君の声と共に
高校3年。卒業式前日。
僕は、学校の中庭にある一本の樹に身を預けていた。風邪の音や、微かに聞こえる誰かの話し声。そして、こちらに向かってくる小さな軽い足音。
「...なつ、見つけた」
本当に小さな、蚊の鳴くような声で僕を呼んだ彼女は少しだけ怒っている様だった。
「ごめん、今行くよ。」
2019年、4月。
桜が舞い散る季節。
東京都立九栗丘高等学校校門前。
僕は風と舞う桜を体に受けながら、
そこに立っていた。
中学生の頃から、都立の高校に通うことだけを目標にして頑張って来た。私立は、行く気にならなかったのだ。僕は私立はそっちのけで、自分の行きたい都立高校を探した。都立は都立でも、どうせたった1回の高校生活なのだから、こんな田舎じゃなくて都会の都立高校に行きたかった。そんな時、今年の春からリニューアルされた高校が東京にあるのを知った。名前は九栗丘高校。リニューアルされたということで、新入生を新たに募集するとの情報も載っていた。外見はなかなか綺麗で、これは相当な偏差値の高さだろうと思いつつ調べると、偏差値はまあまあ高いが、落胆するほど高くはなかった(個人的に)。
その日から僕は憧れの、リニューアルされたという都立九栗丘高校の校門をくぐるべく、ただただ勉強した。
・・・・・・そして今に至る。
僕は今日から、この九栗丘高校で最高の青春を満喫するために、ゆっくりとその門をくぐった。
校舎に入り、昇降口に張り出してあるクラスの割り振り表を見る。
1学年のクラスは全部で4クラスあり、1クラス35、6人程。僕は1年3組で出席番号は17番だった。
僕の出身は仙台市で、東京に来る機会など滅多になかった。もちろんその3組に、僕の知っている人など1人も居るはずがなかった。覚悟はしていたが、初日に1人で入学式が行われる体育館に向かうのは正直胸が痛む。よくある展開は、歩いている最中か入学式が終わった後、もしくはクラスで声をかけられ名前を聞かれて話をして意気投合・・・・・・というものだろう。僕も友達は欲しかったし、居なければこの高校生活も楽しくなくなってしまうだろう。だが生憎、僕は人とコミュニケーションがうまく取れないのだ。実際、地元の仙台市でも僕が友達と呼べる人は、居るには居るが少なかった。地元でボロボロの友人関係をやっとという感じで築いてきたのに、知り合いが誰もいないこの高校で1からもう一度友達を作るなど、皆無に等しいだろう。想像するだけで恐怖感が僕を襲うほどだ。何故これほどまでに人と接する能力が低いのかと遺伝子を疑いたくなる。僕以外の家族は、僕ほど友達が少ない訳では無いからだ。世界が理不尽なんだか僕が理不尽なんだか・・・・・・。それも覚悟のうちで受けたのだから仕方ないか。
色々と考えていると、体育館も目と鼻の先だった。ふと振り返ると昇降口から体育館までの渡り廊下は相当な距離があったように見えた。まだ昇降口と渡り廊下しか足を入れていないが、この学校は相当大きいはずだ。リニューアル前のこの学校の校風や大きさは分からないが、かなり綺麗だしリニューアルでかなりの大規模を改築したのだろう。そう思い、体育館へと足を踏み入れる。
僕の性格上、友達は当分作れそうにないがこの校舎への期待は高まる一方だ。そんな感情を抱きつつ、東京都立九栗丘高等学校の入学式が始まろうとしていた。