19-3 あの洞窟へ
慎重に、広めの探索の結界を張って、誰もつけてきてないことを確認しながら移動した。
「変わってないね」
レイルの言うとおり、掘り返した跡もない、埋もれた洞窟だった。
「俺達が出てきたのは、こっちだな」
以前、脱出した後で塞いだ穴をもう一度開けて中に入る。
明かりの魔法陣で照らしながら進むと、骨だけになった死体が当時の格好のまま倒れていた。
骨だけになってるのは、多分、洞窟コウモリに食われたんだろう。
誰かが中を調べた形跡はない。ここは、あれ以来放置されてきたんだ。
俺とレイルが狙われたわけじゃなかった。
ギルド預金を奪うためとかの理由だったんだろう。
それがわかっただけでも大きな収穫だ。
ここには、魔素溜まりもできてなかった。
密閉されてんだから、できるわけないよな。
レイルを見ると、なんだか神妙な顔をしてた。
外に出て、再び穴を塞いで、ようやくジールダに帰れる。…帰れる、か。すっかりあそこが家になっちまったなぁ。
「随分と息の詰まる思いしたから、しばらくはのんびりしたいなぁ」
歩きながら大きく伸びをして言ったら、レイルが
「絶対無理だね。
こんな実績作っちゃったんだもん、ますます便利屋一直線だよ」
と笑った。
珍しく、晴れ晴れとした笑顔だった。
あの洞窟で俺達が襲われたのが、レイルを狙ってのものではないとわかって、気が楽になったってとこか。
飄々としてるようで、誰かが自分を狙ってくるんじゃないかって、心配してはいたみたいだからな。
レイル自身を狙うとしたら、父親しかいないだろうが、そもそも父親がレイルの存在を知ってんのかさえ、俺にゃわからんからなぁ。
レイルが楽しげな一方、セシリアは難しい顔をしてやがる。暗い顔といってもいい。
そりゃ、ギルドが積極的に冒険者を殺そうとしたりしてんだから、仕方ないのかもしれねぇが、セシリアが気にするようなこっちゃないんだがなぁ。
それとも、自分が命狙われたことの方かな。それならわかる。人間に襲われるなんて経験、普通はしないからなぁ。
どっちにしても、俺がしてやれることはない。せいぜい、傍にいてやるくらいだ。
ようやくジールダの街に着くと、まずはギルドに顔を出す。
当然だが、すぐに支部長のところに通され、いつもと違ってセシリアが正面に座る。俺はその隣で、レイルはいつものセシリアのところに座った。
「報告書はこれから書きますが、杜撰なのではなく、意図的に冒険者を害しているように見受けられました」
セシリアの第一声に、支部長は眉一つ動かさない。これは、予想してたってとこか。
「リアンの支部長から、監査完了の書類にサインでも求められなかったか?」
「はい。あちらでも、監査を受けたという報告を出すからと」
「やはりな。
なら、襲われたろう。どこで、どんな奴に襲われた?」
襲われなかったか、ではなく、襲われたろう、か。
あの紙、そんな意味があんのか?
「まさか、その紙使って、監査は問題なかった、なんて報告でっち上げられんですか?」
「それを狙った可能性は高いな。
セシリアが向こうで“問題なし”という報告書を提出して、帰りに行方不明になると、再度監査するかは微妙なところになる。
今回のケースだと、十中八九再監査だろうがな。
で、どこで襲われた?」
セシリアが魔素溜まりの件を話すと、支部長は腕を組んだまま目を瞑った。
「なるほど。
魔素を吸う魔素溜まりがリアンにも。
で、そこを選んだ理由は?」
「それは、フォルスさんが…」
「ほかは剣士ばかり行方不明なのに、そこだけ魔法士だったんです。しかも、そいつは問題とか起こしてない。
だから、魔法士だからこそ口を封じられた理由があるんじゃないかと思いまして。
襲ってきたのは、剣士2人と斥候1人ってとこです。
リアンの街を出てから、ずっとつけてきてました。
魔素溜まりを造ったのは誰だって訊いたら、知るかって答えてたんで、誰かが造ったもんだとは知ってたでしょうが、性質を知ってたかまではわかりませんね」
セシリアの話を遮って俺から説明してやった。
「ほかには?」
「剣士9人と魔法士1人が8級の昇級試験を受けに入った洞窟が崩落して全滅、試験官を務めた冒険者がその後行方不明になったって事例がありました。
人数が多すぎるし、1人だけ魔法士が混じってるのも妙です。まして、崩落の原因は、魔法士が錯乱して魔法を使ったせいだってことになってます。怪しいでしょう。
そちらの洞窟にも行ってみましたが、捜索された形跡はなく、俺の魔法で穴を開けて中に入ってみましたが、魔素溜まりはありませんでした」
「その9人の中の1人が、フォルスというわけか」
「!」
「やはりか。リアンに行きたがらないから、何かあるとは思ったが」
今の、カマ掛けられたのか!
まぁ、バレてんなら、仕方ない。
「本当は、試験を受けたのは5人。10人のうち半分は刺客でした。
倒した後で調べましたが、ギルド手帳を持ってたのは、試験を受けた者だけです。
ただ、後で試験を受けたってことになってんのをみると、本当に9級の冒険者を刺客として雇ったんでしょう。つまり、今回の黒幕の子飼いとかで。
死体はあの時のままでしたし、預金目当てだったんじゃないかと思います」
「諸々の状況を考えると、向こうの支部長が裏で糸を引いていると考えて間違いなさそうだな。
わかった。至急、本部に連絡しておこう。
ご苦労だった。
セシリアには、報告書提出後、5日間の休暇を与える。
命を狙われた後だ、心と体をゆっくり休めてくれ」




