25-1 魔神
レイルがフリードに向かって突っ込む。
その剣を、フリードはなぜか避けずに受け止めた。
もしかして、足下の魔法陣のせいで動けないとか? なら、チャンスだ!
結界の効果で消えきらない程度ギリギリの威力で火の矢を撃ちまくる。動けないってんなら、威力より数で勝負だ。防ぎきれないくらい数をぶつけて、少しでも傷を与えてやる。
「くっ、この! 調子に乗りおって!」
フリードは、風の壁を作って火の矢を防いだ。
あんだけの壁を一瞬で作れんのかよ。
だが、一旦下がったレイルの2撃目を受けたフリードは、一歩下がった。効いてないわけじゃない。
フリードの足下を狙う。これなら、風の壁が魔法陣に触れて消えちまうかもしれねぇしな!
「くっ…」
狙いどおり、風の壁が魔法陣に吸われて薄くなったらしい。火の矢が1~2本、フリードの足に当たって小さく燃え上がった。
残念ながら、結界と風の壁でかなり消されちまって、ほとんど威力は残ってなかったようで、すぐ火が消えちまったが、火傷くらいはいったかな。
「おのれ、なぜ魔法が使えるのだ!?
魔石など、とっくに空のはずだ!」
そうだな、レイルの魔石はそろそろ空だろう。自前の魔石の魔力は切り札として温存させたいし、俺の方で魔石に魔力を籠めるか。
火の矢の本数を減らす代わりに、左手に持った空の魔石に魔力を注ぐ。
本来、他人が籠めた魔力は使えないんだ、俺が何しようとしてっか、わかんねぇだろ。
レイルの方は、俺の狙いがわかってるようで、一旦引いてきた。
俺の前に立って、こっそり後ろに出してきた左手から魔石を受け取り、代わりに今魔力を籠めた魔石を渡す。
「この調子なら、なんとかいけそうかな」
レイルの言葉に、
「そうなりゃいいが、あの魔法陣、気になるよな。なんとか斬れねぇか?」
と言うと、
「難しい注文つけるね」
と答えながら、今度は右側に飛び出してった。
まぁ、地面に描いた魔法陣だと難しいだろうが、きっと頂点には魔法陣を刻んだ金属板とか使ってんだろう。そういうもんなら、レイルだったら斬れる。
俺じゃ、どうせフリードにはロクな傷も付けられねぇんだ、俺の役目はレイルが戦いやすいように援護することだ。
風の壁で消されきらない程度の威力まで上げて、火の矢を撃ち続ける。
正面から撃ってるだけじゃ牽制にもならねぇから、曲げて飛ばして、風の壁を作るにもいちいち神経使わせて。
地味な嫌がらせだが、フリードがレイルに集中できないようにすればいい。
あとは、レイルの方で対応してくれる。
多分、もうじきレイルが斬りかかる角度を変えて、背後に回るはずだ。
火の矢の威力をほんの少し落として数を維持しつつ、こっそり地面に魔力を這わせる。魔力が見えるフリードに勘付かれないようにすんのはかなり骨だが、こんな手は何回も使えねぇから、なんとか上手いことやらねぇと。
もう少しだ、魔力が魔法陣の手前まで届く。
レイルが弧を描きながら、フリードの背後に回る。
当然、フリードは後ろを向いてレイルの剣を迎え撃つが、その右手を狙う角度で、かなり大きな炎の槍を2本、曲折して叩き込む。こいつは、さっきまでの風の壁くらいじゃ防げないから、フリードも全力クラスの風の壁を右横に作って受け止めた。
今だ! こっそり送っといた魔力で、土の槍を1本、フリードの背中に撃ち出すと、左の肩甲骨の辺りに刺さった。が、刺さり方が浅い。フリード 、硬化の魔法まで使えんのかよ。
だが、その一瞬の隙を突いて、レイルが畳みかける。
俺の方も、また奴の背中に火の矢を撃ったが、こっちは風の壁であっさり弾かれた。
フリードをレイルに集中させないよう、風の矢を頭上から落としたが、ダメだ。野郎、一度奇襲を受けたせいか、俺の魔力の流れを追ってやがる。あっさり相殺された。魔力を感知できる奴って、こんなにやりにくいのか!
けど、無駄じゃねぇな。俺を無視できなくなった分、レイルに集中できなくなった。このまま攻めてりゃ、レイルが決めてくれるはずだ。
俺は、それを信じてフリードに隙を作るため、攻撃を続ける。
レイルの剣がとうとうフリードの左手を斬り裂いた。
落ちこそしなかったが、もう左手は使えねぇ。
「私の、勝ちだ!」
それなのに、フリードが吠えるように叫んだ。
その瞬間、さっきまで幻のようだった魔神の姿がはっきりと見えていた。




