7-4 魔法陣の実験
迷惑料口止め料込みで渡された“魔法陣”なる紋様。
例の洞窟にあった円板も魔法陣ってことか。
こんな、インクで書いただけみたいなものがどうして光るのか、どう考えてもわからないんだが。
レイルは魔法陣に興味はないらしく、猫を構っている。
「おいレイル、こいつに興味はないのか?
一応それなりの価値があるらしいぞ」
レイルはちらりとこちらを見ると、また猫を構いだした。
「別に、僕らには必要ないでしょ、そんなもの。
下手に使うと、秘密を漏らしたとか言って難癖つけてくるかもしれないよ」
そんな風ではなかったがなぁ。
「とりあえず、この絵みたいなもんが魔法使うのと同じような効果を出せるってんだろ。
光る以外のこともできりゃ、役に立ちそうなもんだがなぁ」
「あのさ、本気でそんなもんが光ると思ってんの?」
「お前だって光ってんの見ただろ」
「光が漏れてるのは見たけど、あれ自体が光ってたかなんてわからないじゃないか」
「インチキだってのか?
けど、魔力を使ってる感じはしなかったぞ」
「まあ、それはそうだけど」
「ま、夜になってみりゃわかんだろ。
この書き写した奴が光れば」
「光らなくてもわかるけどね」
「…そうだな」
夜になって、書き写してきた紋様を出してみた。
「ほら、光らないじゃないか」
「光らないな」
魔法陣は、光らなかった。
「つまらないインチキなんかするとも思えないんだがなぁ」
紙を持ち上げたり傾けたりしているうちに、光りだした。
「うお、光った!」
「え、なに、これ?」
光が強くなったり弱くなったりしているが、確かに光っている。どうなってんだ?
「角度? それとも…あ! ちょっと机の上に置いてみて」
「なんか思いついたのか?」
言われたとおり置いてみると、光が消えた。
「そっちの端、押さえてみて」
手前の両端をそれぞれ押さえると、レイルも反対側を押さえた。
「ほら、光った。伸ばさないとダメなんだ」
曲がると、紋様の形が変わるとかか?
ピンと張った状態で手を離してみたが、光り続けている。
「なるほど、確かにこの紋様には意味があるらしいな」
「魔力とか感じる?」
目に力を入れてみると、紙全体が魔力を帯びている。
「確かに魔力を帯びてるな」
「曲げるとどう?」
レイルが端をつまんで捻ると、光が消えると共に魔力の輝きも消えた。
「どうなってんだ、これ? 魔力も消えたぞ」
「つまり、平面になってるか、図が完全に再現されてる状態じゃないと、魔力が発動しないってことなんじゃない?」
歪むとダメになるってことか? それってつまり
「折りたたみ式の板に書けば、必要な時だけ開いて明るくできるってことか。
すげえ便利な道具になるぞ、それ」
「明かりの魔法を使わなくてよくなるくらいには便利かな」
「とりあえず、俺が普通のインクで書き写しただけで使えるってことは、だ。
例の洞窟の円板を書き写したやつも同じ効力を発揮しかねないってことじゃないか?」
「あ~、そうかもね」
「なあ、それってまずくないか?」
「平気じゃない? 魔石を当てても魔力吸わなかったんでしょ?」
「この紙が折れるとダメだったみたいに、何かがまずかったんだとしたら…。
言っとかねぇとやばいんじゃないか」
「今からなんてどうせ行けないじゃない。
それにさ、ギルドのがダメだったってことは、書き写し損ねてるか、板の形がおかしいかってことでしょ。
だったら慌てなくてもいいんじゃない?」
あ、そうか。なるほど、そうだな。
「レイル、冴えてるじゃないか」
「むしろ魔法士の君が頭が回らないことに驚いてるけどね、僕は。
頭脳労働は君の担当なんだけどな」
「そうかい、悪かったな」
しかし、魔素も使わずに、どうやって魔法を使うんだ? 魔石も魔素も使わずに魔法を使えるようになるんなら、ただの剣士にだって魔法が使えるってことじゃないのか?
そんな便利なもん、どうして知られてないんだ。
いや、そもそもこの魔法陣は、どうやって魔法を発動させてる? 魔法陣自体が魔力を生み出すなら、魔石の代わりに持ち歩くことだってできるんじゃないか?
「ねえフォルス、この紙、いつまで光ってられるかな」
「あ? いつまで?」
「だって、こいつが光るには、何らかの形で魔力を使ってるんだろ? だったら、いつか魔力がなくなるんじゃないの?」
「…なるほど」
言われてみれば確かにそうだ。
何を魔力の源にしてるのか知らないが、確かに魔力は使ってるんだ。だったら、魔力が切れることもあるだろう。
「試しに一日中暗くしといてみるか。
明日の夜になったら箱をどけてみて、まだ光ってるかどうか、確認しよう」
俺は、支部長がやってたみたいに、魔法陣の紙を箱で覆った。明日の夜までこのままにしておいたら、どうなるんだろうな。
謎の技術「魔法陣」の実験をする2人。
フォルスの目は、魔法陣を駈け巡る魔力の流れを映す。
その頃、洞窟の魔法陣はとんでもないものを生み出していた。
次回「ごつひょろ」8話「魔法陣が生んだもの」
謎の技術は、未だ謎。




