第25章
「みんなー、試合決まったよん」
「えー、もう試合?私まだセットポジションも覚えてないよ」
「リズ、貴様に投げる機会があるとでも思っているのか」
「いやっ。私、そのモードの舞は怖いから嫌いだもん」
「ふにゅう、ほんとはもっと早くやりたかったんだけど、なかなか相手が見つからなくてね」
「姉、その相手っていうのは?」
「坂上大学のくそチャラい野球サークルの男共。相手からの条件は、こっちが負けたら合コンに参加すること」
「えーっ?ばか舞、なんでそんな条件呑んじゃうのよ。私ぜーったい嫌だし。ほんとばか、ねー薫」
「そうですわ。美嘉ちゃんの言う通りですわ」
「そうだよ舞、あたしらに一言だって相談してくれないと」
「じゃっかあしゃいあっ」みんなに責められた姉が突然キレた。余りに大声すぎて、隣のグラウンドにいた小学生までこっちを見ている。
「ごちゃごちゃ言いよって、勝ちゃあええんじゃろが、おまえらあ」
「ちょ、ちょっと待って、落ち着けよ姉。耳が潰れるだろ。じゃあ、こっちが勝ったら何かあるのかよ?」
「うむ、マダックスの直筆サイン入りグラブが手に入る」
「え、本当に?」僕まで変な声を出してしまった。
マダックスのグラブ。たしかに、本物であれば何としても欲しい。しかし、それでやる気になる人間がこのチームにいるか?
「みんなー、拓は小さい頃からマダックスの大ファンでね、どうしても欲しいみたいよ。勝てばきっと、一番活躍した人にはチューくらいしてくれるよ」
「おい何言ってんだ」
「あっれー、拓はマダックス欲しくないのかな?意地張ってたら負けちゃうかもよ?」
「ぐっ……」
「じゃあこうしよっか。次の試合のMVPは、拓と一日デートできる権利を得る。私が許可する。どうだ貴様ら、やる気になってきたか」
そんなばかな。と思ったが、みんな割と真剣な顔をしている。特にリズはうずうずしている。
「オーケイ、勝てばいいのね?私、タクマとデートしたいの。だからスターターで出して。シャッタウしてあげるわ」
「わかった。じゃあ先発はリズに譲るね」
「ちょ、ちょっと待てよ。相手は大学生の男なんだろ?経験者が何人かいたら、もう厳しいだろ」
「やる前から負けること考えるばかいるかよっ」
「いやいや、冷静に考えたらだな」
「……ふふっ、わかったよ。じゃあ監督は拓に任せるわ」
「え、俺が?でも」
「はーいみんな、拓に監督してほしい人は手を挙げてっ」
結局、全員挙げた。すべて姉の筋書通りということか。アントニオ猪木も真っ青だな。
「仕方ないな……わかった。じゃあ最初に少し言わせて。
みんな、俺が個人的に欲しい物のせいで振り回してしまってすいません。でも正直、俺も勝ちたいです。ちゃんと野球やって、できれば勝つ楽しさも知ってもらいたいです。ひとりひとりの力を貸してください。頑張りましょう」
暖かい拍手に包まれた僕は、まだ不安だらけだった。相手が本気で来たら勝てるか?まあ最悪、僕が投げりゃいいか。いやダメか。




