3.こ、これは何かの間違いだ
「…………であるから…………で、………………」
「……………………、勇者! 勇者!! 聞いておるのか!!」
はっ、あまりに長いから一瞬気絶してた。
べ、別に寝てたわけじゃないぞ!
あわてて目を開くと顔を真っ赤にしたじじいがいた。
…………誰だ?
どっかで見た気がしなくもない。
記憶を探りながら視線を横にずらす。
すると隣には美少女がいる。
あ、王様か。
じじいに興味がないから忘れてた。
どうでも良いような目でじじいを見るとじじいの顔がさらに赤くなった。
「無礼な! いくら勇者とは言え許される行為ではないぞ!!」
椅子から立ち上がりじじいが怒る。
えー、話が長いせいでちょっと寝ちゃって、興味のないじじいの顔見ただけなんですけどー。
ん?
それが悪いって?
誰でもやることだろ。
みんなの心の内はひとつ!
せーの!!
小さくなっても頭脳は同じ(略)江戸川コ○ン!
じゃなくて、じじいに興味ねー!!
心の内で宣言して額の汗を拭う。
実際は汗などかいていないが、雰囲気的に必要なことだろう。
ふう、やりきった。
しかし危うく著作権犯すところだった。
このじじいはやり手だな!
人を犯罪者に仕立て上げようとするとは。
恐るべきじじいだ。
畏怖と尊敬の念を込めてじじいを見る。
するとじじいの怒りが多少収まったようだ。
お付の人たちもほっとしたように表情を緩めている。
……なんかお付の人が変なこと言うなよっていう目で見てくるんだけど。
なかなかに眼力があって怖い。
いやん。
ふざけて体をくねらせるとじじいが凝視してきた。
まじか……、男に興味ないんですけど。
しかもじじいとかレベル高くね。
初心者コースからお願いします。
俺がドン引きしていると、じじいが咳払いをした。
「もうよい! さっさとステータスを見るとするかのう。そやつには説明をしても無駄のようじゃ」
蔑むような目でじじいが見てくる。
むっ。
喧嘩売ってんのかこのやろう。
そのほっそい腰骨へし折ってやるぞ!
売られた喧嘩は買わなければと思い、思い切り指を鳴らす。
次の瞬間骨の折れるような音がした。
「あうち!!」
バキっていった!
今しちゃいけない音がした!!
俺の指折れてない!?
ちゃんと付いてるよね!?
涙目になって指の付け根を見るが特に異常はない。
指もちゃんと動く。
よ、良かった……。
胸をなでおろしていると、俺の奇行はスルーされ、目の前にへんちくりんな石が持ってこられた。
「それに手をかざせ。主のステータスが出る」
じじいが段上でさっさとしろと言うように手を振る。
ふむ、ステータス。
ステータス……。
ステータスとはゲームや異世界転移に必須な存在。
さっきはじじいの骨で頭がいっぱいで聞き逃していたが、けして聞き逃せない大事なイベントじゃないか!
勇者ってことはここですごいステータスが出るんだろ?
特殊なギフトとかスキルとか!!
クククこれで俺もラノベの仲間入りだ!
ふーははは!!
俺はもったいぶりながら手を石にかざす。
もちろん封印された右手をだ。
俺の右手が石に触れたその瞬間あたりが光に包まれ………………なかった。
しかし周囲の人々は驚いたように見つめている。
ムフフ、これは、来たな。
俺の時代が。
ようやく世界が俺に追いついたようだな!!
やるぜ!
やってやるぜ!
邪竜だろうが魔王だがばっちこーい!
瞬殺してやる!
高笑いしながら石を掴むと、じじいの顔が再び赤くなった。
嫉妬かと思いながらドヤ顔でじじいを見ると、じじいがつばを吐く勢いで喋り始める。
「き、貴様! 勇者ではないではないか!!」
ん?
勇者じゃない?
そんな馬鹿な。
俺もステータスを見てみる。
―――――
名前 朝比奈 優
年齢 14
種族 人間
性別 男
体力 2(街の子ども4)
魔力 ∞
攻撃力 1(生まれたての赤ん坊1)
防御力 ∞
知能 0,1 (生まれたての赤ん坊1)
称号 ただの旅行者、おバカ
スキル なし
―――――
な、なんだこれー!!
知力0,1!?
ふざけんな!
赤ん坊以下かよ!!
称号もおバカとか!
くそー!!
責任者出てこい!!
あらん限りの思いを込めて叫ぶが、特に女神とかが出てくる気配はない。
い、いや待て。
魔力が無限だ。
こ、これはもしかしたら魔法チートではないだろうか。
期待を込めて魔力の欄を見るが、周りの人々によって希望が打ち消された。
「体力2とか初めて見たぞ」
「知力0,1もだ」
「魔力と防御力のところに見たことがない記号があるが、他の感じからして恐らくダメダメなんだろうな」
「そもそも知力がなければ魔法なんて使えないしな。あったとしても宝の持ち腐れだろ」
「スキルもないみたいだしな」
一応俺に聞こえないよう声を潜めているようだが、全部聞こえている。
美少女のゴミを見るような視線も突き刺さる。
き、希望が打ち消されたー!!
スキルもなしってどういうことだよ!
普通すごいのが来るんじゃないのかよ!!
俺が心の中で叫んでいると、じじいがハエを追い払うように片手を振った。
それが合図だったようで俺をここに連れてきた人たちが動く。
そして気づいた時には城を追い出されていた。