再起 4
「おい!何やってるんだ?戻って来ないから、嬢ちゃん達が心配しておるぞ?」
ニックがいつまでも戻らないギクリとヒノクの様子を見に来た。二人がドラムの部屋の前で、ボーッと座っているの見て、何をしているのか声をかける。
「あ、兄さん、ドラム兄が目覚めたんだけど、ちょっとねぇ、」
「お、そうか、ドラムのやつ、やっと起きたのか、良かった、良かった。で、どうなんだ?やっぱり、ボケてきてるのか?」
「そうではないみたいなんだけど、ちょっとした行き違い?でまぁ、今、そのこと説明してるのだけどね、」
「そうなの、ニックだから、ちょっと中で取り込んでいて、もう少し、」
「そうか、よし。なら儂も手伝ってやるか!おい、今いいか?おい、ドラム、実はちょっと頼みたいことがあってな、入ってもいいか?」
ニックは二人からドラムが目を覚ましたという話を聞いて、ドラムがベスに謝罪と感謝、これ迄の想いを伝える部屋にそのまま突入しようとした。
「待って!兄さん、それはやめてあげて、」
「駄目よ!貴方、それは駄目、」
「ニックか、そうか、お前もやはりいるんだな。ああ、いいぞ入ってくれ、お前さんは儂たちを案内してくれるのか?」
「待って、ニックさん、旦那様ももうちょっと話を聞いて、」
部屋の前にいる2人は懸命にニックを止めようとするが、ドラムはニックをそのまま部屋に招き入れてしまう。
ニックはドラムの許可を得ると扉を開ける。中では穏やかな、それでいて覚悟を決めた顔をしたドラムがベッドから身を起こし、入ってきたニックの方に体を向けていた。
その隣に居るベスはいきなり現れたニックに声をかけ、更に、話を聞こうとしないドラムに何とか状況を伝えようと顔を真っ赤に染めて努力していた。
「案内?何で儂が?お前の屋敷だろ?」
「ああ、本当に儂の部屋みたいだ。そっくりだな。お前さんも昔と変わらんし、」
「おい、お前、ほんとに大丈夫なのか?ベス?こいつ、一体どうしたんだ?」
「あ、あの、実は、皆さんのことを、訳アリだと思い説明していなかったんで、ちょっと混乱してしまい、」
「兄さん、落ち着いてね?ほら、姉さんも、」
「ニック、ベスも悪いって反省しているから、」
「ん、…ああ、そうか、」
向かい合うニックとドラムは、どこかかみ合わない会話を始める。ニックは不審に思い、隣にいるベスに問いかける。ベスから搔い摘んだ説明をもらい、ニックは少し考えこんだ。ニックに遅れて部屋に入った二人は慌ててベスの弁護を始めるが、ニックは二人の言葉を無視して考える。
ー成る程、事前に聞いていなければ、死んだはずの自分がいる事は確かに驚くことだろうなぁ、もう一度、一から説明しようかのぉ、いや、もう日にちもないらしいし、一気に話すか。
「おい!ドラム!よく聞け!お前に頼みたいことがあるんじゃよ!」
迫る期限を思い出し、あれこれ考えるのが面倒くさくなったニックは直接ノイエから頼まれていたことを口にする。
「ドラム、第三王子の結婚式に儂らを参加させてもらえないか?」
ドラムは死んでまで、死者の世界に来てまでそんなことを頼まれるとは思わなかった。だから、よく考える。記憶を少しずつ辿る。
目を覚ます前のことを、会議の場にて第三王子からの結婚式の中止を口にされたことを、決して早まるなと厳命されたことを、馬車で屋敷に戻ってきてそこにニックがいたことを、そして、今、見慣れた部屋に、妻の体温を重みを感じていることを感じる。
「…、ここは、死者の世界ではないのか?」
「正解じゃ、おめでとう。ここは、お前さんお屋敷で、儂らは儂以外はみんな生きておるよ。」
「そうか、いや、そうだよな、…では、ニック。お前はいったい、いったいお前はなんなのだ?」
「儂は、…未練かの。まぁ、悪さはしないから、安心しろ。で、その、さっきの件は、参加はできるか?」
ドラムがようやく現状を認識し総合的に判断する。ここは、自分の屋敷で、自分はまだ生きているのだと。
本来、ドラムは王国の忠臣、王家の崇拝者である。第一王子からあれほど強く命令されていては、自決を選ぶはずがない。仮に、王家から何らかの処罰を受けていたのならその際の記憶があるはずだが、それもないならば、夢か夢みたいな現実かのどちらかになる。
どちらにしても、今いるニックが自分に、ベスに、何か脅威を与えることはないと分かり、ドラム少し安堵して答える。
「すまんが、希望には添えそうにない。」
「なぜじゃ!人数が多いというなら、」
「人数ではない、結婚式が、結婚自体がなくなるのだ。」
「はぁ?あの王子は、ノイエを振って、また、振るのか?なんじゃ、そいつは!どんな色男気取りじゃ!許せんの!」
「そうではない、今王都では、」
ドラムが、第三王子の結婚が中止になるという話をすると、ニックはノイエを捨てた身勝手な第三王子を完全に悪者にして怒り出す。ニックの中では王家は既に敬意を払うどころか、どうでもいい存在になり下がり、ノイエの元婚約者第三王子などは存在も許せない相手である。
しかし、ノイエが、ノイエから頼まれていることがあるので、ニック一同はドラムの協力を得て、結婚式に参加する必要があった。それなのに、その結婚式が中止になるとは、これでは、ノイエの願いがかなえられない。
ドラムからの王都の話を聞き、ヒノクが絶句し、ギクリが顔を青ざめる。
「それで今、王都ではとにかく治安が悪く、この状況では、結婚式を挙げるべきではないと第三王子から言われてな、全ての職責を外して戻らされた。」
「教会での衝突って怪我人は、死者はいるの?それに教会の騎士団って聖堂騎士団?王都に何でいるの?」
「人も物も入れないなんてすれば、物価高になるに決まってるじゃない?ドラム、あなた何を考えているのよ!」
「ヒノちゃん、ギクリちゃん、悪魔って、あの悪魔さんのこと?あれを怖がるの?」
ドラムは自分の知る限り今の王国の現状を説明した。ヒノクもギクリもベスもそれぞれその話に反応を示す。そして、最期までドラムの話を聞いていたニックが最後にドラムに訊ねる。
「…、ドラム、なんで、そんな状況でお前が戻されてくるんじゃ?」
「責任を取るといったのだが、サダーク王子に止められてな、儂は、自分の尻も拭かせてもらえんかったのさ、」
「それで、先の死者の国か…、しゃーないのぉ、お前さんの為にも頑張るとするか、…そういえば、鳩が来ていたらしいが、見たか?」
「鳩?」
「ああ、そう、これがついていたの。」
ドラムが辛そうな顔で話す言葉を聞きながら、ニックはノイエの頼み以外にもう一つ背負うことを決める。
そして、もう一つ、気になっていたことを口にした。
ニックが生前何度か目にしたもの、急報を知らせるために使う特別な赤い目をした鳩。
ニーナが見つけ、ギクリに渡したそれは、本来、余程の大事以外には使われないものであった。




