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20-1 連れてく

挿絵(By みてみん)


 リアンから帰ってきて10日が過ぎた。

 セシリアは、5日間の休暇とやらを堪能して、仕事に復帰してる。

 そのセシリアによると、昨日、本部から早馬が来て、リアンの支部の顛末の報告があったそうだ。

 詳しいことを話したいから、明日、支部長のところに顔を出せ、と晩飯の時セシリアに言われた。


 「いや、そんなんギルド内部のこったろ? 俺達ゃただの冒険者だぞ。

  なんでそんな話聞きに呼ばれなきゃなんねぇんだ?」


 文句を言う俺に、セシリアは困った顔をしてみせる。


 「二度も殺され掛けたんですから、無関係ということはないでしょう?

  それに、きっとこれからも絡むことになるでしょうし…」


 ちょっと待て、なんだそれ!?


 「これからも絡むってどういうことなんだ?

  あっちの支部長を処罰すりゃすむ話じゃないのか?」


 訊いてみても、セシリアは曖昧に笑うだけで説明してくれない。

 だいぶ柔らかくなったと思うが、こういうところはまだ融通が利かなくて、仕事の話は家ではしようとしねぇ。


 「支部長に顔なんか見せたら、またなんか面倒押しつけられそうなんだよなぁ」


 「大丈夫、君の奥さんは、君が面倒押しつけられるってさっき言ってたから」


 げんなりしてる俺に、レイルが楽しそうに言ってきた。


 「なんだよ、面倒は確定なのかよ」


 思わず頭を抱えると、レイルが

 「“奥さん”は否定されなかったよ。よかったじゃん」

とセシリアに言った。ニマニマと笑いながら。

 セシリアの方は、真っ赤になって照れてやがる。


 「おいこら、2人とも!」


 「はいはい、照れない照れない。

  どうせもう結婚してるようなもんじゃない。

  今なんか、時々、終わった後もそのまま寝てるんだろ。

  もう、結婚しちゃえば?」


 く……こいつ…。

 夫婦という触れ込みで出掛けたリアンの街では、宿でも同室だった。

 というより、夜中にセシリアが襲われないようにってことで、俺が常に傍にいられるよう夫婦って(そういう)ことにしたんだが。

 決めたのは支部長だ。俺じゃない。

 護衛の関係で、夜は結界を張って同じベッドで寝てたし、その名残で、帰ってきてからもセシリアはそういうことをした後は俺の部屋でそのまま寝るようになった。

 元々、俺は隣に誰かいると熟睡できないタチだから、一緒に暮らすようになった後も、寝る時は1人だった。

 今も、熟睡はできないんだが、セシリアが隣で寝ていること自体は受け入れちまってる。

 少なくとも嫌じゃない。

 最初に言ったとおり、セシリアは俺に結婚を求めてはこない。

 まぁ、結婚なんて言ったって、神殿に届けの紙1枚出すだけで、何が変わるってもんでもない。もう一緒に住んでるわけだし。

 セシリアを見ると、上目遣いでちろちろと俺を見ている。口にはしないが、期待してるのが丸見えだ。


 「──考えとく。

  けど、そしたら、レイル(お前)はどうすんだ?」


 今の、ちょっと変な同居は、俺とセシリアが結婚したらどうなる?


