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10-2 洞窟で待つもの

 「で? 貴族のお守りの仕事取ってきたわけ?」


 「あ~、まぁ、な。お前としちゃ面白くないだろうが…」「いいよ」


 「まぁ、そう言うとは…いいって言ったか、今?」


 「顔だけじゃなくて、耳も悪くなった?」


 「まぁ、助かるが…どういう風の吹き回しだ? てっきりゴネられるもんだと…」


 「陰険女に貸し作ってきたんだろ? せいぜい高く恩を売りつけてやろうじゃない」


 なんだか妙な吹っ切れ方だが、乗り気なのはいいことだ。


 「あ、バカの相手はもちろんフォルスがやってくれるよね。

  僕は、いざという時は戦ってあげるけど、それ以外は何もしないからね」


 ああ、そうだろうさ。

 「わかったから、いらない挑発はするなよ。

  貴族のボンボンなんて、まともに相手したら、腹立つに決まってんだからな」


 「なるべく口利かないようにするさ。

  そういう面倒なことは、君の仕事だからね」


 面倒を押しつける気満々のレイルに、面白くないものを感じはするが、かといってレイルが出てくれば厄介なことになるのがわかりきってる。

 どのみち、俺がやるしかないんだよな。

 「へいへい、わかってるよ」


 「じゃあ、よろしくね」


 「おう」





 3日後、門のところで依頼主のお坊ちゃん達と落ち合った。


 「ふむ。お前達が見届け役か? なるほど、装備は貧相だが、体つきは悪くないな。

  剣士と魔法士の2人組と聞いていたが、2人とも剣を提げているのだな」


 「剣を使う場面というのは、意外と多いんで」


 少しばかり偉そうな物言いだが、まぁ、こっちをはっきり見下してないだけでもマシだな。ずっとこのくらいなら楽なんだがな。


 「それじゃあ、俺達はいざって時以外はついてくだけですんで、いないつもりで動いてください」

 「ああ、わかっているとも。

  足さえ引っ張らないでくれれば、それでいい。

  いや、新進気鋭の冒険者が、この程度のことで足を引っ張るわけもないか」


 なんか引っかかる言い方だな。まさか、そういう言い方しかできないとか? レイルとはしゃべらせないようにしなきゃならんな。


 「で、馬車は見当たらないようですが」


 「無論歩く。

  こういった経験は、後々役に立つからな」


 ほぉ。わざわざ歩きを選ぶとは酔狂な。これで泣き言言わずに歩けたら大したもんだけどな。


 まぁ、すぐに音を上げるんじゃないかと思ってたんだが、意外と根性がある。だいぶ息が上がっちゃいるが、誰一人音を上げない。

 わざわざ歩くなんて言い出すだけのことはあるんだな。




 途中二泊したが、契約どおり俺達は一切手を貸していない。

 連中が何を食ったかはよくわからないが、干し肉やらの保存食を持ってきているらしい。あとは、何かお湯に溶かして飲むような塊を持っていた。

 意外に、というか、考えていたのが、進路を川沿いにすることで、水の問題をクリアしたことだ。道々小枝などを拾い歩いて、一旦湧かして飲んでいる。

 手間は掛かるが堅実で荷物を増やしすぎない巧いやり方ではある。

 俺らはといえば、レイルが適当に()ってきた兎なんかを俺が焼いて食べてる。水なんかは、俺がいくらでも出せるしな。

 一応、寝る時には、離れたところで俺が結界を小さく張った。もちろんボンボン達は範囲に入れない。変に動かれても面倒だし、反対側から来られない限りは対応できるしな。

 ボンボン達は、これまた意外なことに慎重で、二泊目は洞窟のすぐ近くだった。

 なんでも、“洞窟に入る前に万全にしてからだ”だそうだ。

 まぁ、領主になるなら、そういう慎重さは大切だろう。

 俺には関係ない話だが。




 「よし、ここだな。入るぞ。剣抜いとけよ」


 リーダーであるムーキとかってのが洞窟を覗き込みながら言う。

 3人とも剣を抜いて、一列に入っていく。

 明かりは、二番手が左手で掲げてる松明だけ。正直心許ないが、ここは口を出さないのが正解だろう。

 まぁ、ちょっとした獣なら、お坊ちゃん1人でも対応できるだろうし、いざとなれば魔法で援護すればいい。

 一応、洞窟内の探査はしているが、このお坊ちゃん達の動きが不規則すぎて、大雑把にしかわからない。今のところ、何もいないようだが。




