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12-R 舞台裏

 11話から12話の裏側になります。

 「支部長、ご指示どおり、フォルスさん達に一角馬捕獲の依頼を出しておきました」


 部屋を訪れたセシリアの報告に、支部長は頷いた。

 「ご苦労。それで、反応はどうだった?」


 「囮が必要ということで、気が進まない様子でした」


 「まあ、そうだろうな。

  それで確認だが、君はフォルスに好意を抱いている、ということでいいな?」


 突然、話題が自分の恋になったセシリアが顔を赤くした。

 「あの、私の気持ちが何か関係あるのでしょうか?」


 「無論あるとも。

  恐らく、彼らは囮として君を指名してくる。そして、囮になるということは、一角馬の媚香にやられて男に抱かれなければ収まらなくなるということだ。

  フォルスかレイルかは選べるにしても、抱かれないですませることはできないだろう。

  つまり、君がフォルスに抱かれたい、少なくとも抱かれて構わないと思っていないなら、囮を断ることになる。無論、そうなれば依頼を受けてはくれまい」


 支部長の言葉は、依頼を受けさせるためにセシリアに身体を張れという意味だ。

 その意味を理解したセシリアだったが、支部長の意図を計りかねた。

 「最初から、私に囮の話が来る前提の依頼なのですね。

  理由を伺ってもよろしいでしょうか」


 ある意味もっともなセシリアの疑問に、支部長はあっさりと答えた。


 「理由は2つある。

  1つは、あの2人をこの街に繋ぎ止めておきたいというものだ。

  あの2人は有能だ。戦闘力もさることながら、単純に力で計れない才能もあるようだ。この街の人間、できればギルドの人間と(よしみ)を通じて居着いてくれればありがたい。

  2つめは、君が楔として適任だと思っているからだ。

  私の見る限り、君はフォルスに並々ならぬ関心を持っているようだ。

  彼らを繋ぎ止めるのに、美人局では駄目なのだよ。そんなものに騙されてくれるような奴らじゃない。真実が必要だ。

  その点、君はフォルスに惹かれているから適任なのだ。

  もし、君が彼と一緒に住むようなら、今の独身宿舎から家族用のものに引っ越してもらって構わない。むしろ可能ならレイルの方も引き込みたいから、それなりの部屋数の家を用意する。

  それくらいの便宜を図るに十分なメリットがあると考えている。ああ、もちろんレイルは単なる同居人でいい。2人は一緒にいた方が何かと便利だからな。

  どうだね? 無理にとは言わないよ」


 思いがけない申し出に、セシリアは戸惑った。

 フォルスに好意はあるし、顔を合わせればそれなりに示してもきたつもりだったが、どうにも手応えがない。

 むしろレイルの方が、フォルスに色目を使っていると自分を嫌っているくらいだ。

 だが、それを支部長から指摘されるとは思ってもみなかった。

 支部長からの申し出は、現状を打ち崩す1つの方法と言えた。

 森の中で、真っ昼間から、それも、場合によってはすぐ近くにレイルがいるかもしれない状況下での初体験になる。それは、女として夢見たかたちではない。

 だが、いつまでもこの街にいてくれるという保証のないフォルスに想いが通じないままであることに、焦りを感じ始めてもいた。

 なにしろフォルスは冒険者だ、よその街に行くどころか、この前の魔狼のような大物が突然現れれば、死んだっておかしくないのだ。

 「もし…もし、私がフォルスさんと結婚できたとして、彼がよその街に移るようなことになったら、私はついていってもいいのでしょうか」


 割り切りの早いセシリアは、フォルスとどの程度までなら一緒にいられるかを模索しはじめた。

 支部長の狙いどおりに。


 「君に抜けられるのは痛いし、あいつらに街を出て行かれるのも痛いのでな、できればこの街に繋ぎ止めておいてほしいところだ。

  だが、まあ、その時はついていって構わんよ。

  行った先の街にギルドの機関があれば、そこで働けるよう口を利いてやろう。

  せめて、行った先に恩を売るさ」


 冗談めかした口調に、つい笑みをこぼしたセシリアではあったが、支部長がフォルスとレイルをこの街の戦力として期待していることは理解できた。

 「便宜を図っていただけるのでしたら、喜んで。

  私としても、この街を離れたくはありませんので、フォルスさんを繋ぎ止める努力はします」


 「よろしく頼む」






 そして、一角馬の捕獲を終えて戻った翌日、セシリアは支部長に呼び出された。


 「どうやら首尾よくいったようだな」


 「はい、一応は」


 心なしかセシリアは頬を染めている。それはまあそうだろう。言葉の意味するところを考えれば、本来他人に踏み込んでほしくない部分のはずだ。


 「結婚はともかく、一緒に住めるようになれば、と思っています。

  できれば、レイルさんも同居できるような家族用の宿舎を用意していただければと」


 その言葉に、支部長は目を見開いた。

 「こちらとしては願ってもないが、君はそれでいいのか?」


 「よくはありませんが、あのお2人は仕事上のパートナーです。しかも、お金に困っているわけでもないのに、宿では同じ部屋に住んでいるほどです。

  多分、仕事の上でも、普段から2人が揃っていることが望ましいのでしょう。

  そう考えると、同室はともかく、同じところに住めるということにしないと、お2人は説得できないのではないかと。

  残念ながら、フォルスさんは、私よりレイルさんと離れることを嫌うと思うのです」


 一緒に住もうと誘ってくる女より、仕事の相棒の傍にいることを選ぶ男なんているのかと思いつつも、支部長はセシリアの要望に応えることにした。彼女の見立ては信頼に値する。それに、2人とも繋ぎ止めておけるというなら願ったりだ。


 「わかった。早急に部屋を用意するので、引っ越しの準備をしておいてくれ」


 セシリアが退室した後、支部長は早速部屋を手配し、翌日にはセシリアは引越を完了した。

 次の仕事は、謎の巨人の調査。

 岩山に現れたという巨人に2人が挑む。

 次回「ごつひょろ」13話「岩山の巨人」

 巨人の正体は?

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― 新着の感想 ―
[良い点] >残念ながら、フォルスさんは、私よりレイルさんと離れることを嫌うと思うのです 切ないけど冷静な判断!! こういう女は最後に勝つ! 恋愛は溺れたもの負けですからね♪ [気になる点] 支部…
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