17-4 リアンへ
「セシリアの護衛、ですか?」
セシリアがリアンまで行くような用事があるのか? いや、そんなことよりリアンか…。
「リアンの支部で少々問題が起きている。
そのため、セシリアに臨時の監査に行ってもらうことになったのだが、その間の護衛を頼みたい」
「監査ってなぁ、なんです?」
リアンには近寄りたくないなぁ。なんせ俺とレイルが前にいた街だ。
あの頃は、俺もレイルも9級だったから、受付に顔なじみみたいのはいなかったし、大丈夫だとは思うが。
ああ、レイルは髪の色も今と違ってたから大丈夫だな。問題は俺だけだ。
剣士なら、俺くらいのガタイはいくらでもいるし、不安があるとすりゃ、この目立つ右目くらいなんだが…やっぱ行きたくねぇなぁ。
「監査というのは、よその支部の者の目で、事務手続などに不正がないかなどを確認することだ。
今回、本部からの指示で、うちからリアンに監査官として誰かやらなければならなくなってな」
セシリアでなけりゃ断りやすいんだがなぁ。
「なんでセシリアなんです?」
「彼女も中堅の域に入っている。
ここらで、よその支部の仕事ぶりを見ておいた方がいいんだ。
リアンはうちより大きな支部だし、いい経験になる」
セシリアじゃなきゃいけない理由はないのか。
「それで、なんで護衛なんかいるんです?」
「女の一人旅など危なくてさせられんだろう。
いや、男ならいいというわけでもないが、こことリアンの間は、それなりに獣もいる」
「俺達が護衛しなきゃならないほど危ないんですか?」
ここに来た時、特に何かに襲われたりってことはなかった。そんなに危ない道じゃないはずだ。
俺の質問に、支部長はニヤリと笑って続けた。
「まったく、頭の回る男だな。
いいだろう、話してやる。
危険はある。
誰の手の者になるかわからんが、今回の監査を受けたくない者が刺客をよこす危険性が高い」
刺客とは、また大きく出たな。
「そんなに見られたくないものでもあんですか」
やっぱ俺達のアレもギルド自体が絡んでたのか?
「おそらくあるのだろう。
リアンの支部ではここしばらく、若い冒険者が死ぬ事例が多発している。
死に方は様々だが、いずれも家族がなくギルド預金が没収されている。
今回の監査は、それを受けて、依頼の確認体制やギルド預金の管理状況を調査するために行われる。
つまり、後ろ暗いところのある奴が妨害してくるかもしれんというわけだ」
「そんな危険なところにセシリアをやる理由は?」
危険とわかってて、わざわざセシリアを行かせるってのはどうしてかと訊くと、支部長はこともなげに答えた。
「1つには、有能だからだ。
不正をする奴らだって馬鹿じゃない。簡単に尻尾を掴ませるような杜撰なマネはしとらんだろう。それを見付けられるだけの経験と能力が必要だ。
2つめは、護衛の問題だ。
今言ったような理由から、信用できて、かつ腕の立つ護衛をつける必要があるわけだが、両方揃っている者は少なくてな。
お前達に依頼するなら、護衛対象がセシリアの方が引き受けやすいだろう。
そんなわけでセシリアというわけだ。
納得できたか」
このおっさん、俺が断れねぇようにセシリアを選んだってわけかよ。
「言いたいことはわかりましたがね、護衛にしたって、別に俺達である必要なんてないでしょう」
「いや、護衛には、見た目を裏切る君達の方が都合がいいんだ。
今回は、8級の剣士フォルスと魔法士レイルとして動いてほしい。ギルド手帳も、それ用に用意する」
「は!? 俺が剣士ですか?」
「見た目どおりの役割のふりをしてもらった方が油断を誘える。
特に、街に入れば魔法士による闇討ちも予想できるだけに、いかにも魔法士に見えるレイルを隠れ蓑にできるのは有効だ。
内容が内容だけに、向こうの支部長が裏で糸を引いている可能性もある。
フォルスは、なるべくセシリアから離れないでくれ。宿も同室で頼む」
「それ、もう護衛の依頼じゃないですよね」
思わず文句を言っちまったが、これはもう受けるしかないんだろうなぁ。
リアンに監査に行くことになったセシリアとフォルス達。だが、リアンはフォルス達がかつて殺されたことになっている支部だった。
自らの過去をセシリアに語るフォルス。そして、監査会場で見付けた1年半前の事故の記録とは?
次回「ごつひょろ」18話「リアンの監査」
「セシリア、今のうちに言っておくことがある」




