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最強能力の献立論  作者: 明戸
1章 肉じゃが
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02.複製しました

俺は別に自分か特別だと思うようなこともなかった。むしろその逆だ。


 ほとんど何をしても平凡、普通。運動神経も、身長も、体重も、容姿も。


 現に、体力テストは全ての競技で平均ど真ん中だし、身長は170、体重は58。至って普通だ。


 ただ、昔から1つだけ抜きんでているものがあった。それは学力だ。砕いていうところ、頭がよかったのだ。


 でも、よくよく考えてみたら何か1つ才能があるものがあっただけでも良かったのかもしれない。


 なので俺はかなり小さい頃から自分の道は学力しかないと思って生きてきた。今、1人暮らしをしてまで都内の高校に通っているのはそのためだ。


「で、朝の続きをしようか。」 


 ……それなのに何だこれは。今、俺の前には銀髪の少女がいて、その少女は勝手に俺の目の前で今度は晩御飯を作っている。


 あの後は特に何もなく1日が終わった。何もないのが不思議なくらいにだ。転校生ということで皆からの注目も他の生徒より大きいというもの。


 おまけによく見ると容姿端麗なものだから男女からの人気も初日にして高かった。

だが1つ、俺と話している時と全く違うことがあった。


 瑞樹は笑っていたのだ。いや、何言ってんだこいつと思われるかもしれないが、俺と今朝話した時は全く笑っていなかった。文字通り、無表情なわけだ。


 それがクラスの人と話す時には普通に笑顔で話すもんなんだから俺からしたら奇妙で仕方がない。まあ今まで見る限り奇妙な点しかないんだけども。


「ああ、そんなこともありましたね。」


 だが、瑞樹は相変わらず無機質な声でそう答える。何なんだこいつは……。俺、こいつに何か嫌な事したっけ。


「あんだけ焦らしておいて忘れた、なんて言わせねえぞ。」


 事実、俺はこの1日中瑞樹の話が気になってしょうがなかった。気になりすぎて始業式の話も頭に入ってこないというもの。あ、別に支障ないわ。


「いや、すっかり忘れていました。」

「お前……。」

「忘れた、とは言ってませんから。」


 そのしょうもないやり取りに俺は肩を落とす。何でここまで話が進まないのだろうか。


「屁理屈にも度が過ぎるだろ……。」

「……そうですね、まずはどこから話しましょうか。」


 瑞樹は良い香りのする鍋を持ってきながら言った。鍋の表面からは湯気が立って、そこからは昔のお母さんが作った料理のような香りが漂ってくる。


 俺はこの香りに既視感があった。


「ってこれって……。」

「肉じゃがですね。定番でしょう。」


 違う。これはただの肉じゃがじゃない。ずっと食べ続けてきた、あの人の料理そのものなのだ。


「なんで、お母さんの料理をお前が……?」


 色とりどりの野菜、じゃがいも、にんじん、玉ねぎに、それを際立てる随所に散りばめられた牛肉。


 高級な食品は何一つ使っていない。極めてオーソドックスな普通の肉じゃがだが、俺にとってはその肉じゃがは中学生まで食べ続けてきた、どこか懐かしい肉じゃがだった。


「まだお母さんの料理とは決まったわけではありません。食べてみてください。」


 俺は言われるがままに菜箸でゆっくりと小皿に肉と野菜をよそい、ゆっくりと口に運ぶ。


「……いただきます。」


 そう言えば小さい頃は肉ばっか口に運んでその都度、お母さんに野菜も食べなさいって怒られたっけ……。


 それが本当にあの肉じゃがか否かなんて分かり切っていたことだった。


「……あの肉じゃが、そのまんまだ。」

「……それはよかったです。」


 そして俺は白米と一緒に肉じゃがを口の中へと運んでいく。こんなにご飯が進む夕食なんて1年ぶりだ。


「じゃ、私もいただきますかね。」


 瑞樹も手を合わせた後、ゆっくりと肉じゃがを食していく。傍から見たらなんて光景だろうか。想像したくもない。


 だが、その後黙々と食事をしてたその空気を打ち破ったのは瑞樹だった。


「しっかし、亮人君のお母さんは天才ですなあ。こんなに優れた料理を作れるなんて。」

 

 そうだ。俺は肉じゃがを食べに今、ここにいるのではない。俺は瑞樹に話をしてもらいにここにいるのだ。


 今日は今朝のことといい、何だかぼけてるようなところがある、そんな気がする……。


「そういや、お前、これどうやって……。」

「能力で複製しました。」


 また、それか……。今朝の鍵といい、修飾語が絶妙に欠けているせいで何の話をしているのかパッとこない。


「はい。とは言っても肉じゃが自体を複製したわけではありません。私が複製したのは肉じゃがのレシピです。」


 そう言って、瑞樹はどこからか謎のノートを取り出した。そのノートは見覚えがあるものだった。


「お前、それって……相当前のやつだぞ。」


 お母さん秘伝の肉じゃがのレシピ。確か小学校高学年くらいの時、俺が料理の宿題を出された時、肉じゃがを作りたいってお母さんに言ったんだっけ。


 そして今、目の前で瑞樹が持っているのはお母さんの手書きのレシピそのものだった。


 こんなに昔のことなのに鮮明に覚えているのはよほどあの時、自分で作った肉じゃがが記憶に残るものだったのだろう。


「……そうだったんですか。それなら探した甲斐がありました。」

「……探したってどういうことだ?」

「あなたの実家に上がらせてもらいました。」

「……は?」


 確かにそのレシピはこの家には置いていない。実家に眠ってあるものだから一度実家に上がり込まないとそのレシピは入手することができない。


 つまり、瑞樹は何も嘘を言っていない。と、いうことは……。


「ええええええ!?勝手に実家に入ったのかよ!?」

「大丈夫です。両親が仕事で2人ともいないのを確認した上で潜入したので誰にも見つかりませんでしたから。」

「いやそういう問題じゃねえ!」


 何なんだこいつは本当に。もしかして人の家に勝手に上がり込むのが趣味なのか……?


 いよいよもって気味が悪くなってきた。上がり込んだ上で、今、目の前に肉じゃががあることには感謝しなければいけないが、それとこれは話が別だ。


「そういう問題なんです。限られた時間でこの世界では非現実的な私の能力を信じてもらうにはこうするしかありませんでした。」

「さっきから能力能力って何なんだよ!?第一、能力を信じてもらいたいなら今、俺の目の前でその複製とやらをやってみればいいじゃないか!」


 俺は思わず感情的になって立ち上がってしまった。怒り、というよりは瑞樹李子という人間が未知すぎて、恐怖心の方が勝ってしまっている。


 話を聞いて、納得するために今ここにいるというのに、時が進むごとに納得からは遠ざかっている、そんな気がする。


「それは出来ません。この能力は私達能力者の間でメル、と呼ばれている能力なんですけど、それは1日に1回しか発動することができないという欠点があります。」

「え?いやだってお前、さっき鍵を複製したはずなのになんでレシピを……。」

「別にレシピを複製したのは今日じゃありません。予め前の日に複製しておきました。」

「じゃあ、なんでこんな回りくどいことを……。」

「だからさっきも言ったじゃないですか。時間が限られているんです。その中で私のインパクトを大きくするために勝手にお母さんを利用させてもらいました。」


 時間が限られている……?なんだその意味深なセリフは。


 そう尋ねようと思ったその瞬間、瑞樹も勢いよく立ち上がった。それに俺は思わずひるんでしまう。


「単刀直入に言います。あなたは3日後、あなたを狙う集団に誘拐されます。」

「……は?」


 誘拐?そんな子供じみた話あってたまるか。全く嘘をつくならつくでもうちょっとばれにくい嘘をついてほしいものだねはっはっは。


 ……と、笑ってごまかせすような空気ではなかった。


「あなたは突然私達と同じ能力、メルに目覚め、そのメルがあまりに強大すぎるため、色々な能力者を狙う組織から狙われるようになります。」

「俺が……能力者に……?」

「そうです。むしろ私達は命の恩人となるべき存在なのです。まだ未来形ですけどね。」


 瑞樹は嘘を言っているという顔ではなかった。どうやら瑞樹の言った話をまとめるとこうなるらしい。


 俺は突然最強の能力に目覚め、それを奪い合うことを発端にして、戦争が始まる。

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