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いきなり抜刀って、そりゃビビるって

「レオン様、私も行かせてください!」


 そこにいたのは、召使いのレティシアだった。



 今朝、着替えの時に見たメイド服ではない。

 旅装束と言えば良いのか、マントの下には動きやすいズボンと服に身を包んでいるのが見える。

 大きな鞄を持っているが、旅慣れをしている風には見えない。


 レオンは俺に、レティシアの同行を止める様に訴えてきた。

 誇り高き騎士や、荒くれ者の傭兵でさえ、ヤバいと思って参加を断念する旅だ。

 そんな危険な旅にレティシアを連れて行ける訳が無いと考えているのが伝わってくる。


 だが、俺は連れて行っても良いのでは、と思った。

 レティシアの見せたシェルの力は、どこかの仮面のバカがスカウトする程度に優秀なのは、今朝見ている。


 冗談みたいな話だが、王命で護衛任務に当たろうとしていた護衛団の誰よりも、仮面のバカが軽く力を与えたレティシアや俺の方が、シェルと言う力のアドバンテージに置いて強い事は間違いが無い。

 護衛団の強さが一本の剣だとすると、シェルは大量の銃や爆弾をイメージすると分かりやすい。


 それほどに、この世界ではシェルを生まれ持っているか否かが重要になってくる。

 その力を持たない他人にデコピン……でなくても、好きに与えられるグランツと言う肩書を持つ連中が、強大な権力を持っているのは当然の事だった。




 俺の考えを理解するとレオンは、レティシアに力の制御が出来るのかという心配をするが、相手がモンスターなら手加減も何も無いだろう。

 それに、信頼できる仲間は絶対にいた方が良いし、一国の王子に従者の一人もいないと格好もつかない。


 レオンは、俺の考えに納得するが、そこから少し悩み、賛成こそしていないが、了承してくれた。

 ただし、レティシアに質問をしてくれと注文を付けてくる。

 断る理由も無いので、俺はレティシアに質問した。


「死ぬ事になるのかもしれないんだ。それを、本当に君はわかっているのか? レティシア・ポルタ」


 レオンが今朝の事を思い出したのを感じる。

 フルネームを知ったのは、今朝が初めての様だった。


「死ぬとしてもレオン様のお傍に置いて頂けるなら、それでいいんです。お仕えして十年経ちます。旅に出たレオン様の御身を案じ続けるのも、死を悲しむのも、二度とは耐えられません」


 レティシアは、俺の目、というかレオンの目をまっすぐ見ていた。

 その目には、レオンと一生結ばれなくても良いから、ただ傍にいたいという思いが見える。


 健気な良い子だな~と、俺は思った。


 レティシアルートのフラグがビンビンですよ。

 元の世界で俺、こんなに慕われてたら間違いなくレティシアに惚れている。

 いっそ好きだと叫んでしまいたい。


 しかし、レティシアが慕っているのは、レオン・ラ・ヴァレリア王子であって、俺こと小岩井優ではない。


 それがわかっているだけに、俺もレティシアを連れていく事に悩み始めていた。

 レティシアは国で待っていれば、一年後には本物のレオンに再び仕える事が出来るのだ。

 それは、俺が早々と結婚して王獣を持ち帰ればの話だが、俺もレオンも失敗するつもりはない。


「レティシア、その思い、忠誠は受け取ろう。だが、やはり国で待っていてくれ。君もまた私の愛する民の一人だからこそ、危険に晒したくはない。私は、今度は必ず生きて戻ると約束する。これは、召使いと王子ではなく、君と私個人の約束だ」


 悩みながらレオンの考えに任せていたら、こんな事を言っていた。

 断ってしまった事を少し残念に思うが、これで良いのかもしれない。




 ところが、レティシアはここで引き下がらなかった。


「私がラヴィーナ国民だからお役に立てないのなら、国外追放にして下さい」


「……それで、共にガリスタファドルまで行くつもりかい?」


「はい。私は、あなたの召使いでも、愛する民で無くてもいいんです。ただ、あなたのお傍でお役に立ちたい。それだけなんです」


 ガリスタファドルは、一番最初に向かう予定の隣国の事だ。

 そこで結婚出来れば、旅は即終了。

 残り時間は夫婦生活が待っている。


 レティシアをただの召使いと見ていたレオンは、レティシアの言葉に認識を改めた。

 彼女は、毎日身の回りの世話をする事が仕事の、名も無き召使いではない。

 王子付きとは言えただの召使いをしながらも、その心はレオンに捧げられており、間違いなく本物の忠臣であった。

 レオンは、そんな召使いがいる事に驚きながらも、今まで気付かなかった自分を恥じた。


 それから俺にレティシアを連れて行っても良いか尋ねてきた。

 だが、そんなの決まっている。


「……レティシア・ポルタ。そなたの召使いの任を解く」


「わかり、ました……」


 レティシアは、潔く召使いの職を捨てた。

 それをレオンが望むなら、自分では役立てないのなら、静かに身を引こうと心に決めている様だった。


「馬の扱いは?」


「……え? 馬?」


 レティシアは俺の言葉の意味が分かると、顔を輝かせて嬉しそうな表情を浮かべた。


「ありがとうございます! 馬の扱いなら慣れています! 実家が牧場だったので」


「では、二頭を牽引し、同時に三頭走らせることは出来るか?」


「やってみます。いえ、やってみせます!」




 俺はレオンに身体を預けた。

 すると、レオンは早馬に括り付けられた護身用の剣を引き抜く。

 レティシアは訳が分からず、顔を強張らせて動きを止めた。

 まあ、俺もいきなり目の前で刃物を突き付けられれば同じ反応をするとは思う。

 それでも、これは一種のセレモニーなのだから、レティシアには許して貰いたい。


「レティシア・ポルタ。我が父、オニキス・ラ・ヴァレリア王に代わり、今より貴君に騎士の称号を与える。剣を持って国に、信念に忠を尽くすのだ。よいか?」


 剣の腹をレティシアの肩に当てて宣言した。


 レティシアは一介の平民だったのに、いきなり王子付きの騎士を命じられた事に驚きを隠せない。

 鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな顔をしているレティシアは、しまったと正気に戻る。

 しかし、こんな時の作法などレティシアが知る筈も無い。


 見かねて俺が口を出す。


「嫌じゃ無いなら、誓って欲しいな」


 こうして、俺とレオン王子、そして新米騎士レティシアによる旅が始まったのだった。

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