6-1 確認依頼
困った。
セシリアに呼ばれて次の仕事を受けたはいいが、レイルの嫌う洞窟の仕事だ。レイルの強みである速さが生かせない。
この前のリザードマンくらいならどうにでもなるが、あれは肩慣らし程度の相手だったから問題なかったんだよな。
とはいえ、今回は調査依頼だ。強い魔物に出会す危険は小さい。と言って説得するしかないな。いざとなりゃ、どうにでもなるだろう。
「というわけで、今回の仕事だ。
こっから南東に少し行った洞窟に、妙な板が見付かったらしい。
どっかのパーティーが報告したらしいんだが、その裏取りと、可能ならどういうものかの確認だ」
「バッカじゃないの!? またあの女狐に踊らされてさ。
どんな色仕掛けされたのやら」
「おいおい、セシリアは色仕掛けできるようなタマじゃないだろう。
どっちかってぇとガチガチの堅物じゃないのか? 今回だって、クドクドと俺達が行かなきゃならん理由を並べ立てられて、俺は石になっちまうかと思ったぞ。
むしろ色仕掛けしてくるくらいの可愛い気が欲しいね、俺は」
「バッカじゃないの。
じゃあ、言い負かされて面倒背負い込んできたってわけ? 色仕掛けにたぶらかされた方がマシかもね」
「お前、さっきと言ってること変わってないか?」
「そんなん、どうでもいいから。
強い奴、出ないんだろうね? ここんとこ予想外の強敵に当たりまくってるんだけど。
わかってるよね? 洞窟の中じゃ、僕、全力出せないんだよ」
「前はな。今なら、魔石も結構溜まってるから、いざとなったら使えばいい。
減るもんじゃなし」
「ふうん。一応考える頭はついてるんだね。わかった。
買い出しは任せたからね」
「わーった、わーった」
ったく、いちいち言わなくたって、事前の買い出しにお前が付き合ったことなんて何回あったよ。
レイルは、こういう雑用的な部分に、驚くほど興味がない。
この程度の遠征なら、大した食い物なんて買っていかないし、新鮮な肉が食いたきゃ現地調達すればいい。
どうせ男の2人旅なんて手の込んだ料理なんぞ、材料があっても作らないしな。
出発して、当然野営するわけだが、。
飯食って結界を張ろうとしたら、レイルに止められた。
そうか、今日は満月だったな。
また月光浴か。
どうせ脱ぐなら、綺麗な姉ちゃんの方が…って、あれ?
「うにゃああぁぁぁん」
おいおい、猫が鳴いてるぞ?
「おいレイル、なんだありゃ? どういう芸仕込んでんだよ」
「僕じゃないよ。
だから、満月の夜、月光を浴びるのは大切だって言ったじゃない。
みゃあは、ちゃんと知ってるんだね。偉いなあ。どっかの大男とは違うね」
なんかムカつく一言が混じってた気がするが、要するにレイルが仕込んだ芸じゃないってことか。
しかし、猫が月見て鳴くってなんだよ。
犬とか狼が月に遠吠えするってのは聞いたことあるけどよ。
「うにゃああぁぁぁん」
月見て鳴く猫と、半裸の優男。なんとも絵にならない組み合わせだな。
夜中、結界に反応があった。
ほんの一瞬で、すぐに消えたから、そこらの野性動物の類だと思うが、この前のこともあるからな。朝になったら、レイルにも話しとこう。
「レイル、一応聞いとくが、トラブルは起こしてないな?」
「朝一番でケンカふっかけてくるとはいい趣味だね」
「夕べ、一瞬だが結界に何かが入った。
すぐに出たが、ちょっと気になる。
この前の奴らかもしれないから、心当たりがないかと思ってな」
「ないね。少なくとも、この街で僕に恨みがある奴がいるとしたら、セシリアくらいだよ」
「よし。んじゃ、前の街の奴らの可能性も考えて動こう。
奴らは、お前の弱点を知ってる可能性がある」
「まさか、あいつらの仲間がまだいるって?」
「可能性の問題だ。
1年も経ってるし、大丈夫だとは思うが、もし調べてたら、俺達の死体がなかったことに気付いてるはずだ。
この街では、俺達もそこそこ上になってきたからな。顔も多少売れてる。
用心しとくに越したことはない。
念のため、魔石の確認しとけよ」
「わかった」
6-2「1年前」は、8/24午後10時に更新します。




