7.王都再び
とりあえず俺がオカマと契約したということは取り消せないらしい。
「っていうかオカマって精霊だったんだな」
ぼそりと呟きながら思い浮かべていた精霊と180度違うオカマの背を胡乱げに見る。
現在オカマに王都まで案内してもらっているため見えるのは背中だけだ。
精霊って言ったら神秘的な雰囲気を持ってる美少女だろう。
神聖な感じの美女も捨てがたいが俺は美少女の方が好みだ。
もし反論があるなら聞くが全面戦争だと思えよ!
それが現実はオカマ……。
一億歩譲って男でも良いけどそれでもオカマはない。
絶対ない。
そんなことを考えながらどうしても離れることができないらしいオカマと一緒に王都に戻る。
美少女な精霊ちゃんとは泣く泣く泉でお別れした。
俺にはよく分からないが相性が悪くて契約できないらしい。
もう涙なくては語れない。
今も思い出すだけで涙が溢れそうだ。
「はーっくしゅん!!」
おっと涙のかわりに盛大なくしゃみが……。
誰かが俺もことを噂したな?
美少女な精霊ちゃんが俺のことを思ってくれているのだろうか。
「今戻るぜ! 精霊ちゃーーん!!」
叫んで踵を返そうとしたがそれはオカマに止められた。
今から泉に戻ると日が暮れるまでに王都につけないらしい。
時間まで分かるとはやりおる。
俺一人では泉のほとりでドラゴ○ンボールを読みながら吹っ飛ばされる人の真似事をするくらいしかできなかっただろう。
王都まで案内できる点だけはオカマを認めてやっても良い。
「褒めて遣わす!」
自分が殿様になった気持ちでオカマにニヒルな笑みを浮かべる。
ふっ、決まった。
今までの中でもかない良い部類じゃないか?
鏡がないため分からないが決まった感があった。
「ふふふ、随分と面白い顔をしているのねぇ。変顔かしら?」
オカマが俺の方を振り向いて吹き出している。
「失礼な! どう見てもかっこいい笑い方だっただろうが!」
絶対の自信があった笑みを馬鹿にされて手に持つものを振りかぶりかける。
が、手に持つのが大切な○ラゴンボールの初版だと思い出して俺は静々と腕を下ろした。
くっ、此処で持ってるのが石だったらちょうど良かったのに!
なぜ俺の宝物なんだ!
今日はくそついてない
そもそもマンホールから落ちて異世界とこんにちはしている時点でついていないのだが、そのことはとんと忘れていた。
オカマは王都への近道を知っているのか俺が泉に行くのにかかった時間よりも相当短い時間で王都まで戻った。
さて、これからどうするか……。
幸い門番が俺の顔を覚えていてくれたためすんなりと入れてもらえたが本来は身分証が必要らしい。
そうなると一番最初の目的は身分証だろうか。
身分証……。
…………むふっ。
「身分証と言えば冒険者ギルドだー!!」
にやける顔を隠せずに冒険者ギルドに向かう。
勿論案内人はオカマだ。
しかし歩き出すと見せかけてオカマは俺を肩に担ぎ上げた。
「な、なななにおう!?」
「こっちの方が早いでしょ?」
今まで担ぐ素振りも見せなかったくせにオカマはそれだけ言うと風のように走り始めた。
……っ!
やばい!
風圧が俺の体力を削っていく。
ただ担がれているだけなのに!
オカマはそれほどスピードを出しているように見えなかったが、冒険者ギルドについたとき俺は自分の足で立つことができないほどフラフラだった。
「くっ……。覚えて…………おけ、よ」
オカマにやっとのことで文句を言いながら地面に突っ伏す。
よう異世界のレンガ。
はじめましてだぜ……。
ひんやりと冷たい感覚が気持ちいい。
思わずレンガに頬ずりをするとオカマに首根っこを持たれてしまった。
「何すんだ! 俺はレンガと友好を深めたたんだぞ!!」
ぷらーんと空中に浮いたままオカマを睨む。
しかしオカマは一切気にしていないようだ。
むしろ不愉快そうに眉をしかめている。
「そんなところで寝たら馬車に引かれるわよ。それにレンガよりも冒険者ギルドと友好を深めたいんじゃないのかしら? ワタシとしてはワタシと友好を深めて欲しいけれどね」
「そうか! そうだな!! 念願の冒険者ギルドに来たんだった! 地面に倒れてる場合じゃない! カモーン! 俺の時代!!」
徐々に上がるテンションでオカマの最後の方の言葉は聞き取れなかった。
だが、どうせロクなことを言っていないだろうし放置してやる。
そんなことよりも目の前に冒険者ギルドがあるのだからな!
俺は力強く冒険者ギルドに入った。
すると大柄な男とぶつかっていちゃもんをつけられ…………ることもなく平和にカウンターにたどり着いた。
「いらっしゃいませ。ご要件はなんでしょうか」
依頼に関することをやっているカウンターとは異なり総合カウンターなるところに座っていたうさ耳の可愛い女の子がにっこりと笑いながら聞いてくる。
「お嬢さん。お嬢さんのハートは一体いくら「この子がね冒険者登録したいのよ」」
俺の言葉に被せるようにオカマが女の子に話しかける。
「邪魔すんなよ…………」
言葉を遮られてブーたれるもオカマは気にした様子を見せないで女の子と話を進めていく。
女の子も俺を見ずにオカマと事務的な話をしている。
ちっ!
なんでオカマなんだよ。
俺の方がいい男だろうが!
そいつなんかただのオカマだぞ!?
涼しげな表情で女の子と話しているオカマが気に食わずオカマの足を踏もうとする。
しかし俺の攻撃はオカマにはお見通しだったようだ。
さっとかわされた挙句憐れむような目で見られた。
「……さてこの子も飽きてきたみたいだし、そろそろギルドの会員証の手続きをお願いするわね」
「はい。ではこちらに手をかざしていただいてよろしいですか」
「もちろんです!!」
初めて俺の方をしっかりと見てくれた女の子に元気よく返事をする。
女の子はそんな俺に驚いたようで長い耳がぴくりと動いた。
耳!
耳めちゃくちゃ可愛い!!
やばい!
これは犯罪的な可愛さだ!!
驚いたことが恥ずかしいのか赤く染まっていく頬もとても可愛い。
俺は言われたとおりカウンターに設置されている水晶に手をかざしながら女の子をじっくりと眺める。
しかし俺の至福の時は一瞬で終わってしまった。
水晶から何かが勢いよく俺に向かって発射されたのだ。
「な、なななんだ?」
手でガードしようにも追いつかず顔に何かがぶつかる。
「へっ? あ、……大丈夫ですか!? 普段はこんなことなく普通にカードが出てくるだけなのですが…………」
女の子が困惑したように俺にぶつかって落ちたものを目で追う。
オカマは俺に怪我がないか真剣に確認中だ。
どうやら落ちたものが会員証らしい。
なんつう出方だよ!
攻撃かと思ったわ!!
俺はカードを拾い上げる。
するとそこには俺の名前とランクが出ていた。
裏にはなんだかよくわからない固有名詞みたいなものが書かれている。
「なんだこれ?」
裏に書かれているものが分からずに首をかしげるとうさ耳の女の子が息を飲んだのが分かった。
「SSランクの魔物にA-の魔獣…………」
ぽつりとしたつぶやきだったが聞こえる範囲にいた人が皆俺の方を見て静まり返った。