24-3 狭間
フリードが右手を挙げると、上から雷の矢が降ってきた。
避けながら、右手の魔石の魔力で風の刃をフリードにいくつも叩き付けたが、届く前にほとんど消えちまう。
もっと魔力を籠めて風の刃を飛ばす。でかい分、数が出せないが、届かないんじゃ意味がないからな。
フリードは剣を抜いて、風の刃を叩き落とした。レイルと同じように剣を強化できるのか。
レイルが駆け込んで斬りに行くが、フリードが剣を向けると、巨大な炎の玉がレイルに向かい、レイルは大きく下がるハメになる。
隠れてた剣士達は、3人とも初撃を避けたようで、それぞれフリードに向かうが、1人が剣を叩き斬られ、あっという間に斬り伏せられた。
あとの2人は、レイルがフリードと斬り結んでる間に背後から襲ったが、地面から生えた土の槍に貫かれた。
俺の方も、まともに魔法が使えなくてロクに牽制もできやしない。
ちまちま魔法を使い続けて、もうでかい魔石が残り少ない。仕方ねぇ。全力で身体強化して、レイルに魔石を渡す。その隙は、至近距離でフリードに向けた爆裂の魔法で潰す。
レイルは、変化まで解いて戦いに全魔力を回してるのに、攻めきれないでいる。
たぶん、フリードの持ってる剣は、ジークのと同じ、魔法陣が吸った魔力を使えるんだろう。魔法士がジークの剣を持つと、魔法まで使えるらしい。なんて厄介な。
「もっと簡単にいくはずだったのに、面倒を掛けてくれる」
フリードが話し出した。ちっ、余裕かましやがって。時間掛けるほど、こっちは不利だってのに。
「フォルスといったか。やはり魔力が見えるのだな。さっさと消したはずだったのに、まさか生きているとは、驚いたぞ」
「何わけのわからねぇこと言ってやがる!」
こいつ、1年半前のアレは、俺を殺すためだったってのか!?
「まさか、殺したはずの相手が監査官の護衛として乗り込んでくるとは思わなかった」
「俺が狙いだったって聞こえるなぁ」
「その金の目。魔法士として高い素養がある証拠だ。魔法そのものは使えなくても、魔力が見える可能性が高い。
お前は、魔法の方もそれなりの腕のようだな」
「魔神ってのは随分危ない奴らしいが、そんなもんの封印解いてどうすんだ。
飼うにはちょいと可愛げが足りないんじゃねぇか」
「なに、魔神を封印したほどの実力者を捨てたジークに対する意趣返しだ。気にすることはない。それに、制御できない魔獣を使うほど愚かでもない」
「てめぇ、ルードの身内かなんかかよ」
会話の間も、お互い魔法を放ってるし、レイルも斬りかかってんだが、フリードは全く隙がない。
レイルも魔石を使ってる分、強化がいつもほどじゃなくて、フリードの剣に弾かれてる。ったく、レイルの剣を受け止めるなんて、どんだけ強化してんだよ。
「私は、ジークとルードの曾孫に当たる。
ジークに捨てられた時、ルードはジークの子を宿していた。だが、ジークは別の女を選び、ルードはあっさり捨てられた。それまで公私ともに支えていたにもかかわらず、結界術の魔法陣を半端に盗まれてな。
ひどい男だと思うだろう?
だから、ルードの正当なる結界術の偉大さを見せてやろうと思うのだよ」
「そういうのは、当事者だけでやってくんないかね! 巻き込まれるのは迷惑なんだが!」
だめだ。魔法が放った途端に消え始める。
奴の魔法も消えるが、元々の魔力がでかいから、消えるまでに掛かる時間が段違いだ。魔力を沢山籠めれば俺だって同じことができるが、それじゃ魔石がまるで足りない。
そろそろ魔石が尽きる。
手ん中のデカいのと同じくらいのがあと1個。ちっこいのが6個。
奴に攻撃を届かせるにゃ、レイルが最大限の強化をするしかない。このデカいのをレイルに渡せれば…。
あとは、俺がもっと近付いて、小さな魔法を連射すれば、勝ち目はある。
フリードが魔法を連発できないように牽制できれば、レイルが近づける。最大限の早さと力でなら、押し切れる。
フリードは剣の腕は大したことない。身体強化で振り回してるだけだ。
あいつと同じように、俺も剣から魔力を引き出せりゃいいと思って、昨日紋章を書いた剣を抜いてみたが、やっぱあんなんじゃ駄目だった。
フリードの脇に、何かの魔法陣が見えてきた。
あいつが何かしたって感じじゃない。なんだ、あれは。
「なんだ、そりゃ」
フリードは笑った。
「魔神の封印を見えなくするための魔法陣だよ。言っても理解できまいが、人の目を誤魔化すことなど難しくはない」
俺の不可視の結界みたいなもんか? ホントに俺と同じことをもっと上手くやれるんだな! ちくしょう!
