表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/66

第4章

 いくつか送られてきた大学のパンフレットを見ていたら、ドアをノックする音がした。


「拓、入っていいかな」

「いいよ。何だよ姉」


 静かに入ってきた姉は、少しだけ真剣な顔をしていた。


「あ、大学のこと調べてたんだ」

「うん。姉、聖沢大ってどんなとこ?」

「野球部のこと?設備も良いし、レベル高いよ。今年のリーグ戦も勝ってるし」

「野球部だけじゃなくてさ。その、まあ俺よくわかってないんだけど、大学ってもの自体」

「うちの大学は……大学ってどこもそうなんだけどね、広くて綺麗で自由だよ。大学でやりたいことがある人はそれを頑張るし、ない人は遊びを頑張ってる、って感じ。拓は今、野球の他にやりたいことあるのかな?」


 僕はしばらく黙って考えた。僕から野球がなくなったら、後には何があるだろう。勉強?就職?どうも現実感がない。


 とか思って油断していると姉が「ていっ」なんて言って、僕をベッドに押し倒してきた。


「うわ、何すんだよ」

「たまにはお姉さまに甘えたらどうなの」

「うるせ、子供扱いすんな」

「やだ。甘えなさい。ほら、甘えてよ」


こうなると姉は強い。弱くないのに弱さを武器にしてくる。僕は仕方なく、姉と並んでベッドに寝転がっていた。満足気に僕の頬をつついてくる。弟っていうよりペットのような扱いだと思う。


「あ、そう言えば。お姉ちゃんね、草野球始めたんだよっ。しかもメンバーみんな女の子で」

「……膝は大丈夫なのかよ」

「え、もしかして心配してくれてる?嬉しいにゃん」

「いや別に」

「素直じゃないなー。先生も大丈夫だって言ってくれてるし、多い時でも週二しか動いてないから平気なのだよ。ふふん」

「軟式?」

「あんなゴムのおもちゃじゃ物足りないね。硬式に決まってるじゃん。まあ硬球だって、ソフト投手の百十キロに比べたらおもちゃみたいなもんだし」

「でも女子で硬式って、人数集まってんのかよ」

「……そこで、ちょっとお願いがあるにゃん」

「何だよ」

「週一でいいから、拓もちょっと顔出してくれないかな。甲子園のアイドルがいれば絶対、人も集まると思うの。お願い。お姉ちゃん一生のお願い」

「姉の一生は何回あるんだ」

「いいじゃんか、来てよ。んーっ」


 姉はふくれっ面でぐるぐるパンチを打ってきた。けっこう本気で痛い。


「あーわかった、じゃあ行くから。いつだよ」


 僕が折れると急に嬉しそうな表情で「わあ、来てくれるの?次は明後日だから、よろしくね。拓大好きっ」なんて僕を突き転がし、後ろからしがみついてくる。


 姉というのは、なんて理不尽な生き物なんだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