの四番中井に回ってしまった。
敬遠したいところだが、満塁になったらリズでは厳しい。しかし姉をもう少し休ませたい。
愛ちゃんがタイムをとり、内野が集まる。
まだここは四球を計算に入れつつ勝負でいい。愛ちゃんが笑顔でリズのお尻を強めに叩いた。本当にお母さんみたいだ。リズは冗談っぽく頬をふくらませている。
内野はやや深めの守備。リズは初球、インロー一杯にいい速球を決めた。それが常に投げられれば、男子にも通用するはず。
ただ、中井の打撃は相手チームで最も危険だ。やや無駄があるように見える大きな構えから脚を高く上げ、いともすんなり自分のスイングに持っていく。
二球目は速球がワンバウンド。そこからチェンジアップを二球続けて、いずれも低めにボール。スリーボールワンストライク。中井なら打ってくるカウントだろう。
リズはサインをゆっくり確かめ、投げた。腕の振りは速球に見えたが、やや遅い。打ちごろの球を中井は強烈に引っ張った。打球はスタンドに入ったが、わずかにポールの右に切れた。
それを予想していたのか、打球を見送ったリズはにやっと笑った。スピードを抑えて打ち急がせる、愛ちゃんの案だろう。フルカウントに追い込んだ。これならボールになる球でも勝負できる。
サインに頷き、リズが投げたのはアウトハイの速球。中井は打ち返したがやや差し込まれた。直前のスローが効いた。左翼に高いフライが上がっているが、思ったより伸びる。左翼にいるのは……どっちだ?詩織か。
あれ、詩織はピンチが苦手って言ってたよな?




