第二魔術研究所編 5
魂を誘う鬼火の視点
約束ですよ!悪魔との契約なんですからね!
本当にそこまで連れていくだけですから!
絶対にぜっっったいですよ!
案内するだけですから!
私は、手伝いませんから!マジでやりませんからね!
あの子に関わるのは何もしたくないんですからね!
正規の手法ではなく、かなり強引なやり方で呼び出された悪霊こと魂を誘う鬼火は必死に抵抗した。
永遠の苦痛とはいかなるものか、無すら擂り潰された世界とは何か、軽い気持ちで悪魔に頼るよるより、先にできる努力を本当にしたのか、本当に頼るべきものは無かったのか、まだ引き返せるしやり直せるんだ、若い命を大切にしなさいと日が昇るまで一生懸命に説明し、説教し、説得し、恫喝に泣き落としまでしたのに、呼び出した少女メイの決意は全く揺らがなかった。
最終的に、ノイエの所まで案内し、連れ戻すまでという契約で勘弁していただいた。
対価?
貰いたくなかった。
契約をしたくなかった。
すべてを捧げると言って聞かない少女から、嫌々契約に足る量の髪の毛先を貰い受けて、一応契約の体裁をとった。
ああ、純潔の乙女の髪の毛ってすごいね、ほんと、力に溢れてやがる。
はぁ、行きたくない。はぁ~、行きたくな―い。
えっと、こちらっす、次を左に、右に、また、右に、ああ、あれっす、あそこにいるっす!
じゃあ、もういいすっか?お疲れさまでした!
え、ダメっすか、はぁ~。
ここ壁高いし、これは入れないすね!いや~残念!さあ、諦めましょう!あの、ほんと諦めませんか?
え?門が空いてる?
いやいや、罠っす。
絶対に、ぜっっったい罠ですって!
帰りましょ?危ないことはやらない方がいいですって!
あ、そうだ、なんか美味しいもの食べません?
なんか作りますよ?肉でも魚でもなんでもいいですよ!
ほら、あっちから美味しそうな匂いしません?
行きましょうよ?ね?ねぇ?
待って!止まって、お願い待って!
もう、嫌!なんで、こんなに人の話を聞かないの!
ちょっと待って、嫌、やめて、ほんとダメ、止まって!
ほら、門が閉まった。閉じ込められた。ねぇ、罠でしょ?
帰りましょ?ね、ねぇ?
え、進むの?はぁ?
閉じ込められたんだよ?分かってんの?
案内しろって?
はぁ、こちらです。あそこ。あそこにいますよ。
うぅ、気持ち悪い、なにここ悪魔の封印の力がつよい。
ああ、走らないで、待って!
あ、動けない。マジで?ヤバ、捕まった。
ちょっ、待って、ちょっと、助けて!
「ノイエ様を連れ去ったのはここか!」
おーい、待って!もう、嫌。誰か、助けて。
「誰じゃ?」
いきなり現れた少女にニックは心当たりがない。
しかし、少女は部屋を見渡して倒れるノイエとヒノクを見つけて声を出す。
「ノイエ様!ヒノク様!なぜここに?」
「貴女は、あれ?確か、えっと、侍女の・・、えっと、」
「メイです。ノイエ様の下女メイです!」
「あ、そうだ、メイちゃん!」
「おい、ヒノ?ノイエの下女ってあの子を知ってるのか?」
「おい!お前は何だ!ノイエ様とヒノク様をここに連れ込んで何をするつもりだ!」
「お前とは何だ!お前こそなんだ!いきなり現れよって!」
「にーさん、落ち着いてね!あの子は、にーさんに似てる子だから、」
「儂に似てるだと?どういう意味じゃ!ヒノ!」
「ヒノク様、そいつから離れていてください!今お助けいたします!」
「メイちゃんも落ち着いて、この人はね、」
「貴女、悪魔を連れてるわね?」
気のふれた様子のギクリは新たな少女の乱入から、ずっと沈黙を保っていた。じっと動かず、ただじっとりとした目線をメイに向けたまま、ニック達の会話を聞くわけでなく、いきなりその中に割り込み、たった一言口にした。
「ねぇ、ニック」
続けて、こちらに顔を向けることなくニックの名前を口にする。
