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悪魔編 2

 闇夜の中を、ニックは生前の格好で歩いていた。背中には、安らかな寝息を立てる孫娘ノイエを背負い、蒼白い火の玉と共に目的地に向かう。


 あの後、悪魔はニックの墓を掘り起こし、彼の遺体と共に埋葬された兜や鎧に力を注ぎ込んだ。今、ノイエを担いで動いているのは、中身が空っぽの鎧で、ただニックの霊体がとりついて動かしている。


 なんで、掘り起こしたのか?


 霊体のニックは、ノイエに触る事が出来なかった。仮初めでも形代を求めて、死んだ時に一緒に埋められた兜や鎧を思い出した。


 悪魔が運べばいいじゃん?


 ノイエに少しでも触れば、100辺殺すと悪魔はたっぷりと脅されていた。


 悪魔は、存在が消え失せるぐらい力を使って、大英雄が生前愛用した聖なる力を秘めた鎧を、動く鎧に作りかえ、結果、力を失い゛魂を誘う鬼火゛に成り下がった。


 闇夜の王都を、鬼火と歩く鎧がずんずんと進む姿は、後日、噂になるが割愛させていただく。


ニック・ノーキンの視点


 こっちじゃ、はよせんか!

「あ、あの、私、ここから先はちょっと、」

 なんじゃ!いうことが聞けんのか!あぁん!

「いえ、あの、あのですね、私は、」

 はっきりせんか!

「は、はい!悪魔なので、教会には入れません。」

 ん?

「ですから、私は、悪魔なのでこの先の、教会の敷地には入れません。」

 気合いを入れろ!

「」

 ここは、孤児院と学校だ!教会はついでだと思ってついてこい!

「」


 魂を誘う鬼火の視点


 悪魔は、正直に自分の存在を悪魔と口にした。本来ならば、悪魔は人間を騙すなり、惑わせるなり、不誠実な存在だが、ニック・ノーキンを前にして正直に語る以外の道がない。


 なんせ、親方衆から何度も聞いた伝説の化け物なのだから。大頭目様が長い間準備した策を打ち破り、そのまま斬りかかってきた化け物。とても、齢100年のちびっこ悪魔の手に負える相手ではない。


 化け物の孫娘だと知っていれば、絶対に、ぜーたいに、手を出さなかったのに、なんで、自分の孫娘にとりつくのか。悪魔にとってはあまりに不幸で、最悪で、予想外な展開だった。


 暗闇の中を、あまりにも濃い執着心をまとわせた少女を見つけた時は驚いた。よくここまで無事に生きてこれたものだと感心した。それほどまでに上質な執念の持ち主をものしなくてはと息巻いた。


 人を呪わば、穴二つ。


 何かにとりつき執着する人間の心は悪魔にとっては、何物にも代えられない美味しい存在なのだ。早速、声をかけて、取引を持ちかけた。


 向こうさんは、かなり衰弱した様子で、なかなか話が進まない。ささっとまとめて、”いただきまーす!”と言いたい。仕方がないから、まとわりつく怨念に持ち主の姿の幻を生み出したら、そのまま乗っ取られてしまった。


 いくら何でも滅茶苦茶だ。悪魔が生み出した幻にとりつく魂なんて聞いたことがない。こんな化け物の孫娘に、関わってしまったのが運の尽きだ。親方達も苦笑いのレベルだ!


 化け物は、死んでいるのに強い力を持っている。


 既に力の大半を失ってしまった悪魔としては、不承不承ながらも化け物の命令に従うしかない。

 

 しかし、いくら何でも、協会の敷地について来いというのはない。


 糞の詰まった肥溜めに向かって前進しろと言われた方がましだ。勇気を振り絞って、抗議する。


 は?

 気合い?

 いや、いやいや、ムリっす。

 教会だと思うな?

 あほなの?

 ねぇ?バカなの?

 悪魔だから死んでもいいやとか考えているの?

 この悪魔殺し!死んだら、化けて出てやるからな!


 あーつーい!

 いーたーい!

 親方ー!助けて!


