第5章
そして、その日曜。朝六時に起きて軽くストレッチ、その後で久し振りに触ったグラブの紐を点検してみる。まあ別に僕が何かやるのか否かも知らないけど、万全の準備をするのは癖になっている。
「なあ姉、もう起きる時間じゃないのか」
「んむゅう、あとじゅうごふにゅん」
「それじゃ完全に遅刻だろ。ほら、起きろよ」
「ふにゅる……もうそんな時間?」
「う、ほら、ちゃんとパジャマのボタン閉めとけよ」
「ん、なになに、お姉ちゃんの見たい?」
「俺、今日行くのやめよっかな」
「わわわ、ちゃんと起きるから。て言うかもう起きたよ。しゅばっ」
「うん、ズボンも上げような」
場所は河川敷らしい。ひょっとして、この間見かけた女の子もメンバーだったんだろうか?
姉は自転車で僕より先を行くが、変にきょろきょろしてて危なっかしい。でもやはりと言うか、何事もなく到着。
「んー、一番乗りかな?今日はさ、十人くらい集まりそうなんだよ。拓のおかげだね。拓大好き」
「それあんまり外で言うなって」
「あ、あの車、たぶん美嘉ちゃんだ。大学の友達なの」
姉が美嘉ちゃんと呼んだ人の車が停まり、四人出てきた。みんなジャージとか運動する服装ではあったけれど小綺麗な感じで、さすが大学生は違うな、と思った。
と言うより、なぜか姉の交友関係は美人が大半を占める。類は友を呼ぶってやつか。
でもそのうちの一人、ちょっと横に大きい女性を僕は知っている。姉とバッテリーを組んでいた女ドカベン、伊藤愛美だ。年上だけど小さい頃から知っているので、僕も愛ちゃんと呼んでいた。でも実際、少し痩せた気がするのと、ゆるいパーマのロングヘアでかなり女らしい印象になっている。
「おはよ。拓ちゃん、久し振りだねー」
愛ちゃんは僕に真っ直ぐ歩いてきて肩をばしっと叩いた。昔は一メートルくらい吹っ飛ばされていたが今は平気だ。
「おー、やっぱ、しっかりしてるわ。いや立派になったねー」
「ほんとに久し振りですね」
「うわわ、敬語とかやめて。うわわわ、えーん舞、あたし拓ちゃんに嫌われたあ」
愛ちゃんは大げさに姉にすがりついて嘘泣きを始めた。
「よーしよし、いい子いい子。拓、愛に変な気を遣わないの」
「変な気って何だよ。わかったけど」
「わー、ほんとにあの村上拓馬くんだ」
後の三人のうち、二人が僕らの前まで来た。運転していた活発そうなスポーツ眼鏡のショートカットの女の子と、いかにもお嬢様といった感じのふわふわした茶髪の女性。
「あ、どうも。姉がお世話になってます」
「へえ、テレビでは小さな大投手って言われてたけど、そんなに小さくないんだね」
「舞ちゃんに似て、弟くんも可愛いですわ」
「あーっ、何よ薫、可愛いって」
「うん?美嘉ちゃん妬いてるの?安心して、美嘉ちゃんが一番可愛いですわ。うふふ」
「ほんと?でも私にとっては薫が一番だよ。えへへ」
何だかわからないが、いきなり女同士でいちゃいちゃされて僕がちょっと混乱しているところに、さらに最後尾、西洋のモデルみたいな金髪の女性が近づいてきた。腰の位置がめちゃくちゃ高い。