8-2 洞窟の魔物
呼びに来たセシリアについてギルドに行くと、そのまま支部長のところに連れて行かれた。
「すまんな、急に呼び出して。
早速来てくれたこと、感謝する。
例の洞窟なんだが、妙なことになっている」
やっぱりか。何かやばい目的の魔法陣なんだな。
「円板の魔法陣を書き写すために人を送ったんだが、魔物に襲われた」
「はぁ」
魔物が棲み着いて辿り着けないとか、そんな話か? それにしちゃ深刻そうだが。
「魔物は人型で、両膝から下と左手がなかったそうだ」
「まさか、あの魔法士の死体が魔物に?」
「そう考えるのが筋だと思うが、さすがに人の死体が魔物になるなんて話は聞いたことがない。いや、時を経た死体が魔素の影響でスケルトンになるという説はあるんだが、円板に吸い込まれたら魔物になって出てきたなんて話はな」
「魔法陣にそんな力があるってことですかね?」
「昨日見せたあれか? あれは仕組みがわからんから、なんとも言えん」
「魔素を吸い込み、その魔素を使って決められたことをする。そんな仕組みですよね」
「魔素を吸い込む? いや、そんな話は聞いていない。
たしかに、光るからには何らかの形で魔力が生まれてるわけだが」
レイルを見ると、「ほらね」と言いたげな顔をしてる。
なるほど、本当に仕組みがわからなかったのか。
「昨日試しました。
ずっと光らせておくと、やがて光らなくなる。その後、ゆっくりと魔素を吸い込んで、また光るようになる。そんな風に作られてるようですね。
今日は、それを伝えに来る途中でした」
「魔素を吸い込むというのは、確かか?」
「間違いありません。
洞窟の円板みたいな強烈なのじゃありませんが、魔素を吸い込むようになってますね。
だから、それぞれの魔法陣に共通するところを探したら、魔素を吸い込むための紋様がどの部分かがわかるかと思って。
それと、魔法陣は、折り曲げるとはたらかなくなるので、円板の魔法陣を書き写したやつは折っておいた方がいいと思います。
うっかりすると、ここで洞窟と同じことが起こりかねない」
「折るとはたらかない? それも初耳だが」
「昨日の箱、ありますか?」
支部長の前で実演してみせると、驚いている。そんなに斬新だったか?
「たった1日で、ここまでわかるのか? 恐ろしいセンスだな。
この情報は買わせてもらおう。君達が使う分には構わんが、他の者には言わないように。
また何かわかったら教えてくれ。その都度対価を払う」
おっと、意外な副収入ができたぞ。
上手くいけば自分で使えるものを調べて金になるってのは、ありがたい。
「それはそれとして、洞窟の方だ。
見た目も含めて、ノインが魔物化したものに間違いないか確認して、可能なら倒してほしい。
近付くと風の魔法で攻撃してくるらしいから、気をつけてな。
派遣した連中は、それで近づけなくなったらしい」
「まぁ、わかりました。
もちろん、指名依頼の扱いで金になるんですよね」
「無論だ。しかし、こうなった以上、円板も破壊か撤去したいところだが、迂闊に触れるわけにもいかんし、魔法を吸い込むとなると…」
「あ~、壊せるようなら壊してみましょうか? 成功報酬で」
「…アテがあるんだな?」
「うまくいく自信はありませんがね。ああ、それと、壊すとなると、書き写せる状態で残ると約束できないんですが」
「さっきの研究成果か」
「そんなようなもんです。勘、ですがね」
「アテがあるだけありがたい。
成功報酬で払おう。ネタも買い取る。
すぐに向かってほしい。
円板を調べに行った連中は、少し下がって待機しているが、こちらに報告に来た者が馬車を出すから、それに乗ってくれ」
「了解です。
ちょいと小道具を仕入れなきゃならないんで、門のとこで待ってもらえますか?」
「わかった。伝えておく」
ギルドを出る時、レイルを見ると、ニヤニヤしていた。
「なんだよ」
「いやあ、今回はうまく交渉したと思ってね。
僕らを随分と高く売りつけたじゃない」
「調べた結果は俺達が使えて、しかも金になる。予想外にうまくいったな」
「で? 小道具ってのは何かな?
魔力を使わずに魔法陣を壊せるものだよね」
「白のインクだ」
「インク!? …あ、なるほど、そういう…。
フォルスって、時々すっごく頭が切れるよね」
「あんま褒められてる気がしないな」
昨日の考えが正しければ、うまくいくはずだ。
俺達は白のインクを缶で買って、馬車に乗り込んだ。