24-1 封印のありか
3日後、か。
多分、フリードは、魔法の使えない結界が完成するのを待って、魔神を復活させに来る。
今は隠れているが、その時は確実に姿を見せるから、勝負を着けるのはその時だ。
「問題は、どうやって戦うか、だな。
魔法が使えない以上、俺達じゃ戦えない」
魔素がなければ魔力は練れない。
魔石を使えばなんとかなるとしても、あっという間に空になる。
そもそも、放った魔法は結界の中でどんどん力を失うから、俺の魔法程度じゃ、威力が保てない。
レイルが魔石を使って身体強化すりゃ戦力にはなるが、それだって、すぐに魔石を使いきっちまう。
「確かにな。
必要なのは、魔力を使わずに戦える者だ。
幸い、フリードはギルドから手配されている。
魔神のことは伏せて、5級以上の剣士に指名依頼を出す方法もある」
「んじゃ、俺達は封印の場所を見付けたら依頼完了ってことでいいですかね」
ようやくこの仕事も終わるのか。と思ったんだが。
「いや、君達には、魔素溜まりが発している魔力の状態の確認と、その結界のようなものを使って北の森の魔素溜まりを壊せないかやってみてもらいたい。
幸い、君達なら魔素溜まりがどうなったかの確認までできるからな」
あぁ、そっちがあったか。
なるほどな。俺達なら、面倒な説明がなくても結界モドキの魔法陣が作れるし、それで魔力の流れがどうなったかも含めて見えるからな。
「わかりました。
とりあえず、封印の場所を探してみますか」
「ああ、一緒に行ってみよう。
魔力の見えない者に、どう感じられるのかも確認したい」
おいおい、支部長自ら確認かよ。
ギルドを出て、ソリトが捕まったって場所に3人で行ってみた。
レイルは、ソリトに暗示を掛けるのにかなり消耗したそうで、少し疲れた顔だ。
一応、ソリトの精気を吸ったが、まずくてあまり役に立たなかったそうだ。ここでも味の話になるのか。
この場所から始めることにしたのは、一応、ソリトの動きを追った方がいいんじゃないかと思ったからだ。
「さて、んじゃ、広げますよ」
二つ折りになってる魔法陣を広げる。ゆっくりと魔素が吸われてくのがわかる。
「魔素を吸い始めました。ある程度吸ってから動くんでしょうね」
結界モドキの中に入れてたから、魔素は全く吸ってないはずだが、そもそもこいつは折り畳まれてたから、最初から空だったはずだ。なら、すぐに魔素が溜まるだろう。
言ってる間に、外側の魔法陣が輝きだした。
内側の魔法陣の上に、光の玉のようなものが浮かび、右の方に少し尖る感じで伸びてく。
そのまま封印の場所まで伸びるのかと思ってると、短剣くらいの長さで止まった。まるで槍の穂先か何かみたいだ。
「この光、支部長にも見えますよね?」
「ああ、見える。意外と伸びなかったな。
まさか、その先端が封印のありかだというのか?」
と言ったきり、支部長は黙った。
だが、先端の当たりに、魔力の類は感じない。
穂先に向かって一歩踏み出しても、穂先までの長さは変わらない。つまり。
「こいつは、どうやら方向だけ示して、距離は関係ないみたいです。
とりあえず進んでみましょう」
街の中を歩けば、当然、光の示すとおりまっすぐになんて歩けない。
建物や川を迂回するたび、光の先端は微妙に角度を変える。
しばらく歩いてると、前に調べたことのある石碑の前で、穂先が真上を向いた。
「つまり、ここに封印があるってわけか。
この前も今も、魔力の流れとかは感じないがなぁ」
「だが、フリードの目的地はここで間違いあるまい。
よくやってくれた。
あとは、別の場所で目印の魔法陣を使って、罠を張るだけだな」
再び折り畳んだ魔法陣を手にギルドに戻り、今後の話をした。
支部長は、これから迎撃しやすい場所で目印の魔法陣を使う。
俺達は、明日の朝イチで、魔素溜まりから出ている魔力を確認しつつ北の森に行く。少し急いで明日中に森の魔素溜まりに行き、結界モドキを作る。後は、その様子を確認してりゃ、街では5級の剣士数人でフリードを待ち構える。
うまいこと魔素溜まりが消えて結界が発動しなくなりゃ万々歳、もし間に合わなくても、元々魔法を使わない連中が戦うんだから、問題ない。
完璧だな。
せっかくジークの剣の紋章が届いたってのに、俺達はその時に街にいないから、試せそうにない。
とはいえ、せっかくだし、結界モドキで試してみるか。
「支部長、ジークの剣の紋章ってやつ、見せてもらえますか」
「ああ、いいだろう。
これだ」
支部長が出してくれた紙を見ると、魔法陣の内側みたいなもんだった。やっぱ見たことない図だけどな。
剣の柄んとこにあるらしくて、えらい小さい上に細かいが、俺の剣にも書き写してみた。
「これで、結界モドキの中で魔力を使えるようなら、レイルも戦えるかもしれませんがね」
逆五角形の中に入り、剣に魔力が集まってるか見てみたが、どうやら駄目なようだ。
「やっぱ、本物の結界じゃねぇと無駄か」
「まあ、フリードの結界の中でなら使える可能性もあるからな。実際にフリードと当たる連中の剣には着けてみてもいいかもしれん」
まぁ、俺達にゃ関係ねぇからなぁ。
「本当は、明日が満月だから君の精気を吸いたかったんだけど、セシリアを連れてくと遅くなっちゃうからね。
せめて今夜はよろしくね。
昼のアレでかなり消耗したから、このままだと全力出せないんだ」
レイルは、胸の魔石のお陰で魔法を使ってもほとんど消耗しないが、それでも魔石の魔力が減っちまうから、補填は必要らしい。
そんな時は、男の精気を吸うことで回復するんだとか。
レイルが、仕事の前後に夜遊びしてたってのは、 そのための相手を探してたからだ。
今回の仕事は大したことないとは思うが、それでも何が起きるかわからねぇのが俺達の仕事だ。レイルには、万全の体調でいてもらわないとまずい。
「わかった。どうせセシリアの方から来んだろ」
翌朝、門が開くと同時に出発するために朝早く家を出た。
「フォルスさん、これを持って行ってください。支部長からの指示です」
そう言って、セシリアが何かの入った布袋を渡してきた。おいおい、そういうのがあるなら、昨夜のうちに渡せよ。
「緊急だと思ったら開けろ、だそうです」
なんだよ、そりゃ。なんか釈然としないが、とりあえず、大した大きさじゃねぇから、懐に入れて持ってく。
今日中に魔素溜まりまで行かなきゃならねぇから、かなりの急ぎ足だ。
昼よりかなり早く、逆五角形のラインが見えてきた。
「おい、ちょっと待て」
「どうしたの?」
「魔力が走るのがやたら早くなってやがる。
また走った。……まただ。
本当に完成すんの、明後日なのか?
これじゃ、今日中に魔法陣が完成すんじゃねぇのか!?」




