5.精霊との出会い
王都を出てしばらく森の中をさまようが精霊が出てこない。
精霊が出そうな神秘的な場所も見つからない。
くっ、俺の精霊ちゃんはどこにいるんだ!
こんなに魅力的な俺が歩いているんだぞ!
体感的に長い間歩いたため、冷涼な気候にも関わらず汗が滴る。
「つ、疲れた。こんなところでも体力がない弊害が……」
若干落ち込みながら、しゃがみこむ。
そしてその場に落ちている木の枝を拾った。
「よし! 有名なあれやるぞ! 精霊ちゃんはどっちだ!」
別に有名でもない上に普通は道の分かれ目とかでやる神頼みを森の真ん中でやる。
すると当たり前だが、木の枝が倒れた。
「お、こっちか。待ってろよ、俺の精霊ちゃん!」
ピー(自主規制)精霊限定魅了と書かれていたことなど忘れて元気よく走り出した。
しばらく走っていくと景色がどんどんと澄み渡っていく。
これは期待できる!
この先には絶対精霊がいる!
根拠のない自信を元に俺は頬が緩むのを自覚した。
疲れて空回りを始める足を無理やり動かす。
ついに足の限界がきた頃、綺麗な泉を見つけた。
おおおおー!!
精霊いそう!
というか既にいるじゃないか!!
服を着た若い精霊が泉の中で長い緑色の髪を洗っている。
きたー!!
理想郷のような状況に鼻血が滴る。
しかしそんなことは気にしていられない。
鼻血を垂らしたまま俺はハアハアうるさい息をなだめ、精霊に話しかけた。
「つ、つつつ、月が綺麗ですね」
なんとか言葉を紡いで精霊が顔を上げた。
残念なことに服は濡れてないし、透けてもいない。
俺の言った言葉の意味も理解していなさそうだ。
だが、そんなことよりも大切なことがある。
め、めちゃくちゃ美少女じゃないかー!!
人でないがゆえの神秘的な美貌を目にして俺は臨界点を突破した。
じじいの娘と思わしき美少女とは違った美しさがある。
「ま、満足です」
俺はパタリとその場に倒れ込んだ。
感動のあまり緩んだ顔が戻らない。
これはあの美少女な精霊さんが介抱とかしてくれるのだろうか。
とりあえず目を閉じておこう。
荒い息をそのままに俺は目を閉じて唇を尖らした。
「あらん? 随分と積極的なのねぇ。いいわぁ、お姉さんがチッスしてあ・げ・る」
想像と違う背筋が凍るような野太い声を聞いて慌てて目を開けると、分厚い唇が迫っているのが見えた。
「ぎゃ、ぎゃーー!!」
今まで上げたことのないような本気の悲鳴を上げて俺は純潔の唇を守る。
すると、野太い声の持ち主の唇とドラ○ンボール1巻の初版がくっついた。
「ぎゃーー!!」
俺の宝物がー!!
慌てて服で拭くが、あの衝撃のシーンが頭から離れない。
「どどどど、どどどうしてくれるんだよ!! これは俺が苦労して手に入れた宝物なんだぞ!!」
熱烈なキスをかましてきたオカマをなじる。
しかしオカマは一切気にした素振りを見せない。
「あら、ワタシだってそんなものとキスする趣味はないわ。あなたが避けたのがいけないんじゃない。今度こそワ・タ・シと熱い時間を過ごしましょう?」
多少ゴリマッチョな気がするが、男らしくて一般的にイケメンと言われそうな顔のオカマが言葉と共に俺に迫ってくる。
腐女子とか貴腐人の好きそうな薄い本が厚くなりそうな状況だ。
や、やばい!
人生最大のピンチ!!
そんだけ顔が良ければ男に走らなくてもモテるだろ!
こ、こっちに来んなー!
焦りながら後退するが、すぐに木に当たってしまう。
「い・た・だ・き・まーす」
語尾にハートがつきそうな言葉と共に再びオカマの唇が迫る。
「ふんぎゃーーー!!」
俺は悲鳴をあげながら、今まで見せたことのないような瞬発力でオカマの顎に頭突きをした。
流石にこれはオカマも痛かったようで顎をさすりながら傷ついたように俺を見てくる。
そ、そんな顔をしたって騙されないぞ!
襲ってくるお前が悪いんだからな!
怯えながらも虚勢を張るとオカマがニヤリと笑った。
な、なな、何をする気だ。
どもりながらもオカマの行動を見る。
見たくないが目を離したら大惨事になりそうだ。
そんな俺にオカマがある提案をしてきた。
「ねえ、そんなに嫌ならとりあえず今のところは唇を諦めてあげる。でもかわりに握手してよ」
とりあえずと今のところという言葉に含みを感じるが、断ることなどできそうもない。
このまま嫌がったら俺の唇が犠牲になる。
く、屈辱!
本当は握手をするのも抵抗があるが、まだ握手ならと思い、ゆっくりとだが手を差し出した。
そんな俺の手が完全に上がりきる前にオカマが俺の手を握り、手をひっくり返す。
「へっ?」
突然のことに対応ができないでいると、オカマが俺の手首にくちづけた。
「ぎゃーーー!!!」
思い切り振り払おうとするが、オカマの力が強くて振り払えない。
オカマが何か言っているが、その間俺は心の中で滂沱の涙をこぼす。
前略 お父さん、お母さん。あなたたちの愛おしい愛おしい息子は異世界にてお婿に行けない体になりました。(完)
って、こんな終わり方あってたまるかー!!
俺は精霊魅了のギフトを使って女の子たちと仲良くなるんだー!!
ファイトいっぱーつとばかりに体ごと起き上がってオカマを振り払う。
しかしそれは間に合わなかったようだ。
俺の右手首の内側に何らかの魔法陣が浮かんで消えた。
「な、なんだ?」
何が起きているのか分からず、手首をゴシゴシ擦る。
だが、魔法陣が再び現れることはなかった。
「何をしたんだよ!」
絶対に犯人はこいつだと思いながらオカマに詰め寄る。
するとオカマが爽やかに笑った。
ひと仕事終えた後のような表情で無駄にキラキラしている。
「そんなの決まってるじゃない。ワタシと貴方の愛のあ・か・しをつけたの」
ハートが見えるような言葉が聞こえ、凄まじい勢いで鳥肌がたった。
あああああ、愛の証!?
冗談じゃない!
見えない魔法陣を消そうと手首を服で擦りまくる。
しかし手首が赤くなるだけで魔法陣が消えた感じはしない。
「どどどど、どうすんだよ!!」
どもりながらオカマに詰め寄るが、オカマは涼しい顔をしている。
それどころかニヤリと笑った。
「残念だけれどその魔法陣は消せないわ。私とあなた双方の同意がなければ」
嬉しそうなオカマを見て俺はム○クになる。
一生消えないのか!?
付けられた時は同意なんてしてなかったのに!!
認めたくない現実を知り、俺は気が遠くなる。
「愛の証……。アイノアカシ…………。あいのあかし………………」
呆然としながら繰り返す俺にオカマがむっとした。
「なによ。ワタシと契約を結ぶのがそんなに嫌なわけ?」
オカマが不満そうな表情を浮かべるが、文句があるのは俺の方だ。
愛の証ってなんだよ!
婚姻届みたいなものか!?
そんなの嫌だぞ!!
俺は女の子と仲良くなるんだ!
俺は頭を抱えてしゃがみこんだ。