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第一話 白い光に包まれて

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昼休みの屋上というと人が多いイメージを持たれがちだが、ここ鶴島(つるしま)高校はそうではない。鶴島高校では屋上に立ち入ることが原則禁止とされていた。昔、屋上で遊んでいて落下した人がいたとか何とか。


その屋上のベンチで悠々と本を読んでいる男子生徒がいた。黒崎恭哉(くろさききょうや)である。


ドアが開く音がして、二人の生徒が入ってきた。恭哉はそちらに目を向け、すぐに戻した。もう何度目か分からない、慣れているのだ。


「あの、俺ずっとあなたのことが好きでした。付き合ってください!」


二人のうちの一人、男子生徒が言った。少しの間の沈黙、恭哉もこの時ばかりはちょっと落ち着かない気持になる。


「すみません。あなたとは付き合えません」


「そう……ですか」


とぼとぼとした足音の後、ドアが閉まる音。男子生徒が立ち去ると、こちらに近付いてくる足音がする。


「屋上で一人の昼食、ぼっちここに極まれりって感じですね」


「それは褒めてるのか?」


「いいえ、全く」


西園寺メイサ、名前からも分かるようにハーフの少女で、我が校のアイドルである。白金の綺麗な髪を伸ばしフランス人形のような繊細な顔立ちをしている。その容姿だとただのセーラー服すら豪華に見えるから不思議だ。


「俺は一人でも平気なんだ」


「では、教室で食べたらどうですか?」


「いや、それは無理」


周りの目が痛すぎる。あんなの耐えられない。


「ゴールデンウィークを目前にしてこの状況では、ぼっち確定ですね」


「ば、ばっかお前、まだ決まった訳じゃ」


「いいえ、決まっています。この三年間、黒崎さんはぼっちとして過ごすでしょう」


「怖いことをさらっと言うな」


メイサは敬語を使っているものの、その物言いはずけずけと失礼なことこの上ない。人間は下の者には強気になる傾向がある。スクールカースト底辺に位置する恭哉に対して攻撃的になることは多々あるが、メイサのそれは少し違う。


攻撃的なのだが、その青色の目に見下すような感情は見えない。

笑顔で毒を吐くのは恐らく彼女の性格。こいつ絶対ドSだ。


そんな恭哉がスクールカースト上位のメイサと話しているのは端から見ると異様な光景だろう。

恭哉とメイサが接点を持ったのはこの屋上だ。いつものように昼食をとっていた恭哉がさっきのように告白の現場を見てしまったのだ。その時笑顔で言われた。


「今からあなたの記憶を消去します。ここから飛び下りてください」


誰にも話さないと何とか説得して事なきを得たが、怖くて泣きそうだったのを覚えている。いやもうマジで怖かった。


決して友達ではない。メイサもそう思っているだろう。会話をするのだって屋上でだけだ。同じクラスだが、教室で話すことはない。


「また断ったんだな、告白」


「はい、断りましたとも」


「今回は上位ランカーだったんじゃないか?顔だって結構良かったし」


「イケメンでしたね。だからって付き合うとは限らないでしょ?」


「そういうもんなのか……」


「そうですよ。童貞の黒崎さんには分からないでしょうけど」


「うるせえよ」


本当に遠慮がない。図星なので何も言えない。そこはオブラートに包めよ。あなた女の子でしょ?


「外面が良くても、私はときめきません。私の好みは面白い人です」


「さいですか」


メイサのお眼鏡にかなう面白さとは何だろうか。彼女に弄ばれる未来の彼氏は精神的にかなり強い人間か、弄ばれることに喜びを感じる者にしか勤まらないだろう。そんなことを考えていると、じっとこちらを見ていたメイサと目が合う。メイサはさっと体を抱いた。