再び、空気が張りつめる。
ニックは慎重に返事を返した。
「なんじゃ、ギクリ。」
「あの子から、あなたと同じ匂いがするの。」
「はぁ?」
「貴方の体から、あなた以外の匂いがするの。それと同じ匂いがあの子からもする。」
「だからなんじゃ!」
「あの子が、あなたを呼んだの?」
全くわからない。
ギクリは完全に気がふれてしまい、意味のわからない結論にたどり着いたみたいだ。
「儂は、あの娘を知らんぞ!」
「じゃあ!なんで!同じ匂いがするの!」
「だから、わから」
「貴女がニックを呼んだのでしょ?悪魔は、ねぇ、悪魔はどこにいるの!」
ギクリはニックを無視して、ヒステリックに叫び少女に詰め寄る。メイは徐々に近づく美女の迫力に圧倒されて動きを止める。そして、近づくギクリの目に息を飲んだ。
部屋に始めからいた人間には分からなかったが、ギクリの目は助けを求め、何かにすがるような目をしていた。
ニックやヒノクにとって、ギクリはかつて旅を共にした仲間だ。いろいろと駄目なところも知っているが、ギクリの事を頼れる仲間だと認識していた。
ニーナにとっては、尊敬するべき先生だ。朝に弱いとか、お酒に弱いとか困ったところを知っていても、尊敬するべき先生に代わりはない。
だから、彼らは先程までのギクリの言動を気がふれたと狂ってしまったと思った。本当の、今の、彼女を正面から真っ直ぐに受け止めてあげられなかった。
しかし、メイは違う。
彼女にとっては、ギクリは全く見ず知らずの他人である。
今にも倒れて泣き出しそうなギクリの今の姿を理解した。
そしてそれは、ノイエに残されてしまった自分の姿と同じであった。
「悪魔を探しているのですか?」
「ええ!!そうよ!!貴女が、貴女は知っているのでしょ!!悪魔を!!」
「はい、私は悪魔を知っています。」
「お願い!悪魔に会わせて!ニックと今度こそ一緒!」
「私はそこにいるノイエ様に会うために、悪魔を呼びました。」
「えっ、じゃあ…、ニックは、貴女が、呼んでいないの?」
「はい」
「そんな、そんなのって、ふぇぇぇえええん」
ギクリはその場で泣き出し、崩れ落ちた。
見た目は充分に大人の色気を備えた容姿であったのに、泣き続ける姿は不思議に違和感がなかった。
メイはそんなギクリをやさしく抱き締めて受け入れる。かつて、自分が度々ノイエにされたようにギクリを包み込む。
ニックは急な展開に思考を停止させた。
ヒノクは気づくともらい泣きを始めた。
ニーナは驚きながらも、近づき泣き続けるギクリに抱きつく。
「ごめんなさい。あの、もしかしたら、悪魔がなにか知ってるかもしれません。同じ匂いがするなら知り合いなのかも知れません。」
「うん、会わせて、その悪魔に会わせて頂戴。」
「悪魔様、姿を見せてください。」
魂を誘う鬼火の視点
助けて、だれかぁ、動けないよ―!
先ほどから、寒気が止まらない。
早く逃げ出したいのに、封印が完璧過ぎて動けない。
魂を誘う鬼火は困り果てていた。
すると、急に契約に即して力が注がれてくる。
直ぐ様、封印を壊して離れる。
契約者が呼んでいるらしい。
入りたくないが、契約上は仕方がない。
あのー、何かありました?
出来るだけ、遠くから声をかける。
部屋の中はかなりカオスであった。
ノイエは倒れているし、契約者の子供は強い力をもつエルフを抱えている。
そして、
「お、お前、生きてたのか!」
「あ、あなた、ギクリあれよ。兄さんを呼んだ悪魔よ!」
「え、悪魔なのあれ?」
思い出したくもない面々が勢揃いしている。体が勝手に回れ右と動き、その場から逃げ出そうとするが、ごっつい腕が現れて、そのまま取り押さえる。
嘘つき!
案内だけって!
騙しやがってぇー!
だれかぁ!助けてぇ!