ニック・ノーキンの視点


 小うるさいヤツが、黙らんか!

 悪魔のくせに女々し奴が!


「ん、んー、」


 おおっと、いかん、ほれ、ノイエ、おじーちゃんだぞー!

 ゆっくり、ゆっくり寝ていていいんじゃぞ~!


 背負う孫娘が目を覚まそうとしているのに、動く鎧ことニック・ノーキンは全力であやし始めた。


 彼が孫を愛でられた時間は短かった。


 ノイエが6歳の頃に、彼は亡くなった。いったいどれ程未練だったのか、死に際、ニックは亡霊のようにノイエの名前を叫び続け、声が聞こえた人は毎晩うなされたらしい。


 ニックがノイエと一番長く一緒にいたのは、生後半年だけであった。



 孫が生まれて7日目、すやすやと眠る初めて孫を抱いたニックは固まった。


 こんなに軽くて重くて温かくて冷や汗をかくものを持ったことがない。 ノイエはそんな祖父の緊張知ってか知らずか、その中でもしばらく眠り続ける。


 しかし、柔らかな布とは明らかに違う鍛え抜かれたニックの筋肉のベッドに赤ん坊のノイエは、やがて気づき目を覚ます。


 破局が予感された。ただでさえ怖い顔のニックが緊張で更に顔をひきつらせているのだ。


 火がついたように泣き出すノイエの姿を予感して、乳母が、ノイエの母が、最悪を避けるために動こうとした瞬間、ノイエはニックににっこりと笑いかけて、ニックの顔にその小さな手が触れた。


 ニックは、その笑みに笑みで返した。


 悪魔が逃げ出す大英雄の笑顔は乳母の腰を抜けさせて、実の娘が悲鳴を上げる凄惨なものであったが、ノイエはキャッキャッと笑い返した。


 そこから、孫バカと呼ばれた行動がエスカレートする。


 具体的言えば、離れない。


 半年間一切、一時たりとも、全く離れない。


 お昼寝も、お風呂も、ぐずりも、夜泣きも、おむつも、離れない。勿論、食事も離れない。


 乳母が母乳を与えるときも、その場から離れない。


 なんだそれだけ?


 大英雄の放つ圧倒的な威圧感を受けながらいつも通りが出来る乳母が存在しなかった。


 威圧感に負けて乳が出ないや、実家から不貞を疑われるなど雇った乳母が連続で10人やめた時、ニックは実の娘から絶縁状を叩きつけられた。


 結局その時は、教会、王家、騎士団、他国の外交官、腕利きの商人が間に入り、やっと一週間に一回の面会で落ち着かせた。


 その後は、お約束のプレゼント攻撃だが、ノイエがあまりにも何が欲しいと口にしない子供でくれたおかげで、そこまで変な話はない。


 一度、昔話をせがまれて、ニックの武勇伝を語った日があった。男の子なら喜ぶような大冒険が一晩中語られたが、幼いノイエはすぐに寝てしまう。ショックを受けたニックはその後、あまり過去の冒険を語らなくなったらしい。


 そんなある日、ノイエが半日ほど行方不明になった日があった。


 娘は遂にニックが実力行使に出てきたと抗議に来て、初めてニックが無関係と知り慌てた。しかし次の瞬間、大陸中に響くようなうなり声を上げて、王都を一人で探しだし、他の拐われた子供達と共に無事に救いだした。


 僅か、3時間で見つけ出した。


 半壊は34、全壊は12で死者はいない。スピード解決だった。


 とにかく、ノイエに関わるとニックは超人的な力を発揮する。ましてや、生前はまだ肉体という物理的な枷があったが、今は、疲れ知らずの動く鎧だ。


 暴れ馬だってもう少し淑やかに暴れるし、嵐の海だってもう少し穏やかなものだろう。


 ノイエは疲労からではない、人間の許容限界を越えた動きのもと意識を失った。



 やっぱり、疲れておるんじゃな、可哀想にのぉ、ノイエ、お爺ちゃんが必ず何とかしてやるからな!


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