10-3 依頼の終了
去年の3月にテストパターンとして書いてみたシーンのブラッシュアップです。
「連載の10話くらいに当たる部分」として書いたので、本当に10話に入れてみました。
当時書いたものとかなり変わってしまいましたね(^_^;)
「うわああああああ」
角を曲がってきたオーガを見るなり、先頭の奴は腰を抜かし、後ろの奴は震えながら剣を構えた。まぁ、大体予想どおりだな。
二番手の隠れ魔法士だけは、一瞬迷った後、剣を抜いた。構えは素人よりは大分マシってとこか。
…レイルの出番だな、こりゃ。
「レイル!」
「わかった!」
あっちもわかってたみたいで、俺が一声掛けるとすっとんでった。
完全に力押しで行ったな。
目とか身のこなしとか、多少は早くしてんだろうが、いつものレイルに比べりゃ全然遅い。
ボンボン達の前に回り込んだレイルは、足を止めてオーガの棍棒を剣で受ける。
俺もボンボン達の間を抜けて観戦だ。
「あー、坊ちゃん方。オーガはレイルが対処するんで、大人しく見ててください。
変に首突っ込むと、却って怪我しますんで」
俺の言葉に、震えながら剣を構えてる三番手以外は、コクコクとうなづいた。
「オ、オーガは強いぞ! 1人でどうにかできるようなものではない!」
三番手の、剣を構えた、なんていったっけ、ボンボンが答える。へぇ、貴族のボンボンにしちゃ、わかってるじゃないか。
「大丈夫ですよ。変に手を出すと、巻き込まれて逆に危ないんです」
「そんなわけが…なんだと…オーガに打ち負けないだと、そんな…あんな細剣で…」
反論しようとした三番手は、オーガと真っ向から打ち合うレイルを見て呆然とした。
「見てのとおり、レイルは力負けしてません。
あの勢いでキンキンやってるところに近付くと、巻き添え食らうんで、黙って見ていてください」
俺の言葉に納得してくれたのか、それ以上口を開く者はいなかった。
ま、しかし、気持ちはわかる。
何度も見てる俺でさえ、何の冗談かと思う情景だからな。
身体強化と剣の強化の併用なんて、ほかでは見ない魔法の使い方だ。あれが魔法だとわかる奴もそうはいないだろう。なにせ、周囲の魔素が減ってるのと、レイルの体が魔力を帯びてること以外、端から見てわかるものがないからな。
魔素や魔力が見える俺だからこそわかることだ。
ああ、いや、レイルが自分の体に何かしてるんじゃないかくらいは、見ればわかるだろうが。
よし、レイルはまだ余裕がある。魔素だけうまく送っておけば、魔石は消費しないですみそうだな。
お、棍棒ぶった切った。お、右足も。
右の太股を半分斬り裂かれたオーガは、支えを失って膝をつく。
畳みかけるようにレイルの剣が右腕を斬り飛ばす。
その後は、もう一方的だった。
左腕も斬り飛ばし、返す剣で首を落として、戦いは終わった。
息も切らしていないレイルを、ボンボン達が呆然と見ている。まぁ、気持ちはわかる。
「ん?」
ふと気付くと、さっき斬り飛ばされた腕に猫が食い付いていた。こいつは、レイルが倒した魔物はだいたい食ってるよな。猫のくせに。ああ、いや、猫だから肉を食うのはわかるんだが、明らかに自分より強い生き物の肉を平気な顔して食うってな、動物としてどうなんだ?
さて、魔石を取るかね。
「あ~、オーガの魔石、どうします? こっちで抜いちまっていいですか?」
レイルが倒したんだし、優先は俺達なんだろうが、一応は護衛中だからな。ボンボン達が自分で抜くんなら、魔石は譲るとしよう。どうせ、そう高いもんでもない。
「いや、倒したのは君達だ。君達のものにするといい」
一番手でリーダーのムーキって奴が答えてきた。なかなか太っ腹じゃないか。それとも、死体に触るのが嫌だからか? ま、どっちにしても、くれるというならもらっておこう。
「レイル、交代だ」
「あいよ、任せた」
ん? このオーガ、足首に妙な跡がついてないか? まるで足輪でもついてたみたいな痣だが…。
魔石取りが終わって顔を上げると、猫がオーガの頭をかじってた。ほんとにいい度胸してるよな。
作業が終わると、またまた進むことになったが、今度は俺達が先頭だ。
こんなところにオーガがいるのは異常事態だから、仕方ないだろう。
探査しながらゆっくり進むが、ほかに動くものはないようだ。段々妙な臭いがしてきた。腐肉…オーガの食ってた獲物か? なら動かなくてもおかしくないが。後ろでボンボン達が臭いと小声で話してる。大声出さない程度の分別があって助かるな。
洞窟の奥まで辿り着くと、食いかけの猪が転がっていた。どうやらオーガの餌で間違いなさそうだ。この前みたいな怪しい魔法陣はない。ボンボン達お目当てのメダルは、猪から少し離れたところにあったようだ。
帰りは安全だろうからと、またボンボン達に前を歩かせる。
さらに2日掛けてギルドに戻り、依頼は無事終了した。
だが。
一応、支部長には報告しておこう。
セシリアに言って、支部長にわたりをつけてもらい、いつもの部屋で支部長と対峙した。
「今回の洞窟、安全だって話でしたね? オーガがいたんですが、心当たりは?」
「オーガがいたのか? まさかまた魔法陣があったなんてことは…」
「ありませんでしたね。ただ、妙でした。オーガの足首に、足輪みたいな痣があったり、殺した猪を一緒に放り込んでおいたり」
「放り込んで? その言い方だと、まるで誰かがオーガと猪をわざわざ持っていったように聞こえるが?」
「そう言ってます。十中八九、誰かがやったんでしょうね。猪の状態から見て、ほんの数日前に。
わざわざ棲み家でもない洞窟の一番奥に猪持って行って食べるオーガがいるとは思えませんね」
「では、誰がやったと思う?」
「今回のお客さんを襲わせたい奴…でしょうね。こっから先は、俺達には関係ない話なんで、後はお好きにどうぞ」
貴族絡みの話に深入りすると、ロクでもないことになるだろうからな。
さっさと降りるに限る。
ギルドを出た後、例によって2人で浴場に行った。
「言っただろ。あの陰険女が持ってきた話なんだから、こういうことになるって、わかりきってるんだよ」
レイルが偉そうに胸を張ってるが、セシリアのせいにするのは、いくらなんでも可哀想だと思うぞ。
「そうやって甘い顔してると、いいように使われるよ。ちゃんと貸しは取り立てないとね」
「取り立てるったって、ネタがないだろう」
「今はね。でも、ネタが見付かったら、すぐに取り立てるからね」
「へいへい」
レイルのセシリア嫌いにも困ったもんだ。
10-R(裏話的別視点)を1/14午後10時頃アップします。