 洞窟に入って少し行ったところで、何かが探査に引っかかった。意外と大きいな。近付いてくる。…2本足で立って歩いてる? まずい、これはオーガかなんかだ。

 「レイル、でかいのがいる。多分オーガだ」

 隣を歩くレイルに小声で伝える。オーガクラスとなると、俺が咄嗟に放つ魔法くらいじゃ倒すのは難しい。

 レイル頼みになる。しかも、狭い洞窟の中でだ。レイルのスピードを活かせない。

 そして、レイルがパワーを上げるとなると、俺があまり魔素を消費するのはよくない。


 「どうする? 俺が決めるか?」


 事前に準備しておいて先制をかければ、一撃で倒すのは無理でも、半死半生くらいには追い込めるだろう。

 そうすれば、レイルはパワーを上げなくても倒せる。


 「3バカが邪魔しないんなら、それでもいけそうだけどね。

  多分無理だろ。お貴族様には、戦況を読む力なんかありゃしないよ。

  力押しでいこう。タネは秘密ってね」


 「いいのか?」


 「いくら状況が読めないったって、オーガがまずい相手だってことくらいは理解できるだろ。

  力で押し潰して見せて、黙らせる。

  魔素の消費とか考えると、その方が合理的だ」


 そりゃまぁそうなんだが、力押しなんてしたら、どんなぼんくらだって不審に思うだろう。レイルの体格でオーガと力勝負できるわけがないんだから。


 「けど、多分、出し惜しみしてるとヤバいことになるよ。

  なにしろ、あの女が持ってきた依頼だからね」


 セシリアが持ってきた依頼ってだけで、なんでそんなに警戒するんだ。

 第一、俺達が受けてる依頼のほとんどは、セシリア経由なんだぞ。

 「オーガよりヤバい奴ってなんだよ?」

 ここ、洞窟だぞ。


 「オーガが1匹とは限らないし、ヤバいのが魔物とも限らない。

  とにかく、あいつが僕らにって持ってきた仕事なんだから、ヤバいのは間違いないね」


 「まぁ、お前がいいってんなら、俺は構わねぇけどな」


 「フォルスには、魔素の制御をしてほしいんだ。

  ここで魔素を使って、奥に行って薄くなったとこで何かあるってのが一番怖い。

  魔素が僕に集中するように、うまく動かして援護よろしく」


 「ボンボンの中に、魔法使えるっぽいのがいるよな?」


 「知ったこっちゃないね。

  君より上手ってことはないから、使わせる必要(こと)ない。

  無駄に魔素使われると、迷惑だからね」


 ボンボン3人は、剣士の格好しちゃいるが、多分、二番手で歩いてるカーンって奴は魔法士だ。

 ソロの頃の俺と同じように、剣士のふりして誤魔化してるんだろう。将来1人で動くつもりなら、魔法士より剣士で登録した方が面倒がないからな。

 よくある話ってほどじゃないが、そうおかしなことでもない。

 そう考えれば、ギルドから渡された資料に剣士と書かれていることも、俺達を騙そうってんじゃなくて、“そう登録されてるから”ってことなんだろうな。

 レイルが警戒してるのは、多分そのせいもあるんだろう。

 3人が元から組んでたわけじゃないってことも考えりゃ、わざわざ手の内を見せることもしないだろうし、心配するほどのことでもない。

 多分、本当のギリギリ…俺とレイルが助けに入ってもなお負けそう、みたいな状況にならない限り、魔法を使おうとはしないだろう。──つまりは、そんな事態にはならないってことだが。

 1年前とは違う。洞窟内の魔素を使い切ったとしても、魔石がたっぷりある。俺のも合わせれば、魔石が足りなくなる前に食糧がなくなるくらいには。

 レイルもその辺はわかった上で、そいつに魔素を使わせないようにしてるんだろう。念の入ったことだ。


 さて、もうじきオーガとご対面なんだが、ボンボン達、どんな反応するかね。

 10-3は、1/13午後10時頃更新します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >なにしろ、あの女が持ってきた依頼だからね この不思議な勘って、どこから来るんだろう。 ナンパが失敗して逆恨みだけじゃないような? [気になる点] >俺とレイルが助けに入ってもなお負けそ…
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