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探しものは4月の距離  作者: 候岐禎簾
第三章 探しものは4月の距離
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#3 春ノ電車

 ――ガタンゴトン――ガタンゴトン――

 景色が流れる。ゆっくりとした時間を刻みながら。車窓から見える世界は私を感傷かんしょうの彼方へいざなってくれた。なんだか地元に近づく度に見慣れた風景が私を迎えてくれてるような気がする。


「もう春なんだね」

 まだ桜は咲いてないけどなんだか外の空気でわかる。河川岸かせんぎしえる青々とした木々を見てると途端にそんな言葉が思い浮かんだ。

 電車は進みビルばかりの風景から田んぼが目の前いっぱいに広がる景色へと変わっていく。あれだけたくさんの人が乗ってたこの電車も各駅停車するごとに減っていき今では私と数人の人だけだ。お金を少しでも節約するために鈍行列車に乗った訳であるが、なんだかとても貴重な経験をした。


 久しぶりに訪れた見慣れた駅舎はその変わらない姿を私に見せてくれた。木造二階建ての小さな駅舎。でも、この駅舎にはいろんな思い出が詰まっている。高校生活の三年間、私はこの駅から電車に乗った。

 過ぎた季節の数々は私にいろんな景色を見せてくれた。晴れた日には希望を。雨の日には憂いを。その全てが今となっては大切な思い出だ。


「はぁ……」

 果てしなく続く線路を見つめながら私はついため息をついてしまった。手にもった小さなカバンが急に重く感じる。その後、休日にも関わらず人気の疎らな駅舎内をゆっくりと進み外へ出た。


 駐輪場に通りかかった時、東藤君と最後に話した自動販売機があった。そこで売られているジュースの値段の変化がとても印象的だった。

 その時、ある雪の日のことを思い出す。その日、何年かぶりの大雪にみまわれたこの地域は一面雪景色だった。空から降り注ぐ雪の粉はとても綺麗で、でもそれでいてどこか儚くて……。その日は電車のダイヤも乱れに乱れ乗客達はいつ来るかわからない電車を待っていた。何か暖かいものを買おうかな。そう思った私はこの自動販売機でホットコーヒーを買った。そして出てきた缶コーヒーの温かさを今も忘れることはない。


「よし、そろそろ行こうかな」

 暖かいひだまりの中を私は一歩ずつ前へと進みだした。私の足元には寂しそうに一輪のサクラソウが咲いていた。その時はまだ気づかなかったけど。


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