8-3 魔物との対峙
ギルドの先遣隊と合流した後、洞窟に入ることになった。
足手まといを連れている関係上、下手に敵に接近されるとまずいわけで、探索結界の範囲を前方に伸ばした状態で動くことになる。
その分、背後への警戒が薄くなるが、今回は背後からの攻撃はないと思っていいだろう。あるとしたら、ギルドの連中からの攻撃くらいのもんだ。
万が一も考えると、ギルドの連中に対する警戒も怠るわけにはいかないんだが、正直、こいつらはすぐ近くでごちゃごちゃ動いているから、こいつらまで結界に入れると、魔素の乱れが酷くなりすぎて、何が何やらわからなくなってしまう。
なので、レイルに俺の後ろについて、さりげなく背後を警戒してもらい、俺は前方の警戒に神経を使うということになった。
ゆっくり歩く程度の速さで、奥を目指す。
だが、探索範囲に最奥の広間が入っても、動くものは感じられない。
いや──俺が固定した魔素が、範囲外──奥に引っ張られている。
こいつは、円板の仕業だな。やっぱり魔素を吸収する力があるらしい。
「何かいそう?」
俺の雰囲気が変わったことに気付いたレイルが声を掛けてきた。
「いや。先制攻撃を感知すんのがせいぜいだな、これは」
どうやら、近付くまではじっとしてるって感じだな。
円板を守るためにいるんだとしたら、近付く者を魔法攻撃で全滅させれば、それで用は足りるわけだし。
とすると、先制攻撃を察知し、かいくぐって近付くのが手っ取り早いか。
下手をすると、魔法士の死体が円板と繋がってて、前みたいにぶつけた火の玉を吸収しちまう可能性もある。
それだと、レイルが斬りつけるとまずいことになりかねないからな。
歩く速度を落とし、慎重に進む。
魔素が何かに吸われていくのを感じた。来る!
「伏せろ!」
前情報からしても、風の刃でくる可能性が高い。後ろの連中を伏せさせ、俺とレイルは駆けだした。
「まだ来るぞ!」
言わなくてもレイルにはわかるだろうが、これはどっちかってぇと後ろの連中に向けた言葉だ。
うっかり動かれると、無駄に犠牲が出る。
風の魔法を魔力で感じながら避けつつ進むと、例の魔法士のなれの果てが床に這いつくばっていた。
左手がないくらいじゃ、魔法を撃つのが遅くなってはくれないようだ。
こいつが生前使ってた魔法がどの程度だったかわからないから比べられないが、かなり速いペースで連発してる。
とりあえず土の矢を作って魔法士に飛ばしてみると、頭に刺さった。
なら、次は氷の矢だ。これも刺さった。
効いてる実感はないが、円板への道を塞いでいるこいつが少しでもズレてくれれば、それでいい。
俺は持っていたインク缶の中身を円板に向かってぶちまけた。
黒かった円板は、真っ白とまではいかないが、その大半を白く染めた。当然、紋様は読めなくなっている。
「…どうだ?」
どうやら成功したようだ。死体は動かなくなった。
それでも、魔法士である俺達は触らない方がいいだろう。
途中で置いてきた連中を呼んできて、あいつらに運び出してもらおうか。
魔法士の死体を運び出すことには難色を示したものの、人の死体が動いた理由を解明する必要があるだろうと言うと、納得したようだ。
それでも、また動いたらという不安は拭えなかったので、俺が風の刃で頭と右手を切り飛ばした後、板に載せて紐で引いて引きずることにした。もちろん右手も回収していく。
見た限り、魔素を吸うこともないようだったので、円板の方も運び出させた。
材質は石だったようでかなり重く、2人がかりで運んでいた。
死体の方はギルドで解体することになるから、腐らないうちに早く戻らないとな。