6.認めたくない現実
どうするんだよ。
もう女の子と仲良くなれないのか?
このオカマのせいで!!
せっかくの異世界なのに?
あんなことのせいで?
そんなの認められるかー!!
俺はかわいい女の子とにゃんにゃんするんだー!!
オカマなんて認めないと決意を込めてオカマを睨む。
しかしさっきまでオカマがいたはずの場所にオカマはおらず、泉で髪を洗っていた精霊が睨んだ先にいた。
な、ななな?
オカマはどこ行った!
いや、実はこの子がオカマ?
それなら大歓迎です!!
どう考えても顔が違うが、一縷の望みをかけて俺は精霊ちゃんに渾身の笑顔を見せる。
精霊ちゃんはそんな俺を見て笑った。
「そんな表情をヴェリス様にもしたら喜んでいただけると思うわ。ヴェリス様は随分と貴方がお気に召したみたいだから」
はい!
あなたのためならいくらでも笑わせていただきます!
精霊ちゃんの言葉に笑崩れたところで違和感を感じた。
ん?
ヴェリス様?
聞いたことのない名前に首をかしげる。
すると目の前にオカマが現れた。
「ぎゃー!! オカマ!」
予期せぬ遭遇に心の声が勝手に漏れる。
それを聞いてオカマが顔をしかめた。
「あらん? 随分な歓迎ねぇ。そんなにワタシと仲良くしたいの?」
不機嫌そうなオカマの手がなぜか怪しく動く。
や、やばい!!
貞操の危機!?
慌てて後ずさると精霊ちゃんが首を横に振った。
「ヴェリス様、あまりに構われ過ぎますと嫌われますよ」
オカマを止めているのか止めていないのか分からないような発言だが、オカマの動きが止まった。
「あら、嫌なこと言うわね」
オカマが精霊ちゃんの方を向く。
どうやら威圧もしているようだ。
頑張れ精霊ちゃん!
俺のために!!
精霊ちゃんにとって何も利益がなさそうだが、精霊ちゃんはなおも言葉を紡いでくれる。
「ヴェリス様とて嫌われたくはないのでしょう? ゆっくりと依存させれば良いのです」
んんん?
何かがおかしい気がする。
精霊ちゃんは無垢な天使のような微笑みを浮かべているが言っていることが引っかかった。
依存……?
誰が?
何を依存させるの??
理解したくない内容に俺は思考を放棄したくなった。
というか実際に思考が停止し、気づけばオカマが俺を覗き込んでいた。
「ぎゃーーー!!!」
俺の悲鳴を聞いてオカマは微笑んだ。
「熱烈な歓迎ね。嬉しいわぁ」
語尾にハートまでつきそうな言葉に俺はオカマの頬を平手打ちにする。
ついでに現実が受け入れきれず俺はその場で気を失った。
***
次に目を覚ますと実はすべてが夢でしたという夢オチを期待したけれど現実はとても残酷だった。
清々しい空気に綺麗な泉。
そして忘れてはならない美少女と…………視界に入れたくもないお・か・ま!
ぐぉおおおおお。
俺は何か神様の気に触ることでもしてしまったのか!?
なぜ、なぜオカマなんだ!
これが美少女が微笑みながら愛の証と言ってくれたら天国だったのに!!
嫌でも視界の端に映っているオカマは俺が目覚めたことにも気づかずに何かを解体しているようだ。
そのせいか何となく血生臭い。
「うーん……」
好きにはなれない匂いについ口から渋い声が出る。
そのせいで俺が起きたことがオカマにバレてしまった。
「あらん? 目が覚めたのねぇ。なかなか起きないから心配しちゃったぁ」
オカマはどこが心配していたんだと聞きたくなるような怪しげな雰囲気を撒き散らしながらこちらに向かってくる。
「ぎゃあああああ!!」
本日何回目になるか分からない悲鳴をあげて俺は後ずさった。
けれどオカマは気にしていないようだ。
解体していた物体を適当に放り投げて進んでくる。
「な、なななな何をしてたんだ?」
これ以上近寄られたくなくてオカマの意識をそらそうとする。
するとオカマはつまらなそうな表情を浮かべて解体していたものに視線を向けた。
「ああ、あれ? あれはあなたを襲おうとしてたから殺したの。あんな雑魚にも関わらずあなたに襲いかかるなんて、許せるはずがないだろう?」
さ、最後の方口調が男に戻ってますけど!?
口調だけではなく声色もドスがきいている。
な、なんつう声を出すんだ。
俺に向かって言われた訳ではないのに背筋が震える。
こ、こいつもしかして強い?
逆らったらやばい感じ?
俺は自分のステータスを思い出してさらに震えた。
や、やばい。
なんかよく分かんないけど襲いかかってくるような凶暴なものを殺せるってことは俺もサクッと殺られそう……。
「な、なあ。愛の証とか言ってたがそれって一体何なんだ?」
ひとまずオカマに反抗するのは危険と判断してどこまでオカマの言うことが正しいのか考えることにした。
もし本当に愛の証とかだったらどうしよう……。
俺は自分の命を取るべきか男としての誇りを取るべきか…………。
かなり深刻な悩みになるだろう。
できれば愛の証なんかじゃない方が嬉しいんだけどなー。
あははは。
遠い目をしながら視界の端にオカマを映しているとオカマがニヤリと笑った。
「愛の証なんかのわけないでしょー。本当に可愛いんだからぁ。あれは精霊との契約の証よ。そ・れ・と・も、そんなにワタシのことが好きなのお? 嬉しいわぁ」
両思いねと嬉しそうにしているオカマに背筋が凍りつく。
い、いや、でも結婚の証とかじゃなかったんだ!
例え精霊との契約の証だろうとばっちこーーい!!
断然まし……な、はず…………。
まし、なのか?
ふと疑問が頭をよぎったが俺は考えないように追い出した。