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第34章

「やっとエースのお出ましかよ」


 打順は一番に戻り、牧田。立ち位置は普通だし、あの作戦を行うのは下位打線だけだろう。


 さっきの捕邪飛を見た感じでは、釣り球に弱い印象がある。姉の浮き上がるフォーシームは苦手なはず。ただ、姉の実力を知っているようだし、何もしてこないとは思えない。


「スクイズ警戒」僕が叫ぶ。


 姉のセットからの初球。姉が左足を踏み出したところで牧田はバントの構え、しかし三塁走者は飛び出さない。セーフティスクイズだ。


「ちょいなっ」姉が謎のかけ声と共に投げたのは、インハイにストライクの速球。


 牧田はその速さに押され、バントした打球が三塁側への小フライになった。前田のスタートが素晴らしい早さで、悠々と落下点に入った。走者は慌てて戻る。


 しかし前田は捕球を見送り、ワンバウンドさせてから拾い上げ本塁へ。好判断で本塁フォースアウト、愛ちゃんがそのまま一塁の三田村に送球してダブルプレー。


 三田村がバントシフトを把握していなかったおかげで、前進せず一塁に張りついていたのだ。ベースカバーもいなかったし、怪我の功名と言っていいか。


「よっしゃあ、さゆ、ナイス判断。さゆはワシが育てた」

「はいっ。育ててくださってありがとうございます」


 ベンチに帰ってくる際の会話、おそらく前田のほうは冗談であることを理解できていない。なんか軍隊みたいだ。愛ちゃんはそのやりとりを見て笑っている。


「あ、あの……」申し訳なさそうで耳真っ赤な蘭ちゃんが謝ろうとしたのを、僕は制した。


「蘭ちゃん、あの打球によく追いついた。立派にやってくれてるよ。ほら、手袋してネクストに行っておいで。バッティングは、打てそうな球だけ打ちにいけば大丈夫だから」


「あ、はい。あのっ、ほんとにすいまへにゅでふはっ」


 動揺が大きいほど噛むらしい。落ち着いてできれば、守備走塁は期待したくなるんだけど。


「タクマ……」リズは気まずそうにもじもじしてきた。


「リズ、初めてで一イニング完璧に抑えたんだから、喜んでほしいな」

「そ、そうかな?」

「うん。それで……さっきは守備を交替しただけだから、またリズが投げることもできるんだ。姉が疲れたら、その時はまた投げてほしい。どうかな」

「えっ、私また投げていいの?」

「もし嫌なら、姉に最後まで投げてもらうけど」

「わかった。それまではフィールディンとバッティンがんばるね」

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