24-4 封印の中で
光が収まると、俺達は灰色の光の中にいた。足下には魔法陣、その端には魔法陣が彫られた小さな金属板が6つ。
「なんだ、こりゃ」
金属板の少し外の地面──地面じゃなくて、魔力の板みたいなもんだが──から、半球状に魔力の壁で覆われてやがる。
空になった魔石を1つぶつけてみたが、金属板は何かに守られてるみたいにビクともしない。
これは、あれだ。魔法陣を壊さない限りどうにもならないってやつだ。
残り2個となったちっこい魔石を見ると、魔力の放出が止まってた。空になってないのに、魔力が吸われないようだ。俺が使おうとしても魔力を引っ張り出せない。
右手に握り込んだジークの魔法陣は全く魔力をよこさない。
周りにも、魔素の類はないし、どうなってんだ。
「レイル、魔法は使えそうか?」
レイルは変化を解いてるから、身体強化してないのか、してるのに俺の目に見えないのか、判断できない。
「使えることは使えるんだけど。
今、体の中にある魔力じゃ、大した力は出せないよ。
フォルス、魔石の数からすると、かなり強い魔法使ってたよね。あれは何?」
「ジークの剣の紋章だ」
右手の紋章を見せる。
「フリードが剣に宿した魔法陣使ってんの見て、試したらうまくいった。だが、ここじゃ魔力が湧いてこない」
「どこでも使えるわけじゃないんだ」
「多分、ルードの結界の中じゃねぇと魔力を引き出せないんだ。こっから出ないと使い物にならねぇな」
レイルの剣なら、多分この結界の魔法陣も斬れる。だが、それにはかなりの魔力がいる。魔石も紋章も使えないってのは、致命的だ。
目を閉じて考え込んでたレイルが、目を開けた。
「1つだけ、方法がある」
「あるのか!?」
「僕は、魔素がなくても魔力を練れる」
「なに!? できんのか、そんなこと!?」
「バッカじゃないの? 忘れないでほしいね、僕は人間じゃない。淫魔なんだよ。
君の精気を吸えば、魔力にできる」
精気? って、おい!
「どうやって吸うんだ? セシリアはいないんだが」
「気は進まないけど、直接吸うことになるね。ちょっと気を落ち着けてそのまま立ってて」
言われたとおり立ってると、レイルが俺の正面に立った。
「あれ? 吸えない?
…そうか、体から魔力を出せないのか…」
なんかよくわからんが、失敗したらしい。
レイルは、また考え込んだ後、俺を見た。
「仕方ない。直接吸うしかないね」
「今、失敗したんじゃないのか?」
「まあ、それも直接と言えば直接なんだけど…。要するに、ここでは、体の外には一切の力が出せないらしい。
つまり、体の中なら、受け渡しができるんだ」
「体の中って、おい」
「僕としても不本意なんだけどね。
でも、ここから出たいだろう?」
「そりゃ出たいが、まさかお前を抱けとかってんじゃないだろな」
「形としてはそうなるかな?
デメリットとしては、僕は、以後、君の精気しか受け付けなくなるんだけど…。まあ、君はずっと僕の相棒だから、不自由はしないか。
あ、もちろん、普段はセシリア経由で貰うから大丈夫。今までと変わらないよ」
いや、そういう問題じゃねぇだろう。
「そりゃ、もちろんお前は相棒だけどよ。セシリアがいんのに、お前抱くわけにゃいかねぇよ。そもそも、俺ぁお前を女として見たことなんてないんだが…」
確かにレイルの素顔は何度か見てるし、本当は女だって、頭ではわかってる。
けど、風呂行く時だって、お前、男に変化したまま一緒にいたじゃねぇか。
第一、お前抱いたら、そりゃ浮気だろう。
「だからさ、難しく考えないでよ。魔力の受け渡しするようなもんだって」
「けどなぁ…それって浮気だろうがよ」
少なくとも、セシリアがこのこと知ったらいい気はしねぇだろうなぁ。秘密にすんのも、なんか悪いことしてるみたいで嫌な気分だし。
「あのさ、ここ出られなかったら、二度とセシリアに会えないってわかってる?」
セシリアに会えない…そりゃそうだな。こっから出ないことにゃ、セシリアには会えないだろう。
「早いとこ僕に魔力よこしてよ。早くここ出てフリードを止めないと、やっと出たら魔神が復活しててセシリア殺されてるかもしれないんだよ。セシリア助けたくないの?」
セシリア…。そうだな、とにかく外に出ないと。
とはいえ、なぁ。レイルを、抱く? できんのか、そんなこと。
「で、どうするって?」
「一応、半分とはいえ淫魔だからね。体に触れさえすればその気にさせられると思うよ。
でさ、問題はここから出てからだよ。
フォルスは、またジークの紋章で魔法を連射してほしい。
あと、魔石に魔力移して僕に渡して。さすがに紋章持ってると剣を振るえないから。
君の精気を貰えば、僕の魔石はいっぱいになるだろうし、ここの結界の魔法陣を斬ってもしばらくは全開で戦えると思う。
ただ、僕には魔力追加のアテがないから、そこで勝負を決めないと難しい」
「ほれ、紋章だ。
外に出りゃ使えんだろ。魔力補充したら返せ。
俺はセシリアを守りたい。
方法はイマイチ納得できねぇが、ほかに方法がないのも確かだ。
じっくり考えてる暇もねぇし、さっさとここ出るぞ」
「やりにくいようなら、セシリアに見えるようにしたげようか?」
「バカ野郎、大事な魔力を無駄に使うんじゃねぇよ」
「ほんとに馬鹿だねぇ。
ほら、僕の方で絞り取ったげるから、早いとこ精気よこしなよ」
言うと、レイルは下だけ脱いだ。まぁ、鎧だの脱ぐと手間だからな。今は時間が惜しい。
「ん。やっぱ、君のはすごく馴染むね。
こんなに力が湧き上がってくるのは初めてだ」
手早く服を着直したレイルは、さっき渡したジークの紋章を懐に入れて剣を構えた。
俺も魔石を握りしめる。
「こっちもいいぞ。結界壊したらフリードがいるはずだ。気ぃ抜くなよ」
「そっちこそ。
じゃ、やるよ」
レイルは素顔のまま、身体強化と剣の強化をして、結界を作ってる魔法陣の板を次々と叩き斬った。
足下に光ってた結界の魔法陣が崩れて、目の前が真っ暗になる。
そして。
俺達は、元の場所に立ってた。空には満月が輝いてる。いつの間にか夜になってたらしい。
目の前には、揺らめく幻のような魔神の巨体と、それに向かって何かしてるフリードの姿がある。
「なに!? 貴様ら、どうやって封印を解いた!?」
レイルがジークの魔法陣で魔力を取り込んでる間に、最後の魔石の魔力を全部使って風の槍を飛ばす。
フリードが避けると同時に、レイルは俺に紋章を投げてよこしつつ突っ込んだ。
さぁて、短期決戦だ。全力で連射掛けるぞ。
フリードと再び対峙する2人。
全てにおいて格上のフリードから封印を守りきれるのか。
次回「ごつひょろ」25話「決戦」
守りたいのは、家族。