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8.俺の時代

「SSランクの魔物にA-の魔獣?」


 うさ耳の女の子が言った言葉を反芻する。

 その言葉でようやく女の子は我にかえったようだ。


「あ、すみません。冒険者ギルドの会員証の裏には討伐した魔物や魔獣の情報が載るんです。それで貴方の会員証に載っているのが災害級の魔物と一般に脅威と言われる魔獣だったので……」


 女の子が目をこすりながら俺の会員証をガン見する。

 周りの人も食い入るように俺の会員証を見ているようだ。


「…………災害級に脅威?」


 いつ倒したのか全然記憶にない。

 だが会員証に出ているということは実際に倒したのだろう。

 

 とりあえず服で魔物とかの名前が書かれている場所をこすってみる。

 だが文字が消える気配はない。


 もしかしてマンホールから落ちてすぐに踏みつけちゃったやつだったのだろうか。

 なんだか赤い血のようなものが流れていたし魔獣や魔物と言われてもおかしくない。

 なにしろそのせいで勇者と上げて落とされたのだ。


 しかし会員証によりステータスはくそでもめちゃくちゃ強いらしい魔物と魔獣を倒していたことが分かった。


 こ、これは俺の時代きたー!!

 馬鹿にしてたジジイ見てみろ!

 これが俺の実力だ!!


 逃がした魚のでかさを思い知るがいい!!


 ひゃっはー!!と笑うとオカマが俺の頭を撫でてきた。


「バカな子ほど可愛いというけれど確かにそうねぇ。たかだかダークウルフを倒した程度で喜んでくれるならいくらでも倒しちゃうわ」


 男に頭を撫でられたくなくてオカマの手を叩き落す。


 何が俺が喜ぶならダークウルフくらい倒すだ!

 ダークウルフなんかプレゼントされても嬉しくねぇ。

 もっとこう……柔らかな手とか話しかけると赤くなる頬とかが…………。


 ま、まて!

 オカマにそれを求めちゃだめだ!!

 そ、そう。

 可愛い女の子じゃないと寒気が……。

 

 自分で考えながら頬を赤くして手を包み込むオカマが浮かんで体を震わせる。


 き、きえろーー!!

 そう、悟りを拓くんだ自分。

 前のことは忘れろ……。

 けしてオカマではなく可愛い女の子を思い浮かべるんだ。


 例えば目の前のうさ耳の子が頬を赤く染めながら上目遣いに……。


 くくくく。

 これはいい!!

 すごく可愛い!!


 スタイルの良い子も良いけどうさ耳の子みたいにスレンダーな子も良い!

 全然あり!!

 今すぐ見たい!!


 テンションを持ち直したところで俺はふと我にかえった。

 

 ん?

 オカマが何か重要なことを言っていなかったか?

 

 バカな子ほど可愛いと言うけれど……。

 いや、違う。

 その後だ。

 そんな身の毛もよだつような発言は思い出さなくていい!


 えっと、たかだかダークウルフを倒した程度で喜んでくれるならいくらでも倒しちゃうわだったか?

 たかだかダークウルフくらい?

 ダークウルフ?


「ダークウルフってなんだ?」


 初めて聞く言葉に首をかしげるとうさ耳の子がこぼれ落ちそうなほど大きく目を見開いた。


「ご、ご存知ないのですか? 会員証に載っている魔獣ですが……」


「まあ、知らなくてもおかしくはないわね。ワタシが一人で倒したんだし。ダークウルフはね、背中から生えている触手でも攻撃してくる上に闇の魔法も使ってくるの。さらに闇魔法で常に体を強化してるせいですっごい硬いのよ。貴方は襲われたらいやんなことをされそうだから見つけたら逃げなさい。ワタシが居るから大丈夫だと思うけど……」


「いやん?」


 なんだか強い魔獣らしいということは分かったし、脅威的な魔獣をオカマが倒していたことも分かった。 だが、そんなことよりも聞き逃せないことがある。


 いやんなことってことは襲われると性的なことが起きるのか!?

 ラッキースケベ的な?


「そうよぉ。あの魔獣は変態だから可愛い子を見つけると種を植え付けちゃうの。だから貴方は近づいちゃだ・め」


 本日何度目になるか分からない語尾にハートのつきそうなオカマの発言がゴリゴリと俺の精神を削る。その近くではうさ耳の女の子が男は襲わないと言っているのが耳に入る。

 

 男は襲わないのか。

 となると襲うのは女の子。

 それもオカマの言っていることが正しければ可愛い女の子……。


 ふむ。

 可愛い子を見ると襲う獣……。

 しかも触手属性……。

 ふむ。

 職種を持つ魔獣に襲われている可愛い子を見ることが出来る上に助けて好感度アップもはかれると。

 ふむふむ…………。


 最高じゃないか!!

 これだよ!

 俺が求めてたのは!!


「待ってろよ! 可愛い子ちゃーん!!」


 叫んで俺は冒険者ギルドを出る。

 その背にかかる呆れたようなため息は俺にまで届かなかった。

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