学園生活過去編 2
ザーマの視点
いい香りがする。
なんと言えばいいのか、花のような甘い香り。
ホッとする甘い香りの中で、温かくて柔らかな体に包まれて無限の優しさを感じる。
もう、何時間でもこのままで生きていける。
というか、ここで死ぬ。ここに墓を作る。
無理、もう無理。
異世界ファンタジーなんか要らない、学園百合でいいじゃない?いいよね?いけませんか!ホワイ?ジャパニーズピーポー!
あぁ、ノイエ様、ノイエお姉様、お姉様、前世で姉が持っていた少女漫画の女の子達が上級生にメロメロに心酔する理由が分かる。
これだ。
これを味わうために、私はダーティな貴族社会とイミフな男どもに追いかけ回されていたのだ。
あぁ、尊い。
精神は男だけど、体は完全に少女だもの!
健全よ!超健全よ!
あぁ、同い年だから、せんぱいと呼べない。お姉様とも呼べない。憎い、なぜ、あと一年遅れて生まれてこなかった。違和感なくお姉様と言えたのに、チクショウ、自分が憎い!
あれ?
お姉様?急に力が、ぁん、痛いけど、気持ちいい!あぁん、お姉様、どうしたのですか?
具合でも悪いのですか?
顔が赤いですよ?
「ノイエ!」
第3王子が満面の笑顔を浮かべて私たちの世界に駆け足で近づいてくる。
初代より脈々と受け継がれた鮮やかな黄金の髪に美しく整った顔立ち、ともすれば、人らしい暖かみを感じない冷たく完成された美であるが、そこに浮かんだ花が咲き誇るような笑顔は確かに温もりのある人間だと思えるものであった。
「ノイエ、迎えに来たよ!さぁ、一緒に行こう!」
そんな、ちょっと人間のレベルを越えちゃった第3王子様から、何度も、名前を呼ばれてお姉様は顔を真っ赤に染める。
「あの、今、そちらに」
「ノイエ、こちらを向いてくれ。君の顔を見ないと一日の始まりが憂鬱で仕方がない。」
「メラク様、ここで、そんな恥ずかしいことは、」
「ああ、すまない。しかし、真実だからこそ、俺は口にするんだ。」
「・・・」
「俺は、ただ正直に生きていきたい。君のとなりで、これから先ずっと。」
先程から、火が出るほどに顔を真っ赤に染めたお姉様が超かわいい。背景にポッ!とかプシュー!とかの文字が見える。
ってじゃない、おい、こら!テメェ!
目ん玉何処につけとんじゃ!ボケ!
ここは、男子禁制の乙女の園じゃぞ!
お姉様が誰のものかハッキリさせんとなぁ?
「おね、ノイエ様、あの、私、お邪魔ですか?」
「あ、いえ、ザーマ様、じ、邪魔など、」
「良かったぁ!」
更に、ギュッとお姉様との距離を埋めるハグを実行する。
聴こえたかなぁ?
王子様?私、必要なの!
ノイエお姉様に必要とされてるの!
さぁ、失せな!とっと、どっかに失せなさい!
「・・、なんだ、また、ハイビッシャーの娘の面倒を見ていたのか?」
「あ、はい、その、今日も詰め寄られていて、お助けしないとっと」
「あぁ、おね、怖かったです~」
「もう、ザーマ様、大丈夫ですよ。私がいますから、」
「ノイエ、あいつらは、君になにもしなかったか?」
「え?はい、特に何も」
「そうか、わかった。俺からもキツく言っておこう。」
「そんな、悪いですわ」
「いいんだ。おい、お前のこともあいつらに話しておく、もう、安心して一人で通えるから、な!」
ようやく、朝の騒動が終息に向かう。
さっきは家名で呼んだくせに、今度は、お前呼びですか。
ちっせぇえ男だなぁ、王子様?
「良かったですね!ザーマ様!メラク様が何とかしてくれますわ!」
「・、そうですね。あいつらの事はホントにどうにかして欲しいです。」
「大丈夫です。メラク様ならきっと。」
「おね、ノイエ様、今日は一緒に学園に行ってくれますか?」
「ええ、一緒に行きましょ!ザーマ様!」
精神を病んだ母親の下でザーマは、自分では健全に育ったつもりであった。少なくとも、前世での経験や記憶等からまっさらな状態よりは、成長した精神力がなければ、もっと人間性が壊れた人間になっていたか、この年を迎える前に儚くなっていた可能性のほうが大きい。
しかし、そうは言っても、感受性の高い時期に一番身近にいる大人が壊れかけていた影響は彼女の根底に強く残った。
ノベルゲームの中に、そういったトラウマから愛する相手に執着するキャラクターがよくいる。
愛を求めるという行為は正当であり、なんらおかしなことではない。
しかし、そういったキャラクターの多くは、相手の事を無理やり求めるキャラクターとして描かれている。
幼少期の愛を知らない為に、その代償のように、成長してから愛することを求めるキャラクターは、根底の部分で刻みつけられた痛みによって行動や思考に変化が生まれたのだと考えられる。
だからこそ、ノベルゲームの中には、そういったキャラクターの持っている痛みを取り除くことができる万能薬が存在する。
登場するキャラクターとの僅かな関わりで、悩み事を受け入れ、一緒に成長してくれる存在、主人公やヒロインと言われる彼らは、逆に考えれば、そういった問題を抱えた人間なら無条件に引き付けてしまいのではないだろうか?
「ノイエ様、手を繋いでもらっていいですか?」
「え、ふふふ、いいですよ。ザーマ様!」
「あ、ありがとうございます!」