 「なに? 僕を追い出すつもり? 悪いけど、僕は追い出されてあげる気はないよ。

  まあ、僕らがこの街を出てく時は、セシリアも君の子供も連れてってあげるよ」


 ちょっと待て。

 その場合、どう考えてもお前の方が居候だよな。なんでそんなに偉そうなんだよ。

 まぁ、お前とのコンビを解消する気はねぇけどよ。


 「レイル、子供が生まれたら、おじさんって呼ばれることになるから、楽しみにしとけ」

と笑顔で言ってやったら、レイルはあからさまに嫌そうな顔をしてた。ざまぁみろ。






 今夜は満月で、例によってレイルが部屋でみゃあと一緒に月光浴してる。

 セシリアは、この前の岩巨人の時に初めて見たわけだが、たまに聞こえるみゃあの鳴き声が月光浴のせいだと知ってる今は、レイルが何をしてるのかわかるってわけだ。


 「また…やってるんですか?」


 「だろうな。毎月のことだ」


 「あれ、何か意味があるんですか?」


 「あるわけねぇだろ。月の光浴びて魔法が強くなったら苦労しねぇよ。

  まぁ、レイルは、満月で活性化した魔素がどうこう言ってたが」


 「みゃあちゃんもですか?」


 「みゃあ(あいつ)の気持ちは俺にゃわからん。

  ただ、みゃあが鳴くのは、レイルが仕込んだわけじゃないらしい」


 ふっ、とセシリアが笑った。


 「なんだ?」


 「前まで“猫”って呼んでいたのに、いつの間にか名前で呼ぶようになったんですね」


 「似合わねぇだろうが、レイルの奴、そうしないとお前のことも名前で呼ばないとか言ってよ…」


 「名前じゃないというと、“陰険女”ですか?」


 「今は、あいつはお前を目の敵にゃしてねぇよ。“(フォルス)の愛人”だとさ。そういうと俺が嫌がんのわかってやがんだ、あいつ」


 言うと、セシリアはパチパチと瞬きした。


 「私は、それでも構いませんよ。

  事実ですし」


 おずおずと俺の腕に腕を絡めてくる。

 見上げてくる目が、妙に色っぽい。いつの間にこんな目するようになったんだか。


 「うちん中だけならいいが、あいつ、絶対ギルドでもそう呼ぶぞ。冗談じゃねぇって」


 「でも、フォルスさんとの絆を感じられていいかもしれませんよ」


 絆…絆、ね。本当は、こいつ、きっちりと形にしたいんだろうなぁ。それを言わないのは、最初に“結婚してくれとは言わない”なんて言ったからで。

 冒険者なんて、いつ死んでもおかしくねぇんだがなぁ。

 ここらで、きっちりしといた方がいいのかもな。


 「セシリア。

  俺ぁ孤児院育ちで、家族なんてもんは知らねぇ。自分が家族を持つとか、考えたこともなかった。

  けど、お前を手放したくはねぇ。いつか俺がこの街を出ることになっても、連れてく。

  いいな」


 「はい、ついていきます、ずっと」


 セシリアは、目に涙を溜めて答えた。





 ことが終わると、セシリアは俺の腕に載せた頭をこっちに向けた。


 「レイルさんにお礼を言わなきゃいけませんね」


 「あん? なんでだ?」


 「夕食の後、レイルさんに言われたんです。

  今、素直に甘えれば、結婚できるよって。

  あの人、私からは結婚は求めない約束だって知っていましたから」


 なんてこった。レイルにハメられたのか!


 「怒らないでくださいね。お陰で私、幸せなんですから」


 「あいつ、お前に対する態度がずいぶん柔らかくなったよな」


 「レイルさんは、私のためというよりフォルスさんの背中を押そうとしてたんですよ。家族を手に入れるチャンスだからって」


 「あの野郎…」


 余計な気を回しやがって、とは言えなかった。

 セシリアを手放したくないってのは、確かに本音ではあったから。


 「今夜中に結果報告する約束なので、ちょっと行ってきます」


 今夜中ってどういうことだよ。とはいっても、セシリアが約束したってんなら、止めても聞かねぇな。


 「そのかっこで行くんじゃないぞ」


 「はい、もちろん。私の体は、あなただけのものですから」


 「あと、この件でからかうなよって言っといてくれ」


 「わかりました。

  すぐに戻りますから、あなた」


 セシリアは、手早く服を着て部屋を出た。

 “あなた”か。セシリアがそんな呼び方をしてきたのは、今日が初めてだ。

 あいつなりの喜び方なんだろうなぁ。





 しばらくして、赤い顔して戻ってきたセシリアは、また服を脱いでベッドに入ってきた。


 「祝福してくれました。

  あと、“考えとくけど、約束はしないよ”だそうです」


 それって、からかうから覚悟しとけって意味じゃないのか…?

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― 新着の感想 ―
[良い点] >僕らがこの街を出てく時は、セシリアも君の子供も連れてってあげるよ そういうことあるってことかなあ。布石? [気になる点] >家族を手に入れるチャンスだからって そうだね。初めての家族…
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