第10章
ふと見ると、その姉はそろそろキャッチボールを切り上げようとしていた。
「はーいみんな、次は内野と外野に分かれてノックするよー」
どうも僕がノッカーをさせられるような気がする。それにしても、ポジションはもう決まってるんだろうか?ちょっと姉に訊いてみよう。
「姉、ポジションはもう確定してんの?」
「ん?あっ、そう言えば……まだだった。みんなごめーん、ちょっと集合して」
「……ちゃんと見通し立ててんのかよ」
「だって、人数が揃ったの今日が初めてなんだもん」
勢いだけで生きてる姉は、みんなの顔を見ながら、今更考え始めたようだ。
「えーとね……まず、バッテリーは私と愛で決まりなんだけど……うーん、うにゅうう」
「姉、ちょっといい?」
「どしたの、拓」
「投手と捕手はその二人で確定として、まず一塁は三田村がいいと思う。リーチがあって野手も投げやすいし、球を怖がらないから合ってるよ。
二塁は桐谷さん、遊撃は佐伯さんが良さそう。二人ともテニス経験者だけあって球への反応が良いし、どっちかと言えば瞬発力がある佐伯さんを遊撃で。二遊間は連携も多いしさ。
三塁はソフト時代から慣れてる前田で決まり。
それで……左翼は沙織か詩織、中堅は脚が速い蘭ちゃん、右翼は強肩の秋山さんかな。秋山さんは左投げだし、控え投手の候補に入れてもいいと思うよ。たぶん姉くらい球は速いし。まあ、まだ外野は多少考える余地があるけど」
僕が言い終わるとなぜかみんな、ぽかんとしていた。何かまずいこと言ったかな、と一瞬考えたが、ああ、みんな意味がわかってないのか。いや、どうなんだ?
すると、ようやく姉が口を開いた。
「拓って私たちの練習、前から見てた?」
「は?」
「……今のキャッチボール見ただけで考えたの?みんなのポジション」
「え、まずかった?いやでも、ちゃんと決めといたほうが練習しやすいだろうし」
「拓ちゃんの意見、あたしの考えてたのとほぼ同じなんだけどさ、やっぱ観察力が半端ないねー。さすが、小さな大投手だね」
「て言うか、もう私たちの名前覚えてくれたんだ。すごーい」
「まあ私、美嘉ちゃんの隣ですのね?嬉しいですわ」
「せやで、拓ちゃんは凄いねんで。さっきうちらも拓ちゃんにちょこっと教えてもろたら、めっちゃ投げれるようになったもん」
「そうそう、ほんまやで」
「ふん、リトゥーはそういう細かいとこだけは頭が回るみたいね」
「えー、なんでーな?リズちゃんも拓ちゃんのおかげでめっちゃ上手になったやん」
「ほんまほんま、うちも見ててんで。すっごい速い球になって、しゅるるるーて言うてたで」
「な、何よ。別にそんなことないもん。私は、私はリトゥーのアドヴァイスなんてなくたって……あ、うう」
秋山リサはみんなの視線を感じて気まずくなったのか、話している途中で黙ってしまった。うつむき加減な色白の顔が紅潮している。僕が出過ぎたせいか?なんだか少し心が痛い。
「よーしみんな、それじゃ拓が言ったポジションに移動してー」
姉が雰囲気を察したんだろう、明るめに声をかけた。




