15-1 重傷
前回のあらすじ
岩の巨人が現れた岩山で、普通と違う魔素溜まりを見付けたフォルスとレイル。
その報告も兼ねて、巨人の残骸を回収に来ているセシリアの元に向かう途中、戦闘中らしい魔素の乱れを見付け、レイルが先行した。
はぁっはぁっはぁっ ちくしょう、こいつはきつい。レイルの奴、よくもこんなことして平気でいられるな…。
身体強化を掛けっぱなしで走るのは、本当にきつい。文字どおり息を止めて全力疾走してるようなもんだ。
俺以上に強化してるくせに、ずっと平気な顔で動けるなんざ、レイルの体はどうなってんだろなぁ。
ふう、限界だ。一旦強化を解いた。もちろん、走ること自体は続けてる。
さっきの魔素の反応が2体目の巨人だったとしたら、残骸の回収に来た連中じゃ勝負にならない。
レイルなら、やられることはないだろうが、あの岩の塊が動いてるとなると、さすがに斬るのは難しかろう。
魔素さえなくせば、巨人は止まるはずだ。早く追いつかねえと。
…よし、少し回復した。もう一度身体強化だ。待ってろよ、レイル、セシリア!
結局、その後2回息切れし、4回目の身体強化でようやく残骸のあったところが見えてくると、そこには、レイルをハエのように追い払う岩の巨人がいた。
レイルが走り寄って斬りつけては、巨人が腕を振り回して追い払う…ありゃあ、弾いてるな。よく見ると、巨人は右腕がなくなってる。レイルが落としたのか。
「レイル!」
でかい声で呼ぶと、レイルはこっちを見ないで答えた。
「こいつ硬い! 早いとこ止めないと、1人死ぬ!」
もう怪我人が出てるのか!?
なら、巨人の周りから広めに魔素をどかしとこう。
「広くやるから、気ぃつけろ!!」
レイルは巨人の正面に立って距離を取った。あれくらいの距離なら、魔素のない範囲から外れてるな。
巨人の方は、魔素がなくなると同時に、ピタリと止まった。
やはりこいつは、魔素がないと動けないんだな。
巨人が止まったのを確認すると、レイルが突っ込んでいって左足をぶった斬る。
通り抜けていったレイルは、折り返してきて右足も斬る。今回は、まっすぐ立ってなかったから、巨人は崩れ落ちた。
ようやく到着すると、セシリアが走り寄ってきた。よかった。無事だったか。
「フォルスさん、イリスさんの治療をお願いします!」
怪我人はイリスか!
「どこだ!?」
レイルが巨人の左腕を落とすのを横目で見ながら、イリスのところに急ぐ。まだ魔素はどかしたままだ。
「レイル! 首は落とさなくていい! お前も少し休んどけ!」
レイルに呼び掛けてから、イリスの様子を見る。
傍でイリスの名を呼んでるミュージィをどかして見ると、イリスは血を吐いてるようだ。
「どこをやられた?」
訊くと、泣いてるミュージィの代わりにサンドラが答えてくれた。
「あの巨人に胸を殴られて吹っ飛んだんです。肋骨が折れてるかも…」
結構な重傷だな。
ここに来るのに、かなり無茶な身体強化を使っちまったからな。治せるか?
「デカブツはもう動けないだろうから、全力でやっていいよ」
巨人の手足を斬り終わったレイルが、肩で息をしながらやってきて言った。
「大丈夫か? 相当消耗したな」
「まあね。あいつ、魔素を大量に使うと、えらく機敏に動くんだ。
おまけに硬い。君が止めてくれなかったら、やばかったよ。
後は、もうどうにでもなるから、そいつ、全力で治していいよ」
速くて硬い、か。なんとも厄介な相手だな。
ともかく、まずはイリスだ。後で戦闘になるってことはないものとして。
「とりあえずやってみよう」
この辺りの魔素を全部俺の周りに集めてみる。
巨人の近くも魔素が通ることになるからな。念のため、レイルには、巨人の方を警戒しながら休んでもらおう。
一応、ここに着いてからは、息を整えるようにしてたんだが、まだ俺自身が回復してないから、かなりきつい。
イリスの体を調べると、肋骨が4本折れてて、そのうち1本が肺に刺さってた。右腕も折れてるな。
まずは、刺さってる1本だけをくっつけて、肺の穴も治して。
これで、とりあえず死にゃしないだろう。
「最低限はできた。ついでに、折れてる骨も全部治せるか、やってみる」
進捗状況がわかるよう、全員に聞こえるように言って、また魔力を練る。かなり厳しいな。1本………2本………………3、本…。
「なんとか、胸の傷は治せた。
後は、休ませときゃ、そのうち目ぇ覚ますだろ。
腕は、もうちょい待て。しばらく休まないと魔法が使えねぇ」
荒い息を吐きながらそう言うと、ミュージィがイリスにすがりついて泣きだした。
「ありがとうございました、フォルスさん。
ミュージィを庇うみたいにしてやられたから、ミュージィ、気に病んでんです。矢面に立つのは剣士としちゃ当たり前なんですけどね」
泣いてるミュージィの代わりに、サンドラが礼を言ってきた。
「ま、わかってても気にはなるさ。
間に合ってよかったよ。あ~、しばらくなんにもできねぇぞ」
俺も地面に体を投げ出した。
限界まで身体強化を繰り返して、おまけに大怪我の治療だ。連続で魔力を練って使ってとやったから、もうヘロヘロだ。
とはいえ、俺はもう魔法を使う必要はないからな。万一、次の巨人が出てきても、俺は魔素を動かすだけだ。ああ、イリスの腕は治さないとならんか。
とにかく、間に合ってよかった。
「治せたみたいだね」
レイルがやってきた。
さすがに、かなり消耗してる。
「おう、お疲れ。
なんとか死人出さずにすんだな」
「巨人、結構素早いね。
僕が間に合わなきゃ、全滅してたよ、きっと」
「なんか、前より硬くなかったか? お前の剣を弾いてるように見えたんだが」
段々強くなってくとすれば、かなりの脅威だ。
「ああ、あれね。あいつ、身体強化みたいなこともやってるみたいだ。魔素が切れたら斬りやすくなったよ。
一応、右手は落とせたからね、斬れないわけじゃないけど。でも、やっぱり止まった後の方が斬りやすい。まあ、動いてるってだけで斬りにくいんだけどさ」
話してたら、セシリアも声を掛けてきた。
「ありがとうございました。
おかげで、誰も死なないですみました。
やっぱりいたんですね、2体目。
山の中では見付からなかったんですか?」
セシリアの声に、責めるような色はない。単なる疑問なんだろう。
「俺達が探してるルートと違うとこ歩いてりゃ、見付からないさ。
お前達と合流しようと向かってる最中でよかったよ」
「レイルさんだけ先に来たのは…」
「身体強化の腕の差だ。
俺じゃ、ずっと強化しながら走るなんて無理だったからな」
「レイルさん、魔法を使えるんですか!?」
しまった…!




