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学園生活過去編 1



「ひぃぃ!来るなぁぁああ!」


「ザーマ様、おはようございます!」

「全く、貴女はいったい何を考えているのですか?」

「おはよう、可愛い姫さん」

「おはよう!お姉ちゃん!」


王立の貴族子息が通う学園に今日も悲鳴が響く、約2年近く毎日響く悲鳴は既に名物となっていた。

悲鳴を上げているのは、この国一番の貴族ハイビッシャー家の令嬢で、そのあがる悲鳴を無視して、赤髪の騎士見習いの格好をした青年、銀髪で一目で上等な身なりと分かる服を着た青年、くすんだ色合いの金髪の制服を着崩している男と、日に焼けて赤く見える茶髪の少年の四人はそれぞれ声をかける。


「近づくな!来るなぁぁああ!指一本近づいてみろ!声出すぞ!大声だすからなぁぁ!」


「ザーマ様は、今日も元気一杯ですね」

「ふん、今日も無駄に元気ですね。貴女は」

「はいはい、姫さん、今日は忘れ物とか大丈夫かい?」

「お姉ちゃん!今日は一緒に学園に行こうね?」


「くるなぁぁぁああああ!」


この学園に通う生徒は三種類に分かれる。特殊な才能が認められ王国を支える官吏、武官を目指して王国の全土から集められた者達。領地を拝領し、爵位を受け継ぐ為に学と箔をつけるのを目的に通う者達。ただ王国に逆らわないという意思表示のために人質として送られた子供の三種類である。


ザーマは人質兼特殊な才能が認められた子供であった。入学早々に成績が優秀て人格面に難のある男子の何人かを本人も知らぬままに籠絡した結果、本人の容姿と相まって学園でも知らぬものがいない存在になりあがっていた。


籠絡したと言ったが、本人はただ自己紹介と学園の行事を共に過ごしただけだと思っていた。しかし、美少女からの毎日の挨拶と特別な体験を共にこなしたという経験は思いの外、簡単に好感度を押し上げ、学園の卒業式を前にしてカンストしている状態であった。


だから、学園の授業がある日は必ず決まって、四人の生徒がザーマを迎えに宿舎に揃い、前後を囲って共に登校しようと声を掛ける。精神が男性であり、幼少からのトラウマで男性恐怖症のザーマは毎日悲鳴を上げて、その場から逃げ出すまでが毎日の光景となっていた。


「だれかぁぁあああ!たすけてぇぇぇええええ!」


「ザーマ様!何をされてるのですか!嫌がる女性によってたかって!恥ずかしくないのですか!」


「ノイエ様!あぁ、たすけて、」

「ザーマ様、私の後ろに」


「・・、おはようございます。」

「これは、婚約者様。おはようございます。」

「おはよう。お嬢さん。」

「チッ、じゃあ、お姉ちゃん、また、来るね?」


叫ぶザーマの前にノイエ・ノーキン子爵令嬢が立ち、迫る四人からザーマを守るように立ちふさがる。露骨にテンションが下がった四人は、目も合わせないでおのおの言葉をかけて散っていった。

四人の姿が見えなくなると、ノイエはザーマの方に体を向けて、優しく体に触れる。


「ザーマ様?ご無事ですか?」

「怖かったよぉぉおおお」


ノイエの優しい声と温かい手のひらに、ザーマは本当に安心して、顔をくしゃっと歪めながらノイエの胸に抱きつき、人目も憚らずに声をあげた。そんなザーマを手慣れた様子で、静かに受け止め、ノイエが頭や背中をゆっくりと撫でる。

朝の悲鳴で目を覚ました宿舎の子達が、今日一日の活力を得られる尊い光景はしばらく続き、やがて、ノイエが手をゆっくりとザーマから離していく。ザーマは少し不満そうな視線をノイエに向けるが、ノイエは我慢しなさいとまるで幼児を諭す母親のように、穏やかな表情で視線の抗議を受け流した。


「今日はどうされたのですか?」

「あいつらに見つからないように、窓から学園に行こうとしたのだけど、」

「窓から?いけません!ザーマ様、どこか怪我はございませんか?」

「いいえ、あの、ノイエ様、怪我はしてません。」

「そうですか、ああ、良かった。でも、窓からなんて危ないですよ!ザーマ様!」

「えっ、ご、ごめんなさい。あ、あの、怒っていますか?」

「はい。怒っています。ザーマ様、危ないことはしてはいけませんよ!」

「あぁ、ごめんなさい。ノイエ様、あの、そのね、」

「・・・、ふふふ、ザーマ様、私に様付け要りませんよ」

「え?」

「冗談が過ぎましたね。ザーマ様。先程までの失礼な言動を謝らせていただきますね。ザーマ様、大変申し訳ありませんでした。しかし、もう二度と窓から外に出るなんてお止めくださいね?」

「えっ、あの、その、ごめんなさい!もう、危ないことはしません。で、ノイエ様は私を許してくれるの?」

「・・ぷ、ザーマ様、申し訳ありません。はい。もう、怒っていませんよ、ザーマ様」

「よ、良かったぁ」


ノイエから許しを得られた安心からか、ザーマの体から力が抜けていき、再び、目の前にあるノイエの胸元に顔を沈める形となった。いきなりの事に今度はノイエが固まるが、肩を掴んで突き放すような真似は出来ずに、先程のよりも、弱冠、困った表情でザーマの体を受け止める。

再度、甘い空気が世界を包もうとしたが、今度は許されなかった。


「ノイエ!いるか?」


この国の第3王子メラク・ミスリー・オーランドがノイエを探しに宿舎に現れ、どこまでも優しく受け止めてくれたノイエの体に緊張が走るのが、ザーマにはわかった。

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