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語り継がれた物語

作者: 傍観者

 脈々と受け継がれるひとつの物語があった…

 ひとりの少女が世界を救い平穏を取り戻した、と…

 だが、それには代償がついていた…

 それは少女の存在そのもの…

 少女の存在を『消失』させることにより平穏を取り戻す…

 当時の人々にとっては喜ばしいことだった…

 だが人々は、それを望まなかった…

 なにせ、少女をこの世から消し去ってしまうからだ…

 そのような人々の意思に反し、少女は自ら、自身の存在を『消失』させた…

 存在の消失により、人々から少女の記憶が『消失』した…

 誰も覚えてはいない…

 書物の記録にも…

 仲間達の記憶からも…




 小さい頃、母からよくこの物語を聞かされた。母は自分の父、僕から見れば祖父から聞かされたと言っていた。小さい頃はよくわからなかったが、今にして思えば、矛盾していたのに気付き、疑問に思った。


 『何故、その少女を覚えているのだろう』


っと…。

 母に聞いてみたが、母も同じように祖父に聞いて結局、祖父も「わからない。」と言っていたらしい。母は、「誰かが覚えていたのよ。」と思うことにしたそうだ。語り継がれているのだから当然だろう。

 だが、僕には『そうなのだ』と納得することが出来なかった。まるでそれを納得することを許さないような、形を持たない思いを持ちながら…。




 物語に疑問を覚えた僕は、少女について調べることにした。いまの時代、インターネットというものが普及したため様々な情報を調べ、閲覧することができる。『もしかすると他にもこの話を知っている人がいるかもしれない』と思いインターネット上で行われる、いわゆる『書き込み』というものをしてみた。母から聞かされた物語を丁寧に打ち込んだあと、このように質問した。


 『このような物語を知りませんか?』


っと…。

 返答は、その日のうちにきた。内容は様々だった。


 『面白い話ですね~。何の小説ですか?』

 『色々な文献を読みましたが、そのような物語は聞いたことがありません。』

 『自分で調べろ』

 『マンガなんて見ないんでわかりませんッ!!すみません…』


 200人ほどの返答全てに目を通したが、知っている人は誰ひとりとしていなかった。もっとも、返答してくれた人が200人ほどと少なかったからなのかも知れないが…。その日から、僕は物語について深く興味を抱き始め、調べることに没頭していた。




 物語を調べてから2年がたった。相も変わらず、知っている人は見付からなかった。そんなある日、母から『おじいちゃんの住んでいた家を取り壊すことになったから、中に残っていた荷物の運び出しを手伝って欲しい』と頼まれた。それといって断る理由も無かったため、調べる手を止め、祖父の家へと向かった。祖父の家は、代を渡って受け継がれた古い家で、周辺は山に囲まれ、人が住む村からかなりの距離がある。祖父が亡くなってから誰も住んでおらず、だいぶ傷んでいたため、親戚の間で取り壊しが決まったらしい。祖父の家に着くなり、早速、荷物の運び出しを始めた。押入れを片付けていたとき、一冊の古い書物を見つけた。




 書物には何かの記録を記したものだと、僕は思った。理由はなく、ただの直感だった。書物に書かれていた文字は、見たことがないものだった。様々な国・時代の文字を調べてみたが、当てはまるものは無かった。僕は諦め、書物を保管することに決めた。その時、書物の間から1枚の紙が落ちた。それは、この書物の文字を現代の文字に置き換えたものだった…。




 気が付けば、あたり一面が変わっていた…

 空は澄んでおり、木々が立ち並び、水の流れる音が聞え、鳥や動物達の鳴き声が聴こえる…

 先程まで、真っ赤に染め上がった空に、変貌した人々がいた筈だが今は見当たらない…

 いまここに居るのは、私の仲間と生き残った人々だ…

 どれだけ見回しても、彼女の姿は見えなかった…

 『存在の消失』…

 新しく創られた世界には、彼女の存在を『消失』させることで創り上げられたと、私には思う…

 なにせこの世界は、彼女が思い描いていたものと似ていたからだ…


 世界が創り変えられてから十年が経った…

 人々は平穏に暮らし、笑顔が絶えることは無かった…

 だが、この十年である出来事が、闇の中へと葬られた…

 それは、『世界を創り変えた』ことと『彼女の存在の消失』のことであった…

 どちらも、伝え続けても問題はないことだ…

 それを人々は伝えることを禁じ、書物にも記さなかった…

 それは、この先の未来の為だった…

 いまの世界では魔力が消失し、魔法を使うことが出来なくなった…

 しかし、魔法に代わるものが五年ほど前に造り出された…

 それは魔力を持たない者でも魔法と同じ様な現象を起こせる奇怪な道具だ…

 それを造り出した者は、この世界が創り変えられた方法を知らない者達の一人だった…

 そのような人が、もし仮に、彼女が使用した『世界を創り変える』という魔法を知ってしまったら、同じ様なものをその奇怪な道具で造り上げてしまうかもしれない…

 そんな危惧からだった…

 幸い、世界を創り変えるとき近くにいた人々はその場で村を起こし生活していたため、その魔法が知り渡ることは無かった…

 私は、今では使われず廃れてしまった『創り変えられる前』の世界の文字を使うことを条件に、いままでの出来事をこのように記すことにした…




 書物を翻訳し読み終えた僕はその壮大な真実に呆けていた。勿論、信じているわけではない。『作り話だ』と一蹴出来る内容だ。だが、否定をすることが出来なかった。『それが真実なのだ』と形となった思いを持ちながら…。


 書物の内容は伝えず、母から聞いた物語を僕は語り継ごうと決めた。なにせ、僕にまで語り継がれたほどなのだから、この先の未来にも残しておきたい。この物語を聞いてどう思うかは分からない。僕のように調べあげるかも知れないし、僕とは違い、語り継ぐことはないかも知れない。それでもやはり語り継ごう…


 この『語り継がれた物語』を…。

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