#1 兵器消失事件
パッと思いついたお話です。
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「…という訳だ。君達には、この難解な事件に対処してもらいたい。」
「いや、無理でしょう!?」
ここは某県のとある警察署。そこの一室に、数十人の捜査員と警察官が集められていた。
この、事件―というには不可解すぎる謎に立ち向かうべく、集められたのだ。
―数日前、世界中の軍事博物館に保管されていた、旧大戦時の戦車、装甲車が一斉に消失するという事件が勃発した。
日本の陸上自衛隊武器学校、ロシアのクビンカ博物館、フランスのソミュール戦車博物館……世界中の博物館に展示してあった、ありとあらゆる兵器が一夜の内に姿を消したのだ。
当然、世界中の警察は一斉に捜査を開始、軍隊をも派遣して調査にあたっていた。
…が、今に至るまで何一つたりとも情報を得る事は出来ていないのだ。
「犯人がいると仮定して、戦車で向かって来たらどうするのです!?警察車両じゃ歯が立ちませんし、拳銃なんて効果が無いに決まってます!せめて、自衛隊の軍用車両を…」
「それも申請中だが…下手に動員すると、うるさい輩も日本には居るからな…いつになるか分かったモンじゃない。」
捜査本部長と、捜査に駆り出される捜査官とで、激しい論争が沸き起こったが、政府からの命令となれば出動せざるを得ない。
実際、日本中の警察がこの事件を解き明かそうと動いており、些細な痕跡でも見逃すまいと必死になっている。
そして、数十分後には警察署からパトカー数台が一斉に走り去っていった。
*
「あー、こんなの洒落にならねえって。無理だろ無理。」
「まあまあ、落ち着いて下さいよ沢辺さん。」
場所はとある森林地帯。捜査員となった俺ら二人組は、パトカーに乗ってここに森の入り口まで来ていた。
俺は沢辺 良一。この事件に駆り出された捜査員だ。…というか、何なんだよこの事件(?)はよ。
日本だけじゃねえ、全世界から戦車や装甲車が消えた、なんて大事件、俺らみたいな奴が捜査できると思うか?
国によっちゃ、軍隊を大々的に使ってまで調査してるらしいけど、まだちっとも進んでねえらしいじゃねえか?そんなの無理だっての。
「んな事いったってよ霧野。もし俺らの目の前に戦車が来たとしてよ。俺らは何ができるんだ?」
「拳銃で威嚇…くらいですかね?」
「バカか、主砲でドーンで終わりだよ。まあ、発射できるかは疑問だけどな。」
んで、間抜けな事いってるのは相棒の霧野 陸夜って奴だ。もう23歳になるってのに、見た目は中学生とか高校生にしか見えねえから、よくバカにされるんだよなコイツ。というか、よく警察学校入れたな?
「犯人はどんな奴なんでしょうね?絶対に複数犯による犯行だとは思いますが。」
「まあ、一人でこんな荒事は無理だろうけどな。複数犯にしろ、ただのマフィアとかじゃねえのは確かだぜ?」
「え?どうしてです?」
「普通に考えろ。全世界から一斉に消えたんだぞ?何千人規模の人間が必要だ。…それだけじゃねえ。未だに割り出せない程の緻密な運搬ルート、全世界の警察の目から逃げられるレベルの痕跡の隠蔽、それらの人員を普通に扱える組織なんて、世界中探しても見つかる訳ねえよ。」
そう。これが一番不可解な点だ。
事件発覚から数日が経つ今でも、いまだに盗んだルート、容疑者、痕跡、どうやって盗み出したか等、基本的な情報すら全く掴めていないのだ。日本だけじゃなく、世界中の警察や軍隊が、だ。
そんな組織には心当たりはないし、世界で有名な諜報機関……CIAやKGBですら不可能だろう。
「じ、じゃあどうやって…」
「知らん。だから、俺らがこうやって何もない場所でボケーッっているのも無駄だと言ってるんだ。」
こんな事するくらいなら、自転車泥棒の検挙でもやっておいた方がマシな気がする。
「な、なら形だけでも捜査を――」
と霧野が言い出した時、沢辺は何かを聞き取った。…聞いた事ないような音。
「…待て、何だ?この音は?」
「え?」
キキキ…と、何かの機械音が聞こえる。と同時に、何かの影が森の中で動いているのが見えた。
中々大きいシルエット…これは…まさか!?
「おい霧野!無線だ!応援を寄越せと言え!」
「えっ、ちょ、ちょっと待って下さい!あれは…」
「バカ野郎!あれは昔の戦車――」
バォン!と爆発音が聞こえた瞬間、俺らから数メートル離れた位置に停めてあったパトカーが爆発した。幸い破片によるケガは無かったが…これは…
「だ、ダメです…今ので無線が…」
「クソッ、逃げるぞ!どうにもならん!」
沢辺は完全に森から出てきたソレを見た。
…俺は昔から、よく世界大戦モノのゲームをやってたから有名な戦車の名前や形は大抵分かる。だから、俺は目の前に現れた戦車が、何であるか一発で分かった。
「…ルノーFT17だ。」
「る、るのーえふてぃー…?って、何ですかそれ?」
唖然とする二人に、戦車は主砲を向けた。
―ああ、ダメだ。これは逃げきれない。俺らはここで死ぬのか…。
バォン!という主砲が発射された音と同時に、俺は意識を失った。
登場した戦車や銃について、簡単にですが解説していきます。(wikiまんまですが)
ルノーFT17
正式名称は、ルノーFT モデル1917年式。
それまでの戦車とは構造が全く異なり、セミ・モノコック構造の車体の上に、それまでの戦車では初の全周旋回可能な砲塔を搭載、37mm砲を装備していた。
およそ3800輌以上が生産された。