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世界で二番目に最強(予定)

「おお!」


「うまいうまい。ちゃんと制御も出来てる」


 俺の手の中でアラネアの手と同じように風が玉を作り出す。

 俺が風で遊んでいるとアラネアは自慢げに手の中で炎を起こして見せた。


「まあ、私ぐらいになるとこんな事も出来るんだけどね」


 アラネアの手の上で炎は人型を作ると、俺に向かって優雅にお辞儀をする。


「……ちょっとちょっと、アラネアさん」


「ん?」


「シェルは一人一つの筈だろ? なんで召喚したり、風とか火を操れるんだよ」


「そんなの、私が何でも出来るからに決まってるじゃないか。もちろん、何にでも条件はあるけどね~」


 アラネアの話によると、シェルは生まれ持った肉体に備わった素質を土台に、その範囲の上で培われた精神によって性質が決まると言う。


 例えば、肉体の素質が風を操れるのなら、精神を鍛えれば風を起こす程度の事から、特定のガスを発生させたり、天候を操るなんて芸当に発展させることも出来ると言う。


 その上でアラネアの肉体は、アラネアが言うには“本当に何でも出来る”に近い素質を持っており、条件さえ満たせば死者蘇生さえ可能にするらしい。

 まあ、実際俺はその条件を揃える為の触媒にされかけた訳だが……


 そして、グランツの契約は、肉体にシェルの素質が無い人でも、その“素質の素”を借りる事が出来ると言う物で、俺の肉体の素質はどうやら風を操る事が出来るらしい。


 そこまで説明を受けても、俺は他にも何か出来ないかと手の中に炎をイメージした。

 異世界チートなら全属性が使えたって良いじゃないか!




 すると俺の手の中に、炎が現れると人型を作ってアラネアに向かって優雅にお辞儀をして見せた。

 なんだ、色々出来そうじゃんと俺は軽く思う。


 しかし、それを見ていたアラネアの反応は違った。


「なっ、なんで君が火を!?」


「え、なんかおかしいのか?」


「いや、だって言ったでしょ。シェルは一人一個って」


「アラネアだってやってただろ」


「いや、私は特別と言うか、何と言うか。私のシェルは、あれで一個なんだ。待って、一度落ち着こうか……そこの君、名前は?」


「レティシア・ポルタと申します。グランツ・アラネア」


「レティ、君はシェルを使える?」


「いえ、使えません」


「よかった。ちょっと頭借りるよ」


 そう言うとアラネアはレティシアの額を指でさわり、仮面の隙間から見える目を閉じた。


「あの、アラネア様!?」


「はい、目を閉じて~」


 レティシアは目を閉じると、アラネアはレティシアの頭に手を置いた。

 アラネアももう一度目を閉じると、納得したようにフムフムと言うが仮面のせいで表情まではわからない。


「あ! あ~~~!」


「どうしたの? レオン王子?」


 俺に指さされ、アラネアは確実に意図に気付いたのに誤魔化した。


「俺にしたデコピン!」


「あの方が早くて楽なんだって」


「なんだよそれ」


 まるで納得できない言い訳しやがった。

 絶対嘘だ。


「レティ、私に向かってシェルを使ってみて」


「え、しかし」


「いいから」


 アラネアに言われるまま、レティシアはアラネアに向けて手を構える。


「い、いきますね」


「はいはい」


 次の瞬間、アラネアの周囲の空間が歪んで見えると、部屋の石床が円形に、まるで見えないスタンプ、いやプレス機で押したかのように一気に沈んだ。


 ええぇ、なんか俺の使ったのより派手な上に強そうなんですけど……

 というか、ここ一応俺の部屋なのに……


 アラネアはと言うと、その場で平然と立っている。

 グランツは伊達では無いらしい。


「レオン王子、ちょっとここに手を……」


 アラネアは、ちょいちょいと俺を手招く。

 その声は異常に低く歪んでいた。


「絶対い・や・だ!」


 見るからに危ない。

 私は平気だけど君は潰れるとか、やる気なのが見え見えだ。


「ちぇっ、ノリが悪いんだから、レティもういいよ」


「は、はい」


「レティは、重力でも操れるのかな? 空気の密度を変えたのかのかもしれないけど、いや、凄い威力だね。ここなんかやめて私の所においでよ。可愛いし、おっぱい大きいし」


「セクハラ親父か」


「乙女に向かって親父とは失敬な」


「グランツ・アラネア、恐縮ですが辞退させて頂きます。私はレオン様のお近くに置いて頂ければそれで」


「レティは良い子だな~。レオン王子、見ての通り、契約でいきなりシェルを使える様になると、十中八九、力が暴発するんだ。レティの感じが一般的と言って良い。実に良い」


「それで?」


「レティのシェルの真似をしてみ」


「してみって……わかった行くぞ!」


 なるほど、俺の異世界チートは、一度見た能力は瞬時に真似できる的なアレだな!


 俺はアラネアに手を向け、気合を入れた。

 風や火の人形を操った時と同じ感覚で念じてみる。


 しかし、何も起きない。


「あるぇ?」


「じゃあ、私を見て、構えてて」


 そう言うとアラネアは少し考えてから手を俺に向けた。

 俺は構えろって言われてもどうしていいのか分からない。


 ただ、逃げられない嫌な予感だけがある。




 いきなり下半身が重くなったのを感じると、今度は身体自体が全て重くなった。


「ちょっとまっ、うおっ!??」


 俺は何の抵抗も出来ずに、床に潰れたカエルみたく張り付く。

 床こそ壊れていないし床に倒れた痛み以外無いが、身体が重く全く抵抗できない。


 アラネアは動けない俺の周りを歩きまわり、何かをしている。

 アラネアを見ているレティシアは止めたそうな手の動きをしているが、止められずにオロオロとしていた。


「よしっと、今のは重力を操ったんだけどね、それを私に向けてやってみ」


 身体の重さが元に戻るが、全身が気怠い。

 俺は倒れたまま、言われるままにアラネアに手を向けた。

 何も変化が起きた様には見えない。


「寝たままって、無精するね君。レティ、そこにある本を取って。どれでもいいから」


 アラネアに言われるまま、レティシアが棚から本を引っ張り出す。

 すると、恐々とアラネアの手に本を乗せようとした。

 アラネアに近づくにつれ、本の重量が増えていき、レティシアは重さに耐えられずに本を床に落としてしまう。


 自然落下した本の落ちる速度は、通常の重力加速度を上回って早く落ちたように見えた。


「はぁ……どうやら、君は私の真似が出来るようだね。どういう仕組みかな?」


「真似?」


「つまり、私の素質がそのまま使えるって事だよ。誇り喜べ、君は世界で二番目に強くなれる可能性があるのだから」


 俺は床に寝そべりながら聞いた。


「……えっと、やっぱり……その流れだと一番は?」


 自信満々に親指で男らしく自分をさすアラネアを目の前に、俺はこの世界は色んな意味でヤバそうだと悟った。

 こんな奴が世界最強?


 しかし、レオンの記憶の中でも、目の前の上位グランツ、アラネア・フェネフィカ・ストレガータは少なくとも五本指に入る実力者と言われていた。

 マジかよ。


「私は一度帰る。君は結婚できるように、がんばってくれたまえ。必ず君の願いは私が叶えるから、君も私との契約を果たすんだ。与えたシェルは、その為に与えるんだから、自由に使ってくれたまえ。レティシア・ポルタ、ここが嫌になったらいつでも私の所に来なさいな、じゃあ、そう言う事で」


 そう言って、本当に異世界チートだけ俺に授けてアラネアは部屋を慌ただしく出て行ってしまった。


 なんだ、一応こっちの世界に俺を召喚した責任を感じているのかと、俺はアラネアの事を少しだけ信頼してもいいのかもしれないと思った。


 と思ったら、すぐに戻って来た。


「生き返ったばかりで忘れているのかもしれないから言っておくけど、乙女達の前では、こっちの世界ではパンツは履いた方が良いんだよ。あと広場でもね~、アディオス! アミ~ゴ!」


 仮面の下で「ぷくく」と笑い、それだけ忠告する様に言って扉がパタンと閉じられた。


「レオン様、ではお着替えの続きを……」


 レティシアは変わらぬ表情で、俺にズボンを履かせようと……あれ?


 あああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!


 と心の中で叫ぶ。

 あいつ、俺を地面に押し潰した時、どさくさに紛れてパンツをずりおろしていやがった。

 まるで気付かなかった。

 小学生みたいな悪戯しやがって。


「たのむ……」


 俺はレティシアにレオン王子として答える事しか出来ない。


 レオン王子、お前の尊厳まで同時にゴリゴリ削られているけど、どうか許してくれ……

 一年後にレオン王子が生き返っても、居場所が果たして残っているのか、俺はそんな事を心配しながら、パンツを履かされる事しか出来ない。


 どんな羞恥プレイだよ……


 まさか!?


 広場に全裸召喚したのも、あいつの悪戯じゃ……


 バカが権力と才能を持つと本当にろくな事にならないと、身をもって痛感したのだった。

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