「言っておきますけど、黒崎さんは対象外ですから」


少しでも恥じらう様子があればまだ可愛げもあるのだが、メイサの表情は楽しげだ。


「それは俺も同じだ」


「あら、こんなに可愛い子に向かって何を言ってるんです?」


「外面は関係ないんだろ?」


「うふっ言い返されちゃいました」


ニコニコと笑ってメイサが言った。 全く堪えた様子がない。


予鈴が鳴る。昼休みももう終わりだ。メイサは身を翻し帰って行く。すると、突然振り返り言った。


「黒崎さんのこと、私は結構面白いと思いますよ」


さっき対象外と言ったばかりではないか。からかってるのが丸分かりである。恭哉はおざなりに手を振ろうとした。


その時だった。


突然校舎全体、それどころか校庭を含む敷地全体白い光が覆った。眩しくて目を閉じてしまい、何が起きてるか分からないがイレギュラーなことが起きてるのは確かだ。


恭哉は手探りにメイサの頭を掴み、身を伏せさせた。多少強引だが仕方ない。もしメイサの身に何かあれば、同じ場所にいた恭哉はクラスメイトに何を言われるか分からない。ぼっちはクラスで弱いのだ。


その光は、すぐになくなった。しかし、恭哉とメイサは見知らぬ場所にいた。何もない白い空間だった。見渡す限り白くて何もない。


「ここはどこだ?」


「真っ白ですね。というか、離してもらえます?」


いつまでもメイサの頭を掴んでいたことに気付き、手を離す。恭哉は片手で摑めそうなほど小さい頭に驚いた。


「あれ、どうしてメイサがここにいるニャ?」


白い空間に声が響いた。しかし、どこから声がしたのか分からない。


「おーいどこ見てるニャ。吾輩はここニャ」


「黒崎さん、下です」


メイサに言われたとおりしたに目を向けると足下に一匹の黒猫がいた。くりくりした瞳で見上げている。


「猫が喋ってる」


「あんまり驚かないニャ」


「当然だろ。こちとら喋る猫型は子供の時から見てきたからな」


嘘だ。恭哉は心臓が止まりそうなほど驚いていた。猫型と言ってもあれは厳密に猫じゃないし、画面越しだった。驚かない方がおかしい。


「ふんっ、流石選ばれるだけはあるニャ」


「選ばれる……何だそれは?」


「そう焦るニャ人間、吾輩が説明するニャ」


さっきから思っていたがこの猫、態度がでかい。愛らしい猫の顔をしているのに、全然そう見えない。


「そもそもお前は誰だ?ていうか何だ?」


「猫は猫ニャ」


「じゃあ猫でいいんだな」


「吾輩は猫である。名前はミケニャ」


「名前あるのかよ」


しかも何となく猫っぽい名前な所が気になる。


「この姿は仮のものニャ。吾輩はお前に頼みがあるニャ」


「頼み?」


とても頼んでる態度とは思えない。それとミケがお前達ではなく「お前」と言ったのが気になった。先程もメイサを知っているような口ぶりだったが、メイサもそうなのだろうか。


「人間、お前に力を授けるニャ。そしてこの世界に迫る侵入者と戦って欲しいのニャ」


侵入者とは何だ?どこからの侵入者だ?恭哉は考えを巡らせるがまるで意味が分からなかった。


「ちょっと待て。少し混乱してる。まずここはどこなんだ?」


「ここは吾輩が魔法で作った結界ニャ。味気なくてすまんニャ」


「魔法……」


「そうニャ。人間はほとんど使えないけど、お前みたいに使う才能がある奴はいるニャ」


「才能?俺は魔法が使えるのか?」


「使えるニャ」


「じゃあ」


そらを飛んだり、火を吹いたりもできるのだろうか。そう聞こうとしたところで、メイサが口を開いた。


「ミケ、もう時間がありませんよ」


「そうニャ。後の説明は頼んでいいニャ?」


「分かりました。黒崎さんは頭が悪いので自信ありませんけど、やってみます」


「おい……」


学年トップクラスのメイサに比べたら良くはないが、恭哉の学力は平均だ。断じて悪くはない。


「じゃあ任せるニャ」


「はい、それよりもスキルを」


「そうニャそうニャ。忘れるところだったニャ」


ミケはポンと前足を合わせてそう言うと、恭哉の右足に噛み付いた。


「っ!」


チクリとした痛みが走る。ミケはすぐに離れた。


「これでスキルが発動する。魔法が使えるニャ」


ミケが言い終えるのと同時に白い空間が音もなく崩れていった。恭哉の足元も崩れ、真っ逆さまに落ちる。その中で恭哉は思った。


いや、魔法って……、噛んだだけじゃん……。


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