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最強能力の献立論  作者: 明戸
1章 肉じゃが
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01.朝食はいかがですか?

「起きてください!朝ですよ朝!」


 そんな高い声で俺(双葉亮人)は目が覚めた、というより覚めさせられた。春の温かい日差しのせいで俺の体と心は未だ布団から出ようとしない。


 寝起きは頭が回らない。ひとまず顔を洗って体を起こそう。そう考えて洗面台へと赴いた。


 そして顔を洗い、そこでついでに制服に着替える。俺の学校の制服はいかにも私立高校っぽいという制服で、紫をベースとしたブレザーに緑ネクタイを締める。


 だめだ。新学期だと言うのに頭が回らない。まだ目が冴えていない。


「あ、ご飯出来てますよ。」

「……うーっす。」


 煮え切らない気持ちのまま俺は返事をした。その言葉が終わらないうちにリビングからは良い香りが漂ってきた。


 その匂いにつられ、僕はリビングへ。するとそこには家庭的なご飯と味噌汁、そして目玉焼きの3点セット。栄養面から見ても完璧にバランスが取れている。


 高校を決めるにあたって、頭の良い都内の私立高校に半ば無理矢理に進学した弊害として、高校生にして1人暮らしを強いられてしまった。


 まあ俺の希望だし、両親も成績を上がることを見越してそれを承諾してくれたわけだし、利害関係は一致している。


「いただきます。」


 しかし、高校生にして1人暮らしというのがいかに大変か、ここにやって来て実際に生活をしてから思い知らされた。


「……どーですか?今日の献立は。結構自信はあるんですけど。」

「ん、中々いけてるじゃないか。」


 特に朝食なんて毎朝買い込んだ総菜パンで過ごす日々。栄養バランスなんて考えたもんじゃない。


「ふむ。それは良かったです。お口に合うかどうか心配でしたからね。」


 ……ん?1人暮らし?朝食?


 俺の頭がここにきてやっと起きてきた。さっきから俺の目の前で起きていることと俺が頭の中で思っていることが絶望的に嚙み合っていない気が……。


 俺は目の前を再度確認した。俺の目の前には長い銀髪をポニーテールにして結わえ、料理用のエプロンをした大きな赤眼の少女が向かいのイスに座って朝食を食べている。


 ……少女?


 ここでやっと俺は異常事態に気づいた。


「って誰だお前!?」


 俺はイスから跳ね上がって叫んだ。何ですかこれ。つい昨日まで1人で暮らしていたのに急に少女出現とかこれ何てタイトルのRPGゲームですか。


「あ、やっと気づきましたか。妙に何も言ってこないものなので入る家を間違えたのかと思いましたよ。」


 そして困惑する俺を真っ二つに切るように冷静な少女。俺の頭の中は疑問符だらけになる。


 なぜ急に少女が俺の部屋に現れたのか。そしてなぜ平然と俺の部屋に居座っているのか。なぜ素知らぬ顔で朝飯を作っているのか。


 挙げだしたらきりがない。


「……いいか。」


 そもそも時間が限られている朝だ。こんなのにいちいち構っている暇はない。知るべきことだけ知って登校しないと間に合わない。


 俺は立ち上がって箸を少女に向けて言った。


「俺の質問に答えろ。それだけでいい。」


 根から悪い奴だったら今頃悠長に朝飯など作っていない。だがそこが問題点でもある。俺に朝飯を作ったところでこいつにとって何のメリットになるのか。


「答えられる質問なら何でも。あ、後箸を人に向けるのはマナーが悪いのでやめた方がいいですよ。」


 俺は渋い顔をした後、箸を下げて言った。敵意をむき出しにしても何の解決にもならない。少なくともこの少女は俺に敵意を持っていない。


「……まず名前を教えてくれ。」

瑞樹李子(みずきりこ)です。」


 ……瑞樹李子。別段変わった名前でもないな。


 俺は目の色を変えた。次の質問が本題だからだ。


「次、なぜ俺の部屋に入っていた。人の家に勝手に入ることは場合によっては不法侵入となるぞ。」

「……別に勝手に、ではないんですけどね。」


 俺はその言葉に耳を傾けた。明らかに俺が許可していないのに勝手ではない、だと?


 この無表情の少女は一体何を考えているのだろうか。まるで予測がつかない。


「それはどういうことだ?」

「別に言葉のままですよ。私はある依頼を受けてここにやってきました。」

「依頼?」


 そんなもの俺はしていなかった。じゃあ誰が何の依頼を……。


「ま、じきに分かります。この話は長くなっちゃうんでまた後でしましょう。」

「……は?」


 何なんだ。何が言いたいんだ。この少女は。話の流れが全く掴めない……。


「遅刻、しますよ。」


 瑞樹はエプロンを脱ぎながら突然そう言った。そしてその言葉に、俺の目線は部屋にただ一つ置いてある掛け時計に向けられる。


 7時32分。ここから最寄り駅まで歩いて10分。電車で30分。電車を降りてから10分。そして完全登校時刻は8時30分。


 つまり何が言いたいかと言うと……。


「いや時間やべえ!?」


 遅刻寸前だと言うことだ。瑞樹が何を言っていたのかはひとまず置いておくしかない。


 俺は急いで学校指定のバッグを背負って登校準備。だが持ち物の確認はぬかりなく行う。こういう慌てているときに限って定期券を忘れたりするのだ。


 そして、忘れ物がないことを確認すると背を向けたまま俺は瑞樹に言った。


「いいか?ぜっっったいに外から出るなよ?もしも玄関から外に出るところをご近所さんに見つかったら面倒だ。フリじゃねえからなこれ。」

「りょーかいです。」


 まあ真面目そうだし、約束は守ってくれるタイプ……だと信じるしかない。


 だいたい、勝手に家に上がり込んで飯を作るような人を外で野放しにするのはこちら側が怖い。


「……じゃあな。」


 昨日まで1人暮らしだったのでこうやっていってきます、の挨拶を言うのも何だか新鮮だ。


 だが、ドアを開け、鍵を閉める時に振り返ったその時だった。俺は一瞬びくっとしてしまった。


 瑞樹が俺の学校の制服を着ていたような気がしたのだ。もちろん、確定というわけではない。


 エプロンで隠れていたとはいえ、自分の学校の制服くらいは見分けがつく。さすがにそれはないだろう。そもそも俺の学校にあんな奴、いたっけ。


 俺の学校は私立高校だけあって1学年16クラスのマンモス高だから、知らない奴がいてもおかしくない。


 ……まあ、大丈夫だろう。第一、そんなことを考えている場合じゃないしな。



 思えば、この無理矢理の納得こそがフラグとなっていたのかもしれない。というより、この時点で俺は嫌な予感がしていたのだ。


「はい、転校生の瑞樹李子さんです。皆、仲良くするように。」


 何とか登校出来た初日から波乱の新学期、新しいクラスの名簿に、瑞樹の名前が載っていなくて安堵した瞬間の出来事だった。


 始業式が終わると新しいクラスの最初のHRで、転校生として、奴は教壇に立っていた。


 おいおい、そんなのってありかよ……。そして同時に俺は俺の隣の席が空席になっていることを確認する。


 俺の隣のピンポイントで瑞樹が座るなんてそんなご都合主義、あるわけ……。


「よし、席は……そうだな。双葉亮人の隣が空いてるな。そこに座ってくれ。」


 あった。なんだこれ。俺の思ったことが全てフラグと化す日なのかよ。今日。


 だが、その瞬間、俺はあるおかしなことに気づく。


 俺は瑞樹に絶対に家から出ないよう忠告した。しかし、瑞樹は今この教室に、この学校に登校している。


 ということは一度玄関を開けて外に出ているということ。じゃあ、鍵は一体どうしたのだろうか。


 それに、瑞樹が鍵を持っているわけがない。だって俺しか持っていない鍵を渡していないのだから。


「……おい、なんでここにいるんだよ……。第一、鍵はどうした?」


 すると瑞樹は無機質に答えた。


「鍵ならありますよ。あらかじめ能力で複製しておきましたからね。」


 ……能力?何の?


 いきなり能力だと言われたら誰だってそうなるだろう。事実、目の前の瑞樹の手には俺の家の鍵がぶら下がっていた。

 

 勝手に家に上がり込み、勝手に朝食を作り、勝手に家を出て、なぜかこの学校に転校してきて、その上能力だという。


 俺の頭はパンク寸前だった。昨日までのびっくりするくらい普通の日常が嘘のようだ。


 俺の言いたいことはたった1つだった。


 ……なんじゃこりゃ。

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