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第2話

トントントン、と軽快な音を立て階段を下りると、


「おはよー」


廊下を抜けリビングの扉を開けながら明るく挨拶。


「……モグモグ……姉さん。おはよ」


最初に私の声に反応したのは、大急ぎで朝食を食べていた1つ下の弟の栄翔えいとだった。

あれ、中学校も今日が入学式で、在校生の栄翔は休みな筈だけど。

もしかして、


「今日も早くから練習?」


「そ。まあ、今日は体育館使えないから練習試合。でも思いっきり寝坊しちゃってさ。バスの集合時間ギリギリなんだ」


よっぽど時間が無いのかそう言っている間も、ガツガツとご飯を口に流し込んでいく。

行儀悪いが今日のところは見逃してやるか。


栄翔は中学校でバレーボール部に所属し、平々凡々だったチームをセッターとして大いに引っ張って、昨年の夏の大会では全国ベスト8まで連れて行ったのだ。

その活躍はバレーの専門誌にも取り上げられ、『神の手』を持つ超新星とまで言われているらしい。

さらに、栄翔は映画に出てくる様な俳優に引けを取らない程の端整な顔立ちをしている為女性ファンが多く、私の居た中学校には非公式なファンクラブというものがあるとの噂だ。


「栄翔、……爆発しろ」


「? 何か言った、姉さん?」


「……んーん、何でもない」


聞こえないよう小声で呪詛を吐きながら、私は定位置の栄翔の真正面のイスに座る。

と、同時に、


「―――ご馳走様! 片付け今日だけは見逃して!」


栄翔が勢いよく立ち上がり鞄に弁当を詰め込むと、慌ただしくリビングを飛び出していった。


「……はあ、栄翔ってばなにしてるのよ」


そんな栄翔の様子に、やれやれとため息を吐きつつ台所から出てきたのは、これまた1つ下の妹、咲良さくら

もう既に分かったと思うけれど、栄翔と咲良は二卵性の双子だ。


咲良は私と同じ色の髪をサイドポニーテールにしている。

顔も私よりずっとシャープで、それでいて私よりも可愛らしく感じられる程に美しい。

背も160cm半ばあり、細身ながら出るところは出て、栄翔と同様そこらの女優・モデルが霞んで見えるほどの美少女だ。

さらに、成績優秀・家事万能と欠点らしい欠点が見当たらない高嶺の花……とよく知らない人だったら思うのだが、たった1つだけ欠点がある。


それは―――


「それにしても! ああっ、ブレザー着たお姉ちゃん可愛すぎ~!」


―――『極度のシスコン』ということだ。


以前にどうして私にベッタリするのか聞いたら、小さい頃に、他の子供より背が高いことで揄われ泣いていた咲良を私が庇い助けたことがあったと言っていて、どうもそれがシスコンになったきっかけらしい。


可愛い妹からの愛情表現と思えば悪くはないけど、たまーに度を超えた表現(主に貞操に関して)をしようとするので油断ならない。


「……あんた達、遊んでないで早く食べなさい」


そんなじゃれついている私たちの様子を、台所から現れた母は呆れた様子で見ていたのだった。



◇ ◇ ◇ ◇



「薫子、まだ時間は大丈夫なの?」


朝食を食べ終え、ソファーに移ってテレビを見ていると、後ろから声を掛けられた。

振り向くと、あまり見慣れない濃いネイビーのスーツを着て、普段より丁寧に化粧をした母がいた。

……うん、自分の母親にこういう事を思うと変だと思われるだろうが言わずにはいられない、かなり美人であると。

出張に出ている父も含め、藤代家は美男美女の家族だと再度確認した。(ただし、私を除く)


「ってやば、そろそろ行かないと」


テレビの左上に表示されている時刻を見ると、既に8時を回っていた。

入学式は9時から。

家と高校が近く徒歩で行けるとはいえそれでも30分弱はかかるので、少し余裕をもって家を出たほうが良いよね。


ほぼ中身が空っぽな鞄を肩に下げると、食後のお茶でまったりとしている咲良に声を掛ける。


「じゃあ咲良。私そろそろ行くから」


「あ、お姉ちゃん。もう行っちゃうの?」


母とリビングを出ると、咲良も一緒に玄関まで付いてきた。


「気を付けてね、お姉ちゃん、お母さん」


「うん、行ってきます」


バイバーイと手を振る咲良に見送られ、私は新たな一歩を踏み出したのだった。

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