第37章
相手チームは主審に意味不明なブーイングを浴びせていたが、野球のルールだから仕方ない。
とにかく一点追加して五対二になり、三回を迎える。
「姉、最後まで投げられそう?」
「任しといてにゃん」
正直、姉はスタミナに不安がある。昔は走るのが大好きだったのに、怪我してからは運動量が激減している。走っている姿を全然見ない。
二番の小野寺。引っ張り警戒と言いたいが、姉の球速とコーナーを突くコントロールなら大丈夫だろう。
しかし小野寺は投球直前にバントの構え。姉と前田、遅れて三田村も前進。そこでバットを引いて見送り。アウトローにストライク。
次の球もバントの構えから見送ってボール。次もバント見送りでストライク。僕は作戦に気づいた。目的は姉の体力を削ることだ。
結局、最後は投前にバントして一塁アウト。姉は余裕の表情だが、まずい。三番、森田までも同じ作戦だ。バットを引いてストライク。
「ふーん」
姉は不敵な笑みを浮かべると、二球目、いつもと同じフォームから思いきり山なりのスローボールを投げた。そしてボールが届く前に歩いて前進。前田、三田村を引き連れて打者ぎりぎりまで寄る。森田は見送り、ボールはホームベースを上から下に横切ってストライク。
「あー、楽ちん」
姉は打者を挑発してからボールを受けとってマウンドに戻り、また投球動作に入った。
森田はさっきから苛立っているはず、ヒッティングに切り替えてくるぞ。
そう思ったら、姉はいかにもゆったりしたフォームから快速球を投げてきた。案の定バスターを狙っていた森田はスピードの変化に対応できず、形にもなっていない空振りで三振。バットを叩きつけて悔しがった。
姉は恍惚といった感じのいやらしい笑みを浮かべていた。変態だ。
四番中井もツーストライクまでバントの構え、そこから四球粘って遊ゴロに打ちとったが、佐伯さんが一塁へ悪送球。こちらのダグアウトに入ってボールデッド、二死二塁。
「美嘉、ドンマーイ」
姉は余裕の表情だが、この分だとおそらく最終回まではもたない。それでもごまかして抑えてくれるか?下位の時だけはリズに投げてもらうか。しかし対リズ作戦をやられて状況を悪化させてから姉登板だと、かえってまずいかも知れない。
では投手の経験がない前田をマウンドに上げるか?前田ならきっと何とかしてくれる、ような気もする。




