4-1 試験官の依頼
魔狼討伐から15日ほど過ぎた。
イアンのパーティーが壊滅した以外には大した被害もなく、魔狼事件は一応の解決を見た。
本来、もっと北に住むはずの魔狼がこの辺の森にいた理由については、ギルドの方で新たに調査隊を派遣するそうだ。
もう魔狼もいないはずなので、今回は調査や追跡が得意なパーティーに依頼するそうだ。
俺達は、あの件では十分稼いだので、これ以上やって荒稼ぎしてると思われても癪だし、手を引いている。
セシリアは残念そうだったが、俺達でなければいけない理由は思いつかなかったらしく、大人しく引き下がってくれた、
“フォルスさん達じゃないといけない気がするんです”と言わなかったのは、レイルに言わせると、「だから、その辺りは信用できるって言ったろ」ということらしい。
魔狼絡みでも俺達の実入りは、当初の野犬退治の報酬が40ジル、魔狼1頭討伐の追加報酬が100ジルと魔石が500ジル、探索依頼が300ジルと“手負い”討伐で500ジル、最期の1頭討伐で600ジルと魔石が200ジルと500ジルの、しめて2,740ジルだった。
はっきり言って、3か月くらいは遊んで暮らしてもおつりが来る額だ。
オマケに、この件で6級に昇級しちまった。
もしかしたら、セシリアにも何か余録があったかもしれないな。
担当の冒険者に功績を挙げさせたらマネージャーも評価されるとか、ありそうだよな。
失敗したら減点とか。
そうじゃないと、担当の冒険者に無茶な仕事をやらせまくるようなマネージャーも出かねないし。
セシリアは、まぁ、きちんと俺達のことを考えてくれる部類だろう。
やってほしいとは言ってくるものの、断れば引き下がる。
俺達と…というか、俺との信頼関係を築こうという意思と努力が感じられる。
その意味では、俺は運がいい方なんだろう。
レイルがセシリアを嫌っている理由がどうもよくわからないんだが、少なくともセシリアの方からレイルに対する敵意や悪意は感じないから、レイルの方で何かあるんだろう。
今日の目的は、肩慣らし程度の依頼探しだ。
魔狼との戦いは、神経をすり減らしすぎた。
探索し続けながら森を一周とか、悪い冗談だ。
そういう細かい作業は確かに得意なんだが、消耗が尋常じゃない。
そんな神経をすり減らすようなことばかりしていると、本当に命を縮めかねないからな。金に困っているわけじゃないから、無理する必要はない。
…てなわけで、今日は軽い仕事を探しに来た。
「セシリア、手軽で疲れない仕事、なんかないか?」
「フォルスさん、手軽で疲れない仕事って何ですか? そんなものがあるなら、私も紹介していただきたいのですが」
「魔狼の件では、かなりきつい状態が続いたからな、ここらで勘が鈍らない程度に気楽な仕事をしておかないと、すり切れちまいそうなんだ」
そういうと、セシリアも負い目を感じるのか、少し考え込んだ。
「そういうことでしたら、ちょうどいいお仕事があります」
少し考えたセシリアが、にこやかに言う。
「10級冒険者の昇級試験官をやっていただけますか?」
「試験官? 俺達がか?」
「ええ。フォルスさんも6級に昇級しましたし、6級としての初仕事ですね。
基本的に、6級に昇級すると早い時期に回ってくる仕事なんです。
断っていただいても構いませんが、いつかはやっていただかなければなりませんし、今回の受験者はまともな方々ですし、今おやりになった方がよろしいかと思います」
ああ、6級になると、そういう面倒な仕事もあるんだったか。
たしかに、いつかやらなきゃいけないんだし、セシリアがまともと言うくらいだ、今回やっちまった方が得か。
「わかったが、試験って何するんだ?」
「今回は、薬草採取になります。
ミツバ草を30株採取が目標ですが、採取場所は指定されていません。
期限は6日で、採取場所の選択から、移動時の保存方法の検討など、過程も重視されます。
もちろん、実際に持ち込まれたミツバ草の状態なども試験対象となりますが、それはギルドでやりますので。
ですから、フォルスさんにお願いするのは、彼らが試験内容となる依頼を受けてから、終了してここに戻ってくるまでの行動記録となります」
「ミツバ草の採取なのは、何か理由があるのか?」
「いえ、特には。
あまり有名ではない薬草ということで、9級への昇級試験の課題にはよく選ばれるんです。
ああ、フォルスさん達の時もミツバ草だったんでしたね。それでは、ちょうどよかったです」
そう、俺達の時もミツバ草の採取だった。
ミツバ草は、毒消しの材料になる、その名のとおり葉が3枚一組で付いている草なんだが、あまり知られていないので、“それが何に使われて、どういう性質か”というのを調べるところから始まるのが一般的だ。
採取する時は根の周りの土ごと取る、隣り合った株を両方抜いてはいけない、運ぶ際はできるだけ冷たい水に根を浸して、など注意点が多い。
オマケに、通称“ヨツバ草”という、よく似た草が近くに生えてることが多いから、初心者泣かせだ。こういうのを昇級試験のネタにするあたり、ギルドも色々考えてるんだな。
もちろん、9級なんて初心者のうちだから、多少のミスがあっても昇級はできるんだが。
セシリアの話によると、試験官の冒険者とそれなりに友好的にやれるかってのも判断の材料になるらしい。
試験官の仕事が行動記録をつけるだけというのも、試験官によって評価の基準が変わるのを防ぐためらしい。
「で、相手はどんな連中だ?」
「剣士2、弓士1の3人組で、同じ村の出身だそうです。
ここまで薬草の採取を中心に、特に問題なく順調に業績を上げていますね」
「わかった。優等生なんだな」
「ええ。資料によると、態度などはむしろレイルさんに見習ってほしいくらいですよ」
「おいおい、いがみ合うのは勘弁しろよ。何もいいことないからな」
「大丈夫です。ご本人には言いませんから」
「頼むぜ、おい」
宿に戻って、レイルに仕事の話をすると、
「ふうん。ま、適当によろしくね。
僕は役に立ちそうにないから。
街を出る段になったら、呼んでよ」
と、あっさり逃げられた。
そりゃまあ、この手の話だとレイルがやりたがらないのはよく知ってるが。
仕方がない、俺がお守りか。




