第38章
五番、上本。あまり捕手としてチームを引っ張るような印象はないが、相手チームの中で最も野球を知っている気がする。愛ちゃんに一塁で刺された直後、ベンチから対リズ作戦を指示したのもたぶん上本だ。
姉の速球を二球バントの構えから見送り、そこからファールを二球続けた。その後、際どいコースを二球見てカウントはツーボールツーストライク。
「おー、私の速球についてくるとはね」姉の自信はどこから出てくるのか知らないが、百二十キロ程度の球は男子なら特別でも何でもない。スピンの質とコントロールの良さのおかげでとらえるのは難しいが、当てるだけなら簡単なはずだ。
七球目、真ん中付近への投球。しかしフォームに若干の違和感があった。良いタイミングで打ちにいった上本は、しかし膝をつくようにフォームを崩され空振り。愛ちゃんはミットを下にして捕球していた。
落ちた。今のはフォークだ。
そう言えば、姉の指は僕より長い。よく巨人扱いされているけど、身長というより長い腕や指の見た目の印象が強いのかも知れない。かなりの落差だったように見えた。
「拓、見た見た?大魔神フォーク」
「たしかに、あれはすげーな」
「ここ一番に温存しておったのじゃよ」
「いや……あるなら普通に使えよ」
「えへへー」
姉はこういう、底知れなさを演出するのが得意だ。しょっちゅう僕にもいろいろ秘密にする。




