24-2 裏の裏
魔法陣が完成すんのは、明後日じゃなかったのかよ!
誰に文句をつければいいのかわからないまま、小走りで街に戻る。
戻った後に何があるかわからないから、岩巨人の時みたいな全力移動するわけにゃいかない。
「なんかセシリアから渡されてたよね。
開けてみた方がいいんじゃない?」
レイルに言われて思い出した。
今朝方セシリアに渡された袋。
開けてみると、折り畳まれた紙と、金属の小さな円い板が入ってた。
円い板を見ると、ジークの剣の魔法陣が彫ってある。紙に書いたやつで試して失敗したのに、こんなん作ったのか。
紙の方を広げてみると、支部長からの指示だった。
“これを見ているということは、ソリトが囮だった可能性が高いということだろう。
3日といわず、すぐにもフリードが現れる可能性がある。
2番の魔法陣は、当然フリードも使えるはずだ。仕組みからすると、ある程度正確な街の地図があれば、街の外からでも2か所で使って示した線を延ばして交わる場所を割り出せる。つまり、フリードは既に封印のある場所を突き止めている可能性が高い。
我々は、少しでもフリードの油断を誘うため、合図した場所に剣士を集める。封印の方には、少数だけ配置して待ち伏せる。
君達に遅れて、魔石などを街から出すために魔法士を中心としたパーティーを出発させることにしている。君達が街に戻る途中で会うことになるだろう。
一緒に入れてある指示書を見せれば、好きなだけ魔石を受け取れるから、必要なだけ持って行って封印を守ってくれ”
袋の中には、指示書と許可証が入ってるようだ。
“フォルスとレイルに、求められただけ魔石を渡すように”
という指示書と
“この者が必要と判断した行為については、ギルドで責任を持つ”
という許可証。
「なんだこりゃ」
つまり支部長は、3日後に爆発とかってのも含めてフリードの罠だって疑ってやがったのか。
「ったく、予想できてたんなら、教えといてくれよな」
「最初から説明してくれてたら、もう少し準備できてたかもしれないのにね」
「まったくだ」
だが、ここまで警戒してるってことは、ギルドの方にもフリードの息の掛かってる奴がいるかもしれないってことか。
フリードは、結界が完成するのを待って来んだろうから、かなり厳しい戦いになんぞ。
魔石がどこまで保つかが勝負だから、正直、補充してけるのはありがたいな。
「君は両手で握ってでも使えるけど、僕はポケットに入れといて取り出すしかないからね。いくつ持てるか。それに、僕が強化に使ったら、すぐ空になっちゃうしね」
たしかにな。レイルは両手で剣を振らなきゃなんねぇから、魔石を手に持ってることができない。
「魔石が空になったら、俺が持ってんのを渡すか」
「いちいち君んとこに下がるのも危ない気がするね。そっちは最後の手段かな。
最初に大きめの使って、できるだけ早く勝負着けないと。
君には、出し惜しみなしで援護してもらった方が助かるかな。
本物の結界だと、魔石がどんだけ吸われるかもわかんないし」
そうか、俺の作ったモドキでさえ、あれだけ魔力吸われたんだ。本物はもっと強烈かもしれないよな。
「わかった。なるべく手数重視で牽制する」
街に近付くと、荷馬車の一団が向かってくるのが見えた。
こっちを警戒してるのが窺える。こいつらが魔石を持って逃げる担当か。えらく金目だからな、そりゃ警戒もするだろう。
「支部長の指示で運んでんだろう。
俺は6級のフォルスだ。支部長の指示で、魔石を分けてもらいたい」
両手を広げて敵意のないことを示しながら声を掛ける。
状況が状況だ、気が立ってるだろうし、無駄な時間は使えない。
1人が近付いてきた。
「フォルスといったな。支部長の指示とは?」
「指示書を見せる。この袋の中だ」
言いながら、袋の内側を相手に向けて、ゆっくりと指示書を取り出す。
取り出した指示書を広げて、相手に見せながら手渡した。
相手は指示書を読み、
「わかった。ついてこい」
と荷馬車の1台に連れていかれた。
「どれでも持って行くといい」
と言って、男は一歩引いた。
俺は、懐から2種類の大きさの魔石を取りだして
「このくらいの大きさのが欲しいんだが、どれに入ってるかわかるか?」
と訊いてみた。
いちいち探すと手間だからな。知ってんなら、教えてもらった方が早い。
「この箱とこの箱だ。一応、渡した数は把握する必要があるから、箱ごと渡すというわけにはいかんぞ」
箱の中から、拳くらいのを10個、すっぽり拳に隠れる大きさのを10個受け取って、そいつらとは別れた。
「レイル、これで街まで走れるな」
でかい魔石から魔力が調達できれば、体力を使わずに身体強化ができる。
今の寄り道分を取り戻す意味もあって、身体強化して街へ急いだ。
街に入り、身体強化を解いて封印の場所へ急ぐ。でかい魔石が1個、空になった。
不可視の結界を張ろうかとも思ったが、相手が元高ランクの魔法士だ、下手に魔素を弄ると逆に勘付かれるかもしれない。
念のため、封印の近くを探索したが、何も引っ掛からなかった。支部長が用意してるだろう伏兵もだ。きっちり潜んでるらしい。
俺達も物陰で静かに待った。
魔法陣の完成前に間に合ってよかった。
と思ってたら、突然魔素が薄くなった。
同時に、魔石からゆっくりと魔力が吸い出されてくのがわかる。吸い出す早さは、俺のモドキよりちょっと早いか。
「レイル。こいつで、まず強化しとけ」
さっき貰ってきた大きな魔石を1つ、レイルに渡すと、レイルは素顔に戻って魔石の魔力を全部剣の強化に使った。切断力の強化か。これまででも一番じゃないかってくらい強化されてる。
俺の方も、小さな魔石を3つずつ、両手に握りこんで魔力を吸われないようにする。
みゃあをその場に残し、2人で石碑の前に立った。
「ふん、ネズミが5匹か。なかなかどうして、やるではないか。
だが、5匹ではものの役には立たんな」
路地裏から現れたのは、フリードだ。今日はあの色眼鏡をしてない。
目が両方金色だと!? そうか、あの色眼鏡は、それを隠すためだったのか。




