2.こんにちは異世界!
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
俺は悲鳴をあげながら落ち続ける。
って、この水道管長くね?
不審に思いながらも、ドラゴンボ○ルを精一杯上にする。
こうすれば少しでもダメージを防げるはずだ!
できれば水もかけたくない!
綺麗な水ならいいが、下水だったら最悪だ。
頭の中が○ラゴンボールでいっぱいになっている俺はすでに空が円形に区切られていないことに気付かなかった。
そのまま、何かの上に墜落する。
下からはグシャリという音と、トマトを踏みつけたような感触がした。
え?
もしかして俺踏んじゃった?
以前踏んで鬼婆……マイマミーに1ヶ月トマトだけの弁当を持たされたことを思い出す。高いところから落ちて無傷なのがおかしいとか考えている余裕などない。
俺は頭から血が引いていくのを感じながら靴の裏を確認する。
すると赤色の汁が流れ落ちる。
や、やっぱりトマト踏んだぁぁああ!!
ショックのあまり気絶しそうになる。
ま、また地獄のトマト弁当再びか!?
そんなの嫌だああああ!!
俺は!
俺はトマトが嫌いなんだよおおおぉぉぉ!!
い、いや、待て冷静になるんだ。
もしかしたらトマトじゃないかもしれないだろ?
どう見てもトマトのような赤色だったが俺はもう一度靴の裏を確認してみた。
するとそこに着いていた赤はなぜか黒く変色し始めている。
ん?
……なんだこれ?
確かに赤いが、いつぞや誤って踏んだトマトじゃない。
あの感触は絶対トマトだと思ったんだけどな。
俺は首をかしげながらも、宿敵トメイトォォォでなかったことにほっとした。
赤い怪物じゃなかったぜ。
俺は鬼ば……お母様に打ち勝った!
安心したことでようやく周りが見えるようになってくる。
あれ?
そういえば俺はマンホールに落ちたんだよな?
マンホールの下は水じゃないのか?
疑問に思って辺りを見る。
が、暗くて狭い感じも、水が流れる感じもしない。
むしろクリーンな景色だ。
マンホールに落ちると……。
そ・こ・は!
草原でした!!
あはは、マンホールに落ちるとその下は草原なんだね!
なんて清々しい空気なんだろう。
どこかの消臭剤のCMにできそうだ。
ってそんな訳あるか!!
1人ノリツッコミをして手に持つ包を地面に向かって振りかぶる。
その瞬間ふと我に返った。
こ、これは投げちゃダメだ!!
念願の初版なんだからな!!
大事に包を抱えなおす。
すると、周りにいた人々が歓声を上げた。
えっ。
なに?
突然の出来事に体を揺らす。
周りに人がいるのは見えていたが、あまりにもファンタジーな格好をしていたので無意識に除外していた。
それが声を上げたことでようやく意識下に入ってきた。
さらに人々は叫ぶ。
「「「勇者様だーーー!!!」」」
え?
勇者?
誰が?
人々の視線は俺に集まっている。
俺?
……俺?
クフフ、通りで右目が疼くと思ったよ。
キメ顔をしてカラフルな頭の人々を見る。
それだけで周りの熱気が高まった。
「「「勇者! 勇者!! 勇者!!!」」」
周りの人の合唱に合わせて俺も指揮を取る。
チャ、チャチャ、チャ!
そのまま熱気はマックスを迎え、甲冑を着た人々に抱え上げられた。
ちょ!
ま……。
おおお!?
そのまま人々は近くの村に向かい、そのまま大きな扉をくぐった。
すると、そ・こ・はきらびやかな世界でしたー!!
ってこれ今日何回目だよ!
何が起きてんだよ!
状況についていけず、目を白黒させる。
しかしそこで、ふと大切なことを思い出す。
まて、俺は勇者なんだろ?
と・な・る・と?
これは異世界トリップじゃー!!
多少場所が分からないのくらい気にすんな!
フィハァァァーーー!!!
え?
俺の時代来ちゃう?
ここがどこだか分かんないけどやっちゃうよ?
この自慢の魔眼(右目)でな!
勇者だということを思い出し、胸を張って兵士らしき人々に運ばれる。
傍から見ると働きアリに連れ去られる哀れなエサにしか見えない。
だがドヤ顔をしている俺は一切気付かなかった。
やがてどこかの広間にたどり着く。
すげぇ!
アニメの中みたいだ!
金ピカだし階段の上に椅子がある!
王様とかエライ人があそこに座るんだろ?
きょろきょろしていると、人々が俺を床におろした。
ここが終着点か?
となるとやっぱり王様が出てくるだろ。
テンプレ的に!
まあ、そんなことよりも俺もあの椅子に座っていいかな。
そうそう出来ない経験だし、座らなきゃ損な気がする!
……ちょっとくらいなら大丈夫だろ。
見たことのない内装に興奮がおさまらない。
俺をここに連れてきた人たちはニコニコしながら俺を見るだけだ。
よし!
やるぜ!
俺は決意を固め、椅子に向けて一歩踏み出す。
ちょうどその時、中華街とかで鳴っている銅鑼の音が響いた。
「うお!」
突然のことに驚いて足を引っ込める。
な、なんだ?
まだ何もやってないぞ!
自分には関係ないという顔をして視線をさまよわせ、下手な口笛なんかも吹いてみる。
しかし俺に視線を向けている人などいない。
皆階段に向かって膝をついている。
お?
誰か来るのか?
良かった。
俺を威嚇するために銅鑼が鳴ったわけじゃないのか。
胸をなでおろしていると、偉そうなじじいと美少女、その側近と思われる人間が入ってきた。
じじい……服に着られてね?
重量負けもしてそうだ。
貧弱な老人の体に重厚な衣装は見ているだけでも分不相応だ。
しかし美少女は今まで見たことないような可愛らしさだ。
うひょーい!
今まで2次元にしか興味なかったけど、これはあり!
断然あり!!
彼氏とかいるのか?
是非ともお付き合いさせてください!!
興奮してハスハスしていると、美少女が眉をひそめた。
おおー!
そんな表情も似合ってます!
もしかして俺が勇者ってことはあの子と結婚できるのか!?
こういう時にいるのは王女様だろ!
魔王を殺して結婚……。
うおー!
興奮してきた!!
鼻血こそ吹いていないが胸のときめきが止まらない。
こ、これが恋に落ちるってことなのか!?
じじいが何かを話し始めるが、そんなことなど頭に入らなかった。