むかつく召喚者
と言う事があった。
その直後、王様にアラネアと呼ばれた怪しい仮面に「まあまあ」と言って手を引かれ、王様も広場の人々も放置し俺は城の客間に連れ込まれた。
「いや、まあまあ~じゃねえから」
客間で二人きりになると、アラネアに文字通りの土下座をされた。
こっちの世界にもあるんだと思うが、問題解決の助けにならない土下座ほどムカつく行為は無い。
頭をあげると、一応申し訳なさそうにアラネアは仮面を取った。
その下にも、さらに覆面をつけていて顔は分からないが、とりあえず女だった。
意外と若いのかもしれない。
「コイワイ・ユウさん、だったよね? お願いします! 協力してください!」
「絶対い・や・だ!」
「そこをなんとか、話だけでも……」
アラネアが言うには、この国、唯一の王位継承者レオン・ラ・ヴァレリア王子が亡くなり、父王オニキスは昔に亡くなった正妻以外と子は儲けない事を誓っていた為、王家消滅を防ぐために異世界にいる遺伝子的にかなり近い俺を召喚して、レオン王子の魂を受肉させて完全な蘇生を目指していたと言う。
「え、なに?、俺って、その妻思いのオッサンの為に、サックリ犠牲にされそうになったの? その方が酷くね? 亡くなったお后様、そんなんで喜ぶかよ。ってかレオンの記憶の中のお后様は、あ~まともそうだな~」
「いや~、私もそう言ったんだけどね~」
「ね~じゃねぇよ!」
ところが、何の手違いか肉体こそ完璧なレオン王子に出来たが、消える筈の俺の記憶が融合してしまったらしい。
あっぶねぇ。
ほんとあっぶねぇ……
そして、その主導権は、アラネア達の都合が悪い事に、俺が握り絞めて離さないと言う。
そこまで聞くと、レオン王子には悪いが、絶対に離してたまるかと俺は決意も新たに思う。
そもそも召喚は、アラネアの持つ”シェル”と呼ばれるこの世界の魔法みたいな力で行った為、失敗の全責任はアラネアにあるらしい。
アラネアはそこまで話すと、俺に覆面のまま上目遣いにお願いしてきやがった。
「コイワイさんには大っ変申し訳ないんだけど、一年ぐらいレオン王子の代わりをしてくれないかな?」
「なんでだよ」
アラネアの説明によると細かい話になるが、アラネアのシェルには使用条件が厳格に決まっており、元の世界に俺を帰すには”きっかり一年”かかると言う。
ただし、その時は、元の身体にも戻すし、何なら元いた時間と場所に戻す事も出来ると言う話だった。
だから、一年間レオン王子のふりをして欲しいと言うのだ。
そうしてくれないと、アラネアの責任問題になってしまうと泣きついてくる。
それが本音かよと俺は思う。
「一年の休暇だと思って、ほら、最後は帰れるんだし、軽く考えてみようよ」
釈然としないが、帰れないのだから仕方が無い。
「俺が帰ったら、レオンはどうなるんだ?」
「ちゃんと別の身体を用意するから、安心して!」
「はぁ……、俺が王子のふりかぁ……わかった。やるよ。でも、何してりゃいいんだ?」
「何って……覚えて無いの? 王子様の記憶あるでしょ?」
「自分で思い出せってか。ヒントが無いと、なんも出てこないんですけど」
「んん~じゃ、大ヒント。”結婚”」
ああ……段々と思い出して来たぞ。
そうそう、周辺の国をまわって……強国の姫と見合いを……
ん?
見合い?
記憶を手繰ると、レオンは政略結婚の手駒に使われていた。
俺は嫌な気持ちになるが、すぐに理由を思い出し納得する。
ラヴィーナ王国の現在の状況を考えれば、それは仕方が無かった。
それを説明するには、少しだけこの世界の事を理解する必要がある。
まず、この世界には、明確な国境が存在する。
それは国のシンボルでもある、絶大な力を持つ”王獣”と呼ばれる存在の縄張りである。
王獣の縄張りの中に住まわせてもらって、人はようやく生きていける。
ここは、そうしなければ人が繁栄できない程に危険な世界なのだ。
そして、ラヴィーナ王国の王獣、”賢き白の老竜オリヴェニス”が寿命で死に、広大な縄張りが突然空白地帯へと変わってしまった。
空白地帯になると、オリヴェニスを避けていた危険なモンスターが王国に迷い込む確率が高まる。
それを人の手で防衛し続けるのには、限度があった。
強大な王獣を持つ強国の姫と結婚し、その王獣の子供を貰わなければ、ラヴィーナ王国はいつ滅んでもおかしくない切迫した状態に置かれていた。
「思い出した……」
「では、勇者よ。ラヴィーナ王国を救ってくれるな?」
「あ゛?」
「いえ、雰囲気作りに良いかと。茶化してすみません」
何だこの女は、と思いつつも俺には思い出せないが変な既視感があった。
アラネアは「と言う事で、一年間よろしく。また来ますので」と言って帰っていった。
最後に、こんな事を言って。
「きっと、帰りたくなくなっちゃいますから」