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第11章

 みんな指示された場所に移動していくが、秋山リサだけが動こうとしない。僕は責任を感じて、何とかしようと思い立った。


「あの、秋山さん」

「……何よ」

「すいません。いや、なんか俺、勝手なことしちゃったかなーと思って」

「え?あ……あなたは、なんでそうなの?あなたは何も悪くないのに、なんでそんなふうに言うの?悪いのは全部私なのよ。私、ばかみたい、初めて会ったばかりなのに、あなたを攻撃したりして……」

「姉が、何か言ってたんじゃないんですか?うちの弟のほうが秋山さんのお兄さんより凄いんだ、とか何とか」


そう言うと、秋山リサは驚いた表情をした。これまたオーバーなくらいに。


「あ、あなたはエスパーなの?わたしの考えてること、全部わかるの?」

「いや、何となくって言うか、経験からの予測です。全部、僕が勝手にそう思っただけで」

「そうなの?でも、あなたの言う通り。私、嫉妬してたのね……ソーリイ。本当にごめんなさい。私、醜いわ」

「いいですって。そんなふうに、自分のことを悪く言わないで。ほら、もうみんなノック始めてますよ」

「あのっ、た、タクマ」

「え?」


 急に名前で呼ばれて、僕も驚いた。


「これからは私のこと、リズって呼んでくれる?」

「全然、いいですけど」

「あの、仲良く……してくれる?」

「そのつもりですけど」そう返事した途端、リズはいきなり抱きついてきて僕の首筋にキスをした。


「うわっ、え、え?」

「ありがと、タクマ。私、アウフィールダーね。またいろいろ教えてねっ」


 リズは外野に走っていったが、今の、誰か見てたんじゃないのか?僕は焦って周りを見回すと、幸いみんな気づいてなかったようだ。


 と思ったら三塁の前田と目が合って、氷の女王なはずの前田は今まで見たことがない真っ赤な顔で、ゆっくりと僕から目を逸らした。やはり見られてたようだ。


 前田の動揺は大きかったらしく、直後にあり得ないトンネルをしていた。前田もこういうのには弱いのか。うん、僕も弱いぞ。アメリカ式には慣れてない。


「拓、ノック打ってー」

「ああ。外から見てて思ったんだけど、意外にみんなできるんだなー。野球」

「みんなワシが、お姉ちゃんが育てた」

「そうですか。じゃあノックは任せといて」


 実際、内野は一塁を除いて普通にできている。問題の一塁、三田村はノーバウンドなら送球を捕れるんだけど、少しでもバウンドするとだめだ。まあバレーではバウンドしたら終わりだしな。しかもまったく避けないので、既に何回も球が脛に直撃している。無表情だけど大丈夫なんだろうか?


 外野はかなり問題なので、いったん全員中堅に集合してもらって、姉が合流して側でいろいろ指導しながらノックを受けていた。


 蘭ちゃんの脚、リズの肩、双子のフライ落下点指示の声は良い。しかしそれ以外のレベルが低すぎて、外野に飛んだら確実に失点しそうな有様だ。

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