風呂に入っていたら
「ふぁあああああ……」
豪華なベッドから降り、大きくのびをしながら窓の外を見た。
どこまでも続く大地を目で追っていくと、それは天空高く、青空の中にかすみ消えていく。
そこが球状世界の内側である事を嫌でも思い知らせる光景。
「やっぱ、だよな……」
俺は昨日、この世界に召喚された……らしい。
と言うのも、気が付いたら、ここラヴィーナ王都の中心にある広場の祭壇の上で、全国民が注目する中、立っていたのだ。
素っ裸で。
頭をシャンプーの泡だらけにしたまま、俺は冷静に状況分析した。
高校生にもなって、頭に角を作っていた事が非常に悔やまれる。
だが、大丈夫、とりあえず俺に非は無い。
はず……
「これは、あれか、異世界召喚と言うやつか」
今時のラノベやアニメに明るい奴なら、即状況が理解出来る。
御多分に漏れず、俺も分かった。
おい、英雄召喚ってもっと、どっかの神殿とか、ひっそりとやる物じゃないのか?
よりにもよって、入浴中の奴を、町の広場に呼び出すってあるか?
俺のマッパなんて、どこに需要あるんだよ……おぃ……
そう思っていたのも束の間、広場の人々は全裸の俺に向かって片膝をついて、ひざまずいた。
中には、両手を握りあわせて拝んでいる人までいる。
いいや、騙されないぞ。
どうせ俺の後ろに召喚した偉い神官とか、王様でも立ってるんだろ。
股間で痛いぐらい縮こまってしまった可哀そうなマイサンを両手で隠し、俺は振り返った。
俺の後ろには、やはり偉そうな恰好をし、仮面をつけた奴が立っていた。
仮面って、怪しすぎるだろ。
ラスボスか黒幕か何かですか?
ところがその仮面もその場で膝をついて、俺に向かってひざまずいて見せた。
俺は、どうやら伝説の勇者様か何からしい。
そんな事を考えていると、祭壇に一人あがってくる。
見るからに西洋の貴族様って感じの服を着た恰幅の良いオッサン。
頭に冠なんか乗せてるし、王様だろうか?
しかし、微妙な既視感というか、どこか俺と顔が似ている気がする。
人種こそ違えど、同系統の顔なのは間違いない。
「間違いない、我が息子よ、よくぞ冥府より戻られた……」
息子?
いやいやいや、あんたなんて知らないし、俺には日本で慎ましく共働きをしている平凡な両親がいますから。
そんな俺の考えなどお構いなしに、オッサンは泡だらけの俺をギュッと抱きしめる。
なに?
親子の感動の再会みたいな空気になってるけど、俺はどうすればいいの?
人違いですって……
うわぁ、言い辛い。
そういや、言葉がわかるな。
そんな事を考えると、頭の中に、俺を抱きしめるオッサンの、息子らしき記憶が流れ込んで来た。
恐らく記憶自体は、既にそこにあったのだろう。
脳みその中身を、丁寧に手ごねハンバーグみたいにかき回される感覚。
脳みそには痛覚なんて無い筈なのに、ちょ、まって、マジで超頭痛いんですけど!!!
あだだだだだだだだだだだだだだだだだ!?
混ざりこんで来た記憶の中でオッサンの息子、つまり自分は既に死んでいた。
オッサンがこの国の王様で、同時に俺の父親と言う認識が、悲鳴を上げる脳みそに定着していく。
他人の記憶が上書き、と言うよりは融合していくのが分かった。
「なんなんだこれ!?」
「レオン・ラ・ヴァレリア王子」
仮面を付けた奴が言った名前が、自分の物だと分かる。
なんだこれ……なんだこれ!
「あなたは、我がシェルの奇跡により異界より召喚せし、名も無き同一存在を介して、受肉したのです」
「ふざっけんな! 名も無きなんたらだか知らんが、俺は小岩井優だ!」
「異界の……あれ? 名も無き……えっと、もしかして記憶が残って……いたり?」
「いたり、じゃねえよ! 仮面つけてかわいこぶんな! ガッチリしっかり残っとるわ!」
「グランツ・アラネア! まさか、復活の儀に失敗したのか!?」