25-4 決着
魔神の爪が、剣を失ったレイルを襲う。
レイルは、自分の剣を抜いて爪を受け止めたが、そのまま吹っ飛ばされた。
残った魔力じゃ、剣を強化するのが精一杯で、受け止めきるだけの力までは出せなかったんだろう。
派手に吹っ飛ばされたレイルは、運良く俺の方に来てる。これなら、近くに行ってやれる。
魔神の右前足と顔に向けて、炎の槍を2本放ちながら、身体強化してレイルのところに行く。炎の槍は牽制だ、どうせ落とされるが時間稼ぎにはなる。
レイルはうずくまったままだ。
魔神は、顔に跳んだ炎の槍を右前足で叩き落としたが、前足に向かって放った方は、右後足に当たって、多少痛かったようだ。ざまみろ。
レイルのとこに駆け付けると、魔神が前足の爪を振るった。爪に宿った魔力が氷の刃になって、飛んでくる。
レイルを抱えて跳んで避け、跳んだ先で分厚い土の壁を作った。これで一撃くらいは耐えられるだろう。
「バッカじゃないの! なに無茶やってんのさ!」
抱え上げられながら、レイルが文句言ってきた。
そりゃ、俺も少しはそう思わないこともないが。
「お前は俺の相棒だ。ほっとけるかよ」
土の壁の上を通して山なりに火の矢を飛ばしつつ、後ろに下がって見えないように土の壁をもう1枚作る。
「レイル、やりにくいだろうが、これ持って戦え」
ジークの紋章を渡して言うと、レイルは紋章から魔力を補充しながら、怒鳴ってきた。
「バッカじゃないの!? それじゃ、君が魔法使えないじゃないか!」
「どのみち、俺の魔法じゃ奴には大した傷は付けられない」
「それでも、君の援護は必要だよ。
だから、紋章は君が使いなよ。
僕は魔石でいい。さっきみたいに攻撃減らして魔石に魔力を補充してよ。取りに行くから」
なるほど。魔石なら、一気に吸い上げて使えるから、両手が自由になるか。
「わかった。とりあえず、これ使え」
狭間から出てすぐに魔力を補充した魔石を渡す。空になった魔石は、まだ懐にいくつかある。
2枚の土の壁は、氷の刃に3回耐えた後、崩れた。
俺とレイルは、壁から左右に飛び出して、また攻撃に戻る。
炎の槍を三段重ねで1本に見えるようにして撃ち出し、後は魔石に魔力を注ぐ。
レイルが妙に生き生きと動いてて、魔神は手を焼いてるようだ。中身がフリードで、四つ足に慣れてないお陰で本当に助かる。
炎の槍の真ん中辺を左前足で叩いたが、先端と後ろの2本が左肩に当たった。その間にレイルが右前足を完全に斬り落とした。よし、これで足は3本。右後足もほぼ使えないから、魔神は半分横倒しみたいになってる。
「次、ちょうだい」
戻ってきたレイルに補充の終わった魔石を渡して、前の魔石を回収する。
「やっぱり君の魔力はいいよ。ちょうど満月だしね」
と言いながら、レイルが駆け出す。実際、レイルの胸の辺りから、金色の光が漏れてるのが見える。
そうか、満月だから、レイルの中の魔石の力が上がってんのか。
そういうことなら、俺は魔石の補充を優先した方がいいな。
レイルが魔神の腹を斬りやすいよう、前足を狙って炎の槍を飛ばす。
二連でやったり、三連でやったりして落とされにくくすると、魔神は狂ったように前足を振り回して槍を落とす。その間にレイルが左後足もぶった斬って戻って来た。
「ほい、交換」
もうレイルは全身が光ってる。満月の力ってすげぇんだな。
魔神の左前足も斬り飛ばしたレイルがまた戻って来た。
「これででかい魔法でも撃てるね」
そうは言うが、さっきからあっちも氷の矢を撃ち出そうとしてんだぞ。フリードがあいつん中に入っちまったせいか、こっちの攻撃が当たると消えるから助かってるが。
「ゆっくり準備する余裕はさすがにねぇぞ。
爆裂すんのを腹に撃つから、お前は首頼む」
「ほいよ」
魔石を交換したレイルが駆け出すと同時に、爆裂系の炎の杭を作る。
「よせ、やめろ!」
命乞いでもしてるみたいな魔神の喉をレイルが斬り裂いたところで、完成した炎の杭を撃ち出すと、腹に刺さって爆発した。
と、急に紋章から魔力が入らなくなり、同時に魔神が氷の矢を素早く作って撃ってきた。1本くらいなら避けられる。その間にレイルが喉をさらに斬り裂いた。腹に爆発食らわせたのが効いたみたいで、もう死にかけだ。
なぜか紋章から魔力が入ってこなくなって、俺はもう打ち止めだから最後に補充した魔石は、レイルのための切り札だ。
なんだ!? みゃあが魔神の腹に潜り込んだぞ!? こうなりゃ下手に攻撃はできねぇな。
そうこうするうちに、レイルが完全に首を落としたんで、レイルに近付く。
ん? なんか、魔素が戻り始めたか? まだ薄いが、魔素がある。
フリードが死んで、結界が壊れたのか? 結界ってそういうもんじゃねぇよな。
「レイル、最後の魔石だ。念のため持っとけ。
なんか、急に紋章から魔力が入らなくなったから、もう魔力の補充がきかない」
魔石を渡すと、レイルはいつもの姿に変化して答えた。
「魔素が戻ってきてるね。結界が壊れたんじゃないかな。
ほら、魔神の封印も見えなくなってきてる」
言われてみれば、フリードの死体のとこの魔法陣も見えなくなってるようだ。
魔神の腹から、血塗れのみゃあが出てきた。魔神の魔石を掘り出したらしい。いつもどおり、舐めてる。
ん?
「おい、みゃあ、ちょっと見せてみろ」
魔石がなんか変だ。
みゃあが魔石を放さないから、しゃがみ込んで眺めてみると、魔石にはなにか彫られてるようだ。
「魔法陣…か?」
どうやらフリードは、魔法陣を刻んだ魔石を核に魔神の複製とやらを作ったらしい。
フリードが自由に操れたのは、この魔法陣とフリードが立ってた魔法陣が対になってたからのようだ。
「疲れてるとこ悪いんだけどさ、僕も相当ギリギリだから、今夜もセシリアとよろしくやってね」
あんなことがあったのに、レイルはいつもどおりだ。
まぁ、セシリアと競われても困るからな。
「俺も疲れてんだけどなぁ」
「君はセシリアと楽しむ、セシリアは君が無事帰ってきて大喜び、僕はおこぼれを貰う、みゃあは魔石を舐める、ほら、みんな幸せだ」
「お前なぁ…」
こうして、フリードによる魔神騒ぎは終わった。
フリードによる魔神復活事件は終わった。
ようやくギルドお抱えから脱したフォルスとレイルだったが、オーリンがにこやかに迫る。
次回「ごつひょろ」最終話「ごつい魔法士とひょろい剣士」
「早速だが、指名依頼だ」