「大方、てめぇもソリトと一緒に街に入ってきたんだろ」
当てずっぽうで言ってやると
「ほう? 少しは知恵が回るようだな。
そうだ、ソリトは囮だよ。
あれの口を割って、3日後と油断してくれていれば、もっと楽だったのだがな。やはりオーリンは食えない男だ。
だが、もう遅い。
この辺りは、既に結界で封鎖してある。
オーリンが手配した連中は、もうここには近づけん。騙し合いは私の勝ちだ」
こいつ、支部長が偽の場所で印の魔法陣使って待ち伏せしてるのを利用して、この近辺に妙な結界張ったってことか? どうやって?
「魔法の使えないここで、結界なんて張れんのかねぇ?」
挑発するように言ってやると、フリードはバカにしたように笑った。
「この破魔の結界は、あらゆる魔素魔力を吸収し、狭間の向こうに溜める。
そして、対となる魔法陣はそこから魔力の供給を受けることができるのだ。
いわば無限の魔力だ。それを使えば、結界の内に更に結界を張ることなどたやすい」
要するに、吸った魔力は全部あいつの思うままってことか。魔石持ってるくらいじゃ勝ち目ねぇな。
「なんで魔神を倒さず封印したんだ」
フリードが封印の方に近付かないよう、レイルが攻め込む方向を変えた。俺も近づけない方向で撃ってるが、まるで気にしやがらねぇ。
「結界術は、魔法は使えなくするが、純粋に肉体的な能力には影響しない。
魔神は、魔力を失い身体強化できなくなっても、なおその地力だけでジークに拮抗したのだ。
苦戦するジークを救うため、ルードは結界内に更に結界を作り、魔神を閉じ込め、狭間の空間に落とした」
「狭間ってな、なんだよ、と!」
炎の矢を放ってフリードの目から俺を隠した隙に、袋に手を入れた。この手触りはジークの紋章だな。握ると、魔力が流れ込んでくる。なるほど、無限に魔力が湧いてくる魔石みたいなもんだな。これなら!
たっぷりと湧いてくる魔力を地面に流し、フリードの足下から土の槍を生やす。
「いくつ魔石を持っているのだ!」
フリードは簡単に避けちまったが、それでもレイルが斬りかかる隙は作れた。
「ほい!」
レイルの剣がフリードの左腕を斬り裂いた。が、浅い。切り落とせてない。
「ちっ…」
フリードは下がりつつ雷を降らせる。
この隙に、最後のデカい魔石をレイルに渡す。
「これで決められるか?」
「どうだろね」
レイルは魔石の魔力を一気に取り込んで胸の魔石に魔力を補充したようだ。
フリードは、今度は細かく動きながら、雷で牽制してくる。
もう一度、今度は広めにとった水の刃でフリードを狙ったが、しゃがんで避けられた。だが、その隙にレイルが駆け込む。同じタイミングで、刃だった水を氷の矢に変えて背後から足下に撃つ。
「くっ、若造が!」
フリードは全力で横に逃げたが、レイルが今度は左足を斬った。
よし、いける!
もう1発、土の槍を…と思った瞬間、フリードが派手に雷を降らせた。近付かせないよう、なりふり構わないって感じだ。
だいぶ余裕がなくなってきたじゃないか。
…いや、雷に紛れて、風の魔力が来る!
「レイル、風が来る!」
一言告げて、風の矢を避ける。回り込むように飛んで来る風の矢を避けてたら、レイルが脇にいた。
「もうちょい、魔石ないかな」
左手に握ってた魔石を渡そうとしたら、周りから妙な魔力が立ち上った。
「お前達には過ぎた待遇だが、狭間に招待してやろう。永遠に苦しむがいい!」
フリードの声が聞こえた後、俺達の足の下で魔法陣が輝き、何も見えなくなった